第二章29 『天敵』
「なるほど。そちにもワタシの魔法は、そちにだけは通じぬか」
蛇神カドゥケウスは、不快そうに吐き捨てた。
鈴ちゃんは嬉しそうに凪を見る。
「先輩、すごいです! これなら形勢は五分五分。イーブンですね」
「いや。こちらが優勢だ」
と、俺は言った。
「そうなんですか?」
「人数の差がある。凪だけならイーブンといえる。まあ、凪ひとりの戦闘力なら劣勢もいいところだけど、凪の魔法は隙を作ることができるんだ」
「そういうこと。こんなふうにさ!」
凪が魔法を繰り出す。
「《ラファール》」
カドゥケウスは左の手のひらを向けた。
その間、俺はカドゥケウスの左側から斬りかかる。
「ダァ!」
左手は凪の魔法を打ち消すために使っているから、空いている右手に持った短剣ハルペーで受けようと、カドゥケウスはアンバランスな体勢になる。
しかし、パワーがあるから、俺の攻撃はハルペーでしっかり受けられてしまった。
「さすがに、そう簡単にはいかないか」
俺はたっと後ろに下がる。
「当然だ」
真剣な顔のカドゥケウス。
鈴ちゃんは笑顔で俺と凪を見る。
「そういうことですか。先輩は、あたしたちを魔法から守るだけじゃなく、隙を作る役割までできるってことですね」
「ザッツライト」
と、凪が鈴ちゃんにウインクする。
これらを踏まえ、俺は凪と鈴ちゃんに作戦を述べる。
「凪は敵からの魔法を打ち消し俺たちを守りつつ、ポイントを見極め魔法で攻撃。隙を作ってくれ。俺と鈴ちゃんは魔法技を絡めて攻撃。凪のフォローを受けられるよう、完全な接近戦にならないよう意識。オーケー?」
凪と鈴ちゃんはうなずく。
「了解!」
「わかりました」
さらに、俺は後ろの逸美ちゃんに頼む。
「もし敵の弱点か規則性を見つけたら報告お願いね! 逸美ちゃん」
「任せて!」
おそらく、カドゥケウスはこちらの攻撃技を把握していない。
そんな初対面の相手に、最初からすべての選択肢を見せるのは、対処法を晒すことに等しい。
さっき鈴ちゃんに「魔法技を絡めて攻撃」とは言ったが、俺は《雷火》を使うのも軽率にはしない。
特に、大技になる《天空の煌星》はここぞというときまで絶対温存。
それは鈴ちゃんも同じだ。
また、逸美ちゃんにも、味方の能力を上げる補助魔法も温存してもらっている。
手の内を見せないのは、手札を見せてトランプしても勝てるはずがないのと同じ理屈である。
敵との距離を測りながら、俺たちは戦う。
「《ブラスト》」
カドゥケウスが俺に向かって魔法を唱えると、凪が俺の前に入って《ケリュケイオン》で魔法を打ち消した。
「ふう。気が抜けやしない」
クールに凪が言うと、カドゥケウスは鈴ちゃんに左手を向けた。
「《メルトブロック》」
しかし。
凪がカバーに入ったが、カドゥケウスの魔法は不発に終わる。
「チッ。効かぬか」
「《風のカーテン》の効果ですね!」
鈴ちゃんの明るい声に、凪が振り返りうなずく。
「ああ。光る風を吹かせたおかげだ」
「『メルト』は『溶かす』という意味。『ブロック』は『防御』。つまり、防御力を下げてくる魔法だろう」
こんなこと、言わなくても三人ならわかっていると思ったが、一応口にした。
「他の能力干渉型の魔法も効かないのは、本当に心強いわね!」
と、後ろから逸美ちゃんが言った。
当のハネコは上空をのんきにふかふか飛んでいるんだから、たいしたものだ。
敵の攻撃に備えて構えつつ、凪が挑発的に言ってみせる。
「ぼくたちには、キミの魔法は一切通用しないぜ」
「ぬぅ、小癪な」
不機嫌そうにカドゥケウスが口元をゆがめた。
そのあとも。
剣と短剣を交え、
鎌と短剣を交え、
タイミングを見て、
凪が魔法を唱えた。
「《ラファール》」
ここだ。
俺と鈴ちゃんは、左右から一斉に魔法を唱える。
「《雷火》」
「《牡丹雪》」
カドゥケウスは、左からの俺の攻撃を防ぐことはできなかった。
右側からの鈴ちゃんの《牡丹雪》を、短剣ハルペーで防ぐだけで手一杯。
うまくいった。
よし。
ここはさらに追撃。
俺は《天空の剣》を大きく振りかぶり、斬りかかろうした。
そのとき。
カドゥケウスの下半身に巻きついていた二匹のヘビが、俺に襲いかかった。
「くっ」
まさか、――
いや、可能性として考慮はしていたけど、ここまであえて動かさなかったとは。
相手に手の内は簡単には見せない、手練れのようだ。
ヘビの動きは素早い。
しかも二対一。
即座に剣を下げ、ヘビを斬るようにぐるんと振り回す。
けれど、俺はダメージを負ってしまった。残りHPが八分の一ほどになる。
ただ、ヘビの動きに気づいた鈴ちゃんも反対側から物理攻撃をしてくれて、なんとか俺はカドゥケウスから離れることができた。
「《ブラスト》」
「あぁっ!」
しかし、助けてくれた鈴ちゃんがカドゥケウスから直接魔法攻撃をくらってしまった。
攻撃をする瞬間、それがもっとも守りと警戒が手薄になる。それを知っていて狙ったとしか思えない。
カドゥケウスめ、うまく隙をついてきた。
幸い急所は外したが、それでもかなりのダメージだ。
鈴ちゃんの残りHPが三分の一も減った。
「大丈夫!?」
「はい、なんとか」
気丈に答える鈴ちゃん。
やはり、カドゥケウスはかなり強い。風魔法のパワーも桁違いだ。おまけに戦術的な戦いができる。
「ごめん、鈴ちゃん」
「いいえ。このくらい、たいしたことありません」
くそう。
「武器の右手、魔法の左手、そして二匹のヘビ。どうやら戦力は五分、イーブンみたいだな」
俺の頬に、つーっと汗が伝った。