第二章30 『二匹のヘビ』
攻撃手段は、近距離の短剣ハルペー、遠距離の風魔法《ブラスト》。
カドゥケウスには中距離技がなく、物理技は近距離のみ。
それも、短剣ハルペーによる超近距離。
魔法技は中距離技になり得ても、短剣ハルペーは近づき過ぎなければ届かない。
なんともかゆいところに手が届かない。
そのため、俺たちは中距離を保ちながら、攻めあぐねている状況だった。
一度なら攻撃を受けても耐えられるが、二度もダメージを受けてしまったら、なにかの拍子でいつゲームオーバーになってもおかしくない。
カドゥケウス、簡単にはかすり傷すらつけられたくないクラスのパワーを持った敵だ。
俺は一度使った技、《雷火》を見せ技として唱えた。
「《雷火》」
これによって、鈴ちゃんが下がってカドゥケウスから距離を取る。
凪の魔法とタイミングを合わせてないから、残念ながらヒットにはならないが、鈴ちゃんが危険域――つまり近距離帯から出られたからそれでいい。
ここで、逸美ちゃんが俺たち味方全員を回復する。
「《ヒールシャワー》」
これで俺たちパーティーは体力全快。
さっき深手を負った鈴ちゃんも、HPが満タンになった。
「逸美さん、ありがとうございます」
「サポートは任せて!」
と、逸美ちゃんは鈴ちゃんにウインクした。
相手のHPがどれほど減っているかわからないけど、少なくとも俺と鈴ちゃんの大技を一回ずつ入れただけでは倒せないだろう。
「《韋駄天の翼》」
約一分。
素早さ2倍の効果はそれしかもたないので、鈴ちゃんが魔法を唱え直してくれた。
逸美ちゃんもバリアを貼り直す。
「《フィジカルバリア》、《マジカルバリア》」
一応、凪がカドゥケウスの魔法を打ち消せるとはいえ、《マジカルバリア》も貼ってくれたようだ。
さて。
仕切り直し。
実は、俺は逸美ちゃんに頼んでいたことがある。それは、味方の攻撃を一度だけ2倍にする魔法――応援魔法を使用するタイミングの合わせである。
――俺が逸美ちゃんと目を合わせたら。
それが《攻撃上昇応援》と《魔力上昇応援》を俺にかける合図。
だが、その前に。
俺は自身の能力上昇魔法を唱えた。
「《神機妙算》」
これで俺の魔法攻撃は2倍。
「《ラファール》」
攻撃が俺に向かないよう、凪が風魔法でカドゥケウスの動きを止める。
凪が作ったこの隙に、魔力を上げた俺が魔法を放つ。
「《雷火》」
鈴ちゃんもいっしょに「《牡丹雪》」を唱える。
それも、俺の魔法が直撃するよう、自分の魔法がおとりになるタイミングで。
「ぐぁ」
カドゥケウスの反応を見るに、やはり2倍の効果は大きいようだ。
「仕掛けるぞ!」
俺はみんなに声かけした。
「おう」
「はい」
第一波だ。
「《国士無双》」
自身の物理攻撃を2倍にする。
「《ラファール》」
「《牡丹雪》」
「《雷火》」
凪、鈴ちゃん、俺、と三人で連携攻撃をして、俺はさらに雷火をまとった《天空の剣》で斬りかかった。
力負けせず、短剣ハルペーを弾き、カドゥケウスの身体に初めてちゃんと入れられた。
しかしすぐに払われる。
逆に俺もダメージを負うが、これは計算内。
いや、ハネコの《かぎしっぽ》のおかげか、カドゥケウスの攻撃の焦点がわずかにずれて想定よりダメージが少なく済む。そのおまけが、次のモーションへの入りやすさ。
ちょっとしたラッキーだ。
魔力2倍はあと3回。
畳みかける!
鈴ちゃんの《氷晶の鎌》をカドゥケウスが受け、俺の攻撃を二匹のヘビが絡め取ろうとする。
「《雷火》」
これを2回、それぞれのヘビに放った。
すると、ヘビはダメージを受けて動きが鈍る。
魔力2倍はあと1回。
余裕を持って俺は一度後退できた。
続いて、
第二波。
俺は逸美ちゃんを振り返った。
目が合う。
「《攻撃上昇応援》、《魔力上昇応援》」
逸美ちゃんが俺に、二つの応援魔法をかけた。
その隙に、凪は自身に魔法をかける。
「《英華発外》」
凪自身の魔力を、一度だけ3倍に。
鈴ちゃんに能力上昇はなにもないが、とっておいた大技がある。
「《ラファール》」
「《氷河を刈る鎌》」
凪と鈴ちゃんのコンボ攻撃。
ここで。
試していなかったことだが、予想通りにハマったことがひとつあった。
それは、凪の魔法攻撃の威力が高ければ高いほど、その間カドゥケウスに生まれる隙が大きくなること。
現に、凪が放った《ラファール》はこれまでカドゥケウスが使ってきた《ブラスト》よりパワーがあり、部屋中に風が吹き荒れたほどだ。
また。
さっきまでの《牡丹雪》と違って鈴ちゃんの攻撃は、《氷晶の鎌》を使った物理攻撃の側面もある。
威力は《牡丹雪》よりずっと上。
カドゥケウスは受けることでギリギリ。
「さあ、終わりだ! 《天空の煌星》」
最後に、
第三波。
俺が《天空の剣》から大技を繰り出した。
攻撃力、魔力ともに、2倍×2倍で、しめて4倍。
がら空きの身体を守るように二匹のヘビが襲いかかるが、さっきの《雷火》で動きも鈍り弱っていたため、4倍の攻撃力と4倍の魔力を秘めた《天空の剣》は、二匹のヘビを容易に貫通する。
ビッグバンと名がつく通り、光る刃に接触したら爆発が起きた。
そして。
「くぁああぁあ!」
カドゥケウスの身体をバッサリと、爆発も起こして、完全に斬った。
爆風が吹きすさび、爆発と共にポリゴンが崩れるエフェクトがかかる。
「まさか、このような人間ごときにやれるとは……。そちらはいったい何者なのだ……。くぅ……魔王様に、このことを、伝え……ねば……」
そのまま、カドゥケウスのポリゴンが崩れきって、消えてしまった。
俺たちは強敵相手の勝利を実感し、小さく息をつく。
魔法技を、俺たちだから封じられた。だからこそ、この人数でもあれだけ戦えた。俺たち以外のパーティーからしたら、相当に手強い相手だったろう。
カラン
短剣ハルペーが、床に落ちた。
凪はそれを拾う。
「おお、いい短剣じゃないか。ぼくがもらっていいかい?」
「いいと思うわよ。その形の短剣はハルペーっていって、ヘルメスが使っていた短剣と同じだもん」
と、逸美ちゃんが言った。
「じゃあ、ぼくにぴったりだ」
満足そうに凪は短剣を器用にくるくる回して、懐にしまった。
ハネコも戦闘が終わったことに気づき、鈴ちゃんの肩に戻る。
「ありがとうね、ハネコちゃん。《風のカーテン》のおかげよ」
と、鈴ちゃんはハネコを撫でている。
しかし、このとき。
俺は見逃さなかった。
蛇神カドゥケウスは、最後の力を振り絞って二匹のヘビを蘇生させ、復活したヘビがいて、その二匹は部屋の隅に逃げ、石の割れ目から逃げようとしている。
「《雷火》」
手を向け魔法を放つ。
が、ヘビを透過してしまった。
「これは、倒せない……?」
つまり。あのヘビを使いとして、魔王に知らせるのか……。
ヘビは、割れ目を透過するようにすり抜けて行った。
部屋の隅を見ていると、凪が俺の肩に手を置いて言った。
「あれはどうせ仕様だよ、攻撃しても倒せないね。きっとぼくらが《ルミナリー》のアイテムをひとつ入手するから、魔王がぼくらを認識するのさ。まあ、認識してどうなるかはまだ不明だけれど」
ああ、と俺はうなずく。
「マジメな顔してないで、いまは素直に喜ぼうぜ、相棒」
「かなりの強敵でしたけど、勝ちましたね!」
「良い勝負だったわ」
鈴ちゃんと逸美ちゃんも駆け寄ってきた。
凪の言うように、二匹のヘビのことは一旦忘れていまは素直に喜ぼう。
俺もカドゥケウスに勝った喜びをみんなと分かち合う。
「うん、やったね。あとは、扉の先に、宝玉がある」
宝玉――すなわち、《ソロモンの宝玉》が。
凪がドアの前まで走って、手をかけ振り返った。
「行こうぜ」