魔の支配する第七領域『9thプレイヤー:ジル・アガリス』1
名称:ジル・アガリス
年齢:20(0)
性別:男
階位:10
主職:戦士 副職:魔術師 複合:魔戦士
能力値
筋力:B 頑健:C 敏捷:D 知力:D 魔力:C
主職スキル
近接武器取り扱い:E 長柄武器取り扱い:C 体術:D 盾:E 鎧防御:C
副職スキル
魔術:D 魔力視:E 魔術抵抗:E
複合スキル
身体強化:D
その他スキル
直観:D 不屈:D
門の加護:EX(1)
案内人を名乗った存在曰く、今居るこの場所は、12個の遠からず滅ぶであろう世界を切り取り、或いは凝縮して繋ぎ合わせる事で出来上がった世界らしい。
実に眉唾の話だが、その真偽はどうでも良い。
大事なのは、本来は生まれ変わらずに消滅する筈の魂だった俺達が、もう一度身体を得てこの世界で生きられるって事だ。
しかもこの世界で、案内人からの頼まれ事を手伝えば、今の生が終わっても、次、またその次と言った魂の輪廻、生まれ変わりを保証してくれると言う。
そもそもたった一度だけでも、肉体を得て動き回り、酒を飲んで飯を喰らい、女をこの腕の中に抱く生きる喜びを感じられる事は、間違いなく望外の僥倖だ。
例え悪魔の囁きであっても、抗いがたい誘惑である。
そうして俺は案内人から説明とチュートリアルを受け、喜び勇んでこの第七領域へやって来た。
俺が新しく得た名は、ジル・アガリス。
再びの生を得た事は喜びで、そこには何の後悔もないが、……でもこの第七領域、バーノルーダを選んだ事だけは、実は少しだけ後悔している。
そもそもこの第七領域の七って数字は、案内人が十二の領域を、俺達アガリスが探索する際に予想される危険度の順に並べた物だ。
尤もこの内の第一領域と第二領域は、安全ではあるけれど世界の殆どが既に滅んでおり、探索する必要はないと判断された領域らしい。
第一領域の元となった世界は、神々の戦争によって99%が滅び、只一柱だけ世界の滅亡を何とか防ごうとした神が必死に保護した島のみが残ったと言う。
つまり第一領域はその島が全てで、無害な動植物と妖精のみが暮らす楽園だった。
第二領域の元の世界も似た様な物で、こちらを滅ぼしたのは神々でなく、技術を発展させて力を持ち過ぎた人間だが、その世界はほぼ全てが死の灰に覆われて滅んでいる。
唯一、その死の灰の層すら突き抜けた、高所に達する最高峰の山の頂上だけが滅びを逃れたそうだ。
この世界にはその山頂部分のみが持ち込まれ、各領域を遮断している壁に覆われ、空を飛んでいるらしい。
なのでまともに形を残しており、探索する必要があるのは第三領域から、あの先駆者が降り立ったミルノーシェ領域が最も危険度の少ない場所となる。
にも拘わらずアンデッドと言う危険が身近に潜む場所だったのだから、他の領域の危険度は推して知るべしだったのに。
あの時の俺は、先駆者がアレだけ活躍できるなら自分はもっと難易度の高い場所でも通用するのだと、信じて疑わずにこの領域を選んでしまった。
このバーノルーダ領域が、どれ程に厄介な場所なのかを知りもせずに。
「ジル兄、敵接近」
森を切り開きながら先頭を進んでいたメリナが、警告の声を発して足を止める。
彼女もアガリスの一人で、確か十二番目に身体を得た魂だ。
俺は横目に後二人、十一番目であるグルジア・アガリスと、十五番目であるジュルチェ・アガリスが武器を構えるのを見てから、自らもスレッジハンマーを肩に担ぐ。
メリナは先駆者と同じく狩人のジョブを持っているから、森の中で敵を見誤る事はない。
武器を構えて待ち構える俺達に対し、躊躇う様子もなく襲い掛かって来るソイツは、このバーノルーダ領域で魔物と呼ばれる存在だった。
無論他にも魔物が居る領域はあるだろう。
しかしこのバーノルーダ領域では厄介な事に、全ての魔物に共通する特殊な能力がある。
「オォォォラァッ!」
全力で振り回したスレッジハンマーが飛び掛かって来た魔物、ダイアーウルフと呼ばれる巨大な狼の鼻面を叩き、大きく弾く。
本来なら、並の獣よりもずっと頑丈な魔物であっても、スレッジハンマーの一撃まともに鼻に喰らえば、鼻血の一滴位は流すだろう。
けれども弾き飛ばされたダイアーウルフは全くの無傷で、それどころか痛みを感じている様子すらない。
そう、確かに俺はスレッジハンマーをフルスイングしたけれど、その一撃はダイアーウルフの肉体には届いていなかったのだ。
俺の一撃を阻んだ物。
それこそが、このバーノルーダ領域の全ての魔物が持つ特殊能力、魔力障壁だった。
魔力障壁とは、魔物が自らの持つ魔力を使って、体外に展開する魔力を帯びない全ての物理攻撃を無効化する障壁だ。
つまりこのスレッジハンマーを何回、否、何百、何千、何万回ぶつけようとも、ダイアーウルフには何の痛痒も与える事は出来ない。
更に魔物であっても狼は群れる生き物で、唸り声と共に現れた他のダイアーウルフ達に、ぐるりと周囲を包囲されていた。
普通に考えれば、絶体絶命の窮地だろう。
だがそれは俺達が、システムの力の恩恵を受けたアガリスでなければの話だ。
俺も、メリナも、グルジアも、ジュルチェも、このバーノルーダ領域を攻略する為に必須の力、要するに魔術師のジョブをメインかサブに持っている。
そんな俺達からすれば、ダイアーウルフの群れに襲われる程度なら、多少厄介な出来事であっても、窮地と呼ぶには程遠い。
「セット、ライトニングボルト」
「セット、ブリザード」
「セット、ウィンドアロー!」
「セット、エンチャントウェポン!」
シュートの言葉と共にスレッジハンマーが魔力の光を帯び、それと同時に雷が、吹雪が、風の矢が、ダイアーウルフ達に襲い掛かり、その身を守る魔力障壁を打ち砕く。
一度砕いた魔力障壁の再展開には、魔物にもよるが少しばかりの時間が必要だ。
ダイアーウルフ程度の小型から中型の魔物で数十秒、飛竜クラスの大型の魔物なら数分間は体内で魔力を練らないと、魔力障壁は再展開されない。
そして魔力障壁が失われて居る間なら、人間が振るう普通の武器であっても魔物を殺す事は充分に可能である。
振るったスレッジハンマーが、再びダイアーウルフの鼻面を捉え、けれども今度は先程と違ってその頭部をぐしゃりと砕く。
メリナの放った矢が突き刺さり、ダイアーウルフは痛みと驚きに悲鳴の鳴き声を上げた。
グルジアはメインジョブが魔術師で、サブジョブは装備職人、つまり生産系である為に攻撃手段は魔術のみ。
でもその分このメンバーの誰よりも、放つ魔術の威力は高い。
「セット、ブリザード。……シュート!」
再び吹き荒れる吹雪に、ダイアーウルフ達の動きは鈍る。
本当は炎で焼き払うのが獣系の魔物に対しては一番早いが、森の中でそんな事をすれば発生した火災に巻き込まれる為、範囲の広い吹雪の魔術で敵を牽制してくれてるのだろう。
そんなグルジアをガードするのが、大きな盾を構えたジュルチェ。
重騎士をメインジョブに持つ彼女は、所謂タンク役として俺達を守ってくれる。
恐らく四人が全力を振り絞って戦えば、例え飛竜クラスの魔物であっても一度くらいは撃退出来るだろう。
勿論その後は体力も魔力も尽きて空っぽになるが、その位の実力はあると自負してる。
故に俺達が、ダイアーウルフ程度に不覚を取る事は、油断さえしなければまずはあり得ない。
砕き、射貫き、凍らせ、足掻く牙は盾で受け止め、群れの殲滅に要した時間は数分だった。
だが魔力の消耗を鑑みて、ダイアーウルフを殲滅し尽した後、即座に今日の探索を切り上げる事を決意する。
多少なりとも消耗した今の状態で、仮に大型の魔物に襲われれば全滅の危機があるからだ。
まだ行けるはもう危ない。
チュートリアルで案内人が言っていた言葉だが、この領域に来てそれが身に染みてわかった。
殺したダイアーウルフの身体は、全て持ち帰る。
魔力を扱う魔物の体内からは魔石が取れるし、毛皮だってそれなりの値が付く。
俺はあまり食う気はしないが、この領域の人間は魔物の肉だって喜んで喰う。
「門よ、開け」
ダイアーウルフ達の骸を担ぎ上げ、俺は門の加護を発動させた。
門の加護は、魔術師のジョブと同じく俺達全員が選択している加護で、これもバーノルーダ領域の攻略には必須の物だろう。
使用制限は一週間に一度きりだが、一度訪れた場所であれば領域内なら一瞬で俺達全員が移動出来る。
なので二人のアガリスが門の加護を選択していれば、行き帰りの往復が可能だった。
要するに探索地点をセーブする事が出来るのだ。
そして何故この加護が必須になるのかと言えば、俺が知る限りバーノルーダ領域の人間領は、大きな防壁、トレイシアス大防壁で蓋をされて守られた内側、トレイシアス半島のみだから。
バーノルーダ領域の九十パーセント以上は、魔物が闊歩し、人が決して住めない未開の地なのだ。
俺達はそんな未開の地を、門の加護と魔術を頼りにしながら、トレイシアス半島以外にも人類が生き延びた場所はないかと捜し歩いてる。
恐らくそれは、存在する筈なのだ。
何故なら俺は、メリナやグルジア、ジュルチェ達がバーノルーダ領域にやって来る前に、別のアガリスとトレイシアス半島を探索し尽し、それでも充分な情報を集めきったと案内人に判断されなかったから。
だから俺は防壁の外の探索を決意して、別のアガリスはそれを無謀だと言って、他の領域への移動を案内人に願い出た。
バーノルーダ領域の探索には、門の加護による往復が、二人以上のアガリスが必須になる。
魔物との戦いも考慮するなら、もっと多くの仲間が。
俺は諦めずにトレイシアス大防壁の防衛に参加しながら力を蓄え、他のアガリスがやって来るのを待っていた。
メリナと出会い、グルジアと、更にジュルチェが、敢えて困難に立ち向かおうとする物好きな仲間が揃った今、俺は必ずこのバーノルーダ領域を踏破する。
誰も犠牲は出さずに、この困難を乗り越えて見せよう。
そうすれば俺は、仲間達は、あの一人で前を駆け抜けて行く先駆者にだって負けないアガリスだと、胸を張って誇る事が出来るのだ。