争い渦巻く第六領域『ファーストプレイヤー:イオ・アガリス』10
次の日の早朝、それは地響きと共にやって来た。
真っ赤な揃いの鎧兜に身を固めた、騎馬武者部隊。
重量感ある馬の駆ける足音は、ドゴラッ、ドガラッとなるけれど、それが数百も重なると、ドドドドドッと地響きと化す。
あれがソウの侍大将の複合スキル、『赤備え』を発動させる為の部隊か。
私は砦の二階に潜み、それが攻め寄せて来るのを見守りながら、思わずぶるりと身震いをする。
何でも侍大将の複合スキルは、主職と副職を選択すれば後は勝手に決まる類の物ではなく、発動条件を選ばなければならないらしい。
例えばソウが選んだ発動条件は『赤備え』。
自らの配下に赤色で揃えた武具を装備させ、更に精鋭と判断される練度の部隊に仕上げなければその効果は発動しないと言う
但し条件を満たした時の効果は絶大で、赤備えの部隊全員の移動速度、反応速度、筋力、耐久力等が、全て1.5倍に上昇する。
……まるでゲームか何かみたいな効果である。
実際ここから見守る限り、こちらに向かって突っ込んで来るソウの部隊は赤色のオーラに包まれており、何と言うか大変怖い。
ソウの門の加護と合わせると、こんな部隊がいきなり背後に現れたりするのだ。
実にえげつないとしか言いようがなかった。
もしも私がミルノーシェ領域で、ワルハリア帝国のバローク・ヴィスター将軍を戦場で殺した時、彼がこんな能力を持ってたら、間違いなく負けていただろう。
まぁソウは味方だから、こんな事で恐れる意味はないのだけれど、それ位にそのインパクトは凄い物だったから。
当然ながら砦の餓鬼達は大慌てで防衛準備に走り、一部は門の前に集まってそれを押さえつけようとしている。
だから私の出番であった。
既に閂は役立たずにしてあるから、あの勢いで騎馬隊が突っ込めば軽く門は開く。
でもその際に大勢の餓鬼達が門を抑えていたならば、激突の衝撃で部隊の先頭に立って突っ込んで来るソウは、もしかしたら怪我をするかも知れない。
故に私は潜んでいた場所を飛び出して、砦の二階から飛び降り、餓鬼達で溢れる門の前に躍り出る。
「火」
そう呟いて短剣に流し込んだ魔力を発火させ、餓鬼の群れを切り裂いた。
大魔術師に質問をして、全ての妖が火の魔術に弱い訳じゃない事は、既にもうわかってる。
あの時、山姫がいともあっさり燃えた理由は、恐らく木々の多い繁る山奥の魔力溜まりで生まれた妖は、木の属性を帯びているからだと大魔術師は予測した。
何でも一部の魔術体系の理論では、木は燃えて火と化し、火は燃え尽きれば灰、土を生むと言った属性の考え方があるらしい。
他は確か、土からは金属が生み出され、金属には水滴が付着し、水は木々を育てるんだっただろうか。
恐らく十州の地ではそれに近しい考え方がされていて、故に木の属性を帯びていた山姫の魔力は燃え上がったのだろうと、大魔術師は興味深げにそう言っていた。
だが同じく、火は魔を祓うとの考え方もあり、不安から生まれた下級妖である餓鬼達にも、火は有効な攻撃手段であるそうだ。
つまりやっぱり大体の妖は火が苦手って考え方は間違ってないのだろう。
勿論、自ら火を扱う様な妖もいるから過信は禁物だろうけれども。
今の状況では短剣から発せられる火が、何よりも頼もしい。
不意の強襲に加え、自分達の嫌う火を使った攻撃を受けた事で、門の付近の餓鬼達の注意は完全に私に移ってる。
尤も注意を向けた位では、下級の妖である餓鬼は私の攻撃を防げたりはしないのだけれど。
ザクリと、短剣を振う度に数体が纏めて倒れるから、門の付近の餓鬼はみるみる間に数を減らして行く。
けれども不意に殺気を感じて咄嗟に身を翻したなら、先程まで私が居た空間を、細長い体の巨大な何かが貫いていた。
良く見れば、それは胴の太さが一抱えほどもありそうな、長い長い百足。
どうやら漸く、この砦を守る中級以上の妖が出て来たのだろう。
……でもまぁ、今更出て来た所でもう遅いのだけれども。
ドガンッと門が爆ぜ、騎馬武者達が砦の中に踊り込んで来る。
残った餓鬼が蹴散らされ、その勢いには中級妖、大きな百足も少し怯んで……、隙を見せたので炎を発する私の短剣がその頭を貫いた。
この百足が炎を苦手とするかどうかは知らないけれど、どちらにせよ単に刃で貫かれるよりも、更に炎で傷口から体内を焼かれる方がダメージは大きい筈。
頭が炎に包まれて、百足は苦痛に大きく身を捩るけれど私はそれ位で逃がしはしない。。
振り落とされない様にしがみ付きながら、短剣の刃を動かして傷口を、炎に焼き尽くされる範囲を大きく広げて行く。
撒き散らされる百足の体液も、やはり酸か毒なのか。
それに触れた肌がピリピリと痛むが、回復、解毒の処置は相手の息の根を止めてからだ。
そう言えば以前から愛用してるこの短剣も、手入れこそしている物の、私の使い方は基本的に乱暴だと思う。
今の様に炎を噴き出させる等、刃が駄目になったり刀身……、剣身? にダメージが入っていてもおかしくない。
にも拘らずこの短剣は、折れず、曲がらずに私の酷使に耐えてくれる。
名品である事は以前にこの短剣を見せた鍛冶屋が保証してくれたけれど、それ以外にも特別な何かがあるのだろうか。
ミルノーシェ領域のエルフ、ミラーシュ族の長老に驚かれた弓の様に。
そんな事を考えながらも、私はグリグリと短剣を動かして、結局身体の半ば以上の範囲を縦に裂いた。
最終的にはもがく百足を地面に押し付け、何メートルも切ったのだから、傍から見ていたらドン引きされる光景だっただろう。
幸い今は戦争中なので、ソウの配下の騎馬武者達は敵の掃討に忙しい。
私の残虐な戦闘行為を、長々と眺めてる者は居なかった。
まぁ横目に位はチラリと見て、実はドン引きされてたりするのかも知れないけれど。
やがてピクリとも動かなくなった百足は、炎が全身に及んで少しずつ灰になって行く。
百足の核は、灰となった頭部の中から見付け出した。
私は先日覚えた魔術で自分の身体から毒を抜き、皮膚がただれてしまった手に懐から取り出した布を巻き付けてから、再び短剣を握って走り出す。
次なる獲物を狩る為に。