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融合世界 - 争い渦巻く第六領域『ファーストプレイヤー:イオ・アガリス』9
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融合世界  作者: らる鳥
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争い渦巻く第六領域『ファーストプレイヤー:イオ・アガリス』9



 十州の島々を結ぶ大橋はどれも同じ様な造りらしいが、横幅は二十メートルで、長さは次の島までの距離、短ければ三キロ、長ければ十キロ程もあるらしい。

 素材は不明で、大昔から存在するのに決して壊れず劣化もしない、謎の大橋。

 私はそんな捌の島と伍の島を結ぶ大橋を、夜の月を眺めながら一人で歩いて渡っていた。

 その目的は当然ながら、伍の島を鬼より奪還する事。

 しかしだからと言って私が単独で橋のたもとの砦に斬り込み、全ての鬼と妖を殲滅して陥落させようって訳じゃない。

 このアルガラード領域に渡って来る前の、ミルノーシェ領域での力があれば、立ち回り次第では行けなくもないだろうが、残念ながら今の私では難しいだろう。


 では一体何故私がここに居るのかと言えば、こそこそとあの砦に忍び込む為に決まってる。

 さて、ここら辺が限界だろうか。

 鬼や妖の多くは、人よりも夜目が利く為、夜襲はあまり効果的ではないらしい。

 また人より優れた遠くまで見渡せる目を持つ者も、鬼や中位以上の妖の中には居ると言う。


 だが鬼の軍勢の中で雑兵扱いをされる下級妖、特に餓鬼達は決して五感に優れる訳ではないそうだ。

 にも拘らず見張りの様な雑用は、餓鬼達に押し付けて鬼や中位以上の妖が自らこなす事は少ないのだとか。

 今、私が敢えて姿を晒して歩いていたのも、その手の探知に長ける鬼や妖が、何らかの気紛れで見張りに付いていない事を確かめる為だった。

 私を見ている視線は感じない。

 もう後幾らか近付けば、餓鬼達の視力でも私を捉える事が出来るだろうけれど、厄介な探知役が居ないと確認出来たなら、これ以上姿を晒し続ける必要はないだろう。


 私は橋の欄干から身を乗り出して、

「忍法、家守やもりの術」

 なんて戯言を言いながら橋桁の裏にへばり付く。


 そう言えばシステムの話になるけれど、主職に忍者を選び、副職に魔術師を選ぶと、複合スキルで実際に忍法が使える様になるらしい。

 副職に魔術師を選んでいて、つまり魔術が使えるのに忍法が必要になるのかと言う疑問はあるのだけれど、何でも忍法は非常に出が早い技なんだとか。

 私は今の所、自分の職構成を変える心算がないからあまり縁のない話ではあるが、今後出会うアガリスには忍法の使い手が居る可能性はあった。

 因みにソウは主職が侍、副職が将軍で、複合が侍大将になるそうだ。

 後発のアガリス達は、その多くは複合が発生する職構成を選んでいると言う。


 少し羨ましいと思わなくもないが、私は今の形に愛着があるから、羨んでも仕方がない。

 但し他のアガリスで、私の様に魔術師の職を選ばずに、魔術を使えた者はまだ居ないのだとか。


 余談はさて置き、今私が使っている魔術は、先程の戯言通りに家守をイメージした物だ。

 形質を変化させたねっとりした魔力が、私の足裏と橋桁の裏を繋ぎ止めていた。

 後は魔力を操作しながら、右足のみにその魔力を集中させて左足を前に出し、その後は左足にも魔力を流して裏と橋桁の裏を繋いでから、次は右足から魔力を移動させて行く。

 そして右足を前に出して再び魔力を流して繋ぎ止めたら、一歩行周期の完成である。

 後はひたすらにこれを繰り返して進むのみ。


 見渡しの良い橋の上を見付からずに隠れ進むのは流石に難しいが、橋桁の裏を歩いて橋のたもと、砦の近くまで忍び寄れたなら、そこから忍び込むのは何時も似た様な事をやっている。

 明日の早朝、ソウの率いる部隊が橋の上を攻め寄せて来るから、砦の門を開け放つ、或いは簡単に開くように細工するのが私に与えられた役割だ。

 ソウは最初、彼の持つ門の加護を用いて伍の島内に精鋭部隊を送り、捌の島から大橋を渡って進軍する部隊と挟撃する事で砦を落とす心算だったらしい。

 だがその作戦に反対したのが、他ならぬ私だった。

 何故なら豪嵐童子、ゴーラ・アガリスが同じ門の加護を持つのなら、先に切り札を切った方が間違いなく不利になるから。


 ソウが先に門の加護を使ってしまえば、再び使用可能になるまでの一週間、ゴーラの門の加護での移動に追い付く手段はなくなってしまう。

 橋と言う限られた空間を進軍して正面から砦を攻めるのは確かに困難極まりないが、それでも今は切り札を切ってしまうべきじゃない。

 私はそんな風に主張した。

 そしてその代替案として、私は砦に潜入する。

 それは私自身が言い出した、つまり何時もの方法だ。



「よいしょっ」

 小さく呟き、終点となった橋桁の裏から橋台に飛び移り、そのままベタベタと家守の魔術を維持したままによじ登って、ついでに砦の防壁もよじ登って、侵入を果たす。


 私がこうすると言い出した時、ソウは目を見開いて、

「教えられて知るのと、実際に目の当たりにするのでは、やはり大違いなのですな。イオ殿はそうやって、躊躇わずに前に進んで困難を切り抜けて来られたか」

 なんて事を言っていた。

 何でも後発のアガリス達は、その活動例としてミルノーシェ領域での、最初の頃、大体グリフォード王国辺りでの私の活動記録を依頼人から見せられているそうだ。

 ダイジェスト版にはなっているが、映画館みたいな大画面で。


 依頼人には、プライバシーって考え方はないのだろうか。

 まぁそれもアガリスとしての役割の内なのかも知れないけれど、流石に少し照れ臭い。


 だけどもそれは、後発のアガリス達が私の手の内を少し知ってると言う意味でもある。

 ソウは盛んにそれを警告してくれたのだけれど、……私としてはその点は然程問題に感じなかった。

 だってグリフォード王国での活動は本当に最初の頃だし、ごくごく短い時間に過ぎない。

 しかもそれをダイジェストで見た位では、私を理解する事は難しいと思うから。


「ギィッ!」

「ギギッ」

 物陰に潜んだ私の近くを、腹の突き出た子供位の大きさの妖が、ギャイギャイと数匹通り過ぎて行く。

 どうやらアレが噂の餓鬼だろう。

 決して強そうには見えないが、乱杭歯に長い爪、もし数匹が一斉に飛び掛かって来て捕まれば、それ等が容赦なく肉を抉るに違いない。


 確認した砦の門の開閉機構は純粋に人力で、それを塞ぐのは閂だった。

 成る程、これは有り難い。

 機械式の開閉システムなら、門を開いた後はそのシステムを破壊するか、操作する場所を守り続けなければならなくなる。

 けれども原始的な閂ならば、少しの細工で充分だ。


 私は見張りの餓鬼達の目を盗み、門に近寄り短剣を振るい、そしてその場を離脱する。

 閂には斜めに大きな切れ込みが入り、少しの衝撃で二つに割れるだろう。

 後はこの砦のどこかに潜んで、ソウの部隊が攻めて来るのを待つばかり。


 本当は折角忍び込んだのだから、砦を守る指揮官の、鬼か妖の首でも狙いたい所だけれど、下手に騒ぎを起こせば折角の細工が露見して無駄になりかねない。

 私はジッと我慢して、気配を消して時を待つ。





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