ゲームに登場しない彼らは
草原に出ると、柔らかな風が二人を包み込んだ。
イザベルは小さく目を細め、微笑みながら言う。
「風が気持ちいいね?」
レイズは一瞬考え込むが、すぐに冷静な声で応じる。
「ああ、そうだな」
口ではそう返しながらも、心は別のところにあった。
(……おかしいんだ。ゲームには、こんな人たちは登場しなかった。
名前すら明かされない存在が、ここにはこんなに生き生きと暮らしている。
彼らは一体、本来の歴史ではどうなってしまったんだ?
……消えた? 存在しなかったことになった?)
風に揺れる草花の中で、胸の奥に小さな痛みが広がっていく。
ただの背景で終わるはずだった人々に、確かな“生”がある――
それを知ってしまったからこそ、レイズの心はざわめいていた。
レイズは遠くを見つめ、草原の風に身を任せながら深い思索に沈んでいた。
「もしもーし! レイズくーん!」
不意に耳元で声がして、ハッと我に返る。横を向けば、すぐそばにイザベルの顔。驚きのあまり、思わず叫んでしまう。
「うわぁっ!! おいっ!」
イザベルはお腹を抱えるようにクスクスと笑う。
「なに考えてたのか、お姉さんに言ってごらん?」
その無邪気な笑みに、レイズはしばらく黙って見つめ返した。
(……やっぱり子供だな)
さっきまでドギマギしていた気持ちはすっかり落ち着き、年上としての冷静さが戻ってくる。
「そうだな……今から何年も、いや何十年も先のことを考えてた」
真面目にそう答えると、イザベルは目を丸くし、すぐにニコッと笑った。
「わぁ、なんかすごい偉い人みたいだねー」
レイズは胸を張り、どこか得意げに返す。
「当たり前だろ! 俺は当主だぞ!」
草原に、イザベルの笑い声が明るく響いた。