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断罪された令嬢は、架空の人物です。貴女は一体誰ですか?〜侯爵令嬢の不在証明〜 - 王女殿下と法改正について。
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断罪された令嬢は、架空の人物です。貴女は一体誰ですか?〜侯爵令嬢の不在証明〜  作者: メアリー=ドゥ
【表】

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王女殿下と法改正について。

 

『お義姉様ぁ……わたし、何も分からないんですぅ……』


 侯爵家で出会った可愛い義妹は、いつでも不安そうだった。

 俯き、所在なさげに過ごす様子は、どことなく不安に襲われている時のルフトに似ていた。


 そしてフライヤは、本当に何も知らない少女だった。


『可愛いフライヤ、大丈夫よ。何も心配しないで』


 ラヴィナは、そんな彼女に教育を施したのだ。

 何も知らない子ではあったけれど、フライヤは素直で一生懸命だった。

 

 けれど当然、教育は付け焼き刃以上のものにはならない。


 誰から見ても完璧な令嬢にすることなど、不可能だった。

 フライヤは上手くいかないことばかりで、いつも泣いていた。


『わたし、わたし、どうすれば……いいんですかぁ……』


 貴族学校の入学に合わせて、姿勢と通り一遍の礼節はギリギリ及第点になったけれど、文字の読み書きを含む必要な知識や教養、楽器の演奏などは、一年も経たずにどうにかなる分野ではなかった。


 刺繍などの針仕事や、癒しの魔術に関しては、随一の才能を持っているフライヤだったけれど、それだけ。

 そんな状態で『王妃になれ』という重圧に、『聖女』という肩書きの重圧に、彼女は潰れそうになっていた。


 だからラヴィナは、策を講じた。


『学校では、あえて厳しいことをわたくしがフライヤに言いますわ。本心ではないから、気にしてはダメよ。貴女を貶めようとする方々に、手を出させないようにする為です』


 ラヴィナはルフトの協力を仰いで、貴族学校ではフライヤをなるべく彼の側に居させた。

 第一王子が許すのであれば、他の者達が苦言を呈すことなど出来ないからだ。


 それ以外の時は、王女側からも嫌がらせを受けないよう、ラヴィナが防波堤になった。

 『侯爵家の義姉妹である』という事実は、ラヴィナが他の者達に先んじてフライヤに物を言い、付け入らせないようにする、十分な大義名分だった。


 けれど。


『王子殿下はあのような礼儀知らずに甘い。そんな平民上がりをめとってまで、玉座が欲しいと見える』

『婚約者の立場を奪われそうなラヴィナ嬢は、必死だな。まるでいじめているようだ』


 派閥が異なる貴族子女らからどうしても聞こえてくる、そんな陰口にすら、フライヤは心を痛めていた。


『も、もう大丈夫です、お義姉様……わ、わたしのせいで、殿下とお義姉様の評判がぁ……!』

『気にしてはダメよ、フライヤ。もうすぐだから』


 ラヴィナが、中途入学の彼女をなんとか宥めながら過ごした、一年半。


 そうしてフライヤは、高位貴族には追いつかないながらもそれなりに教養を得て、外見だけは輝くように美しくなった。

 努力を惜しまなかった彼女に、ラヴィナは素直に『素晴らしいわ』と賞賛を送った。


 やがて、外見と所作が整ってきたフライヤに、興味を示し始める令息達が現れる段になって……ルフトと勢力争いをしている王女側に、有利な法改正が可決されたのだ。


 ―――女王擁立を認める法改正が。


潮時しおどきよ、フライヤ。今までよく耐えてくれたわね……ありがとう』


 そうしてラヴィナは、義妹のことを知ってから、少しだけ変更した計画を実行した。

 フライヤは、力に目覚めたせいで聖教会に利用されているだけの、素朴な少女だったから。


『お義姉様……わたしに、王妃なんて、無理ですぅ……家族のところに、戻りたいんですぅ……!』


 フライヤの切実な願いを、ラヴィナは叶えた。


 時間をかけてこっそりと家族を説得し、王都から侯爵領に住居を移させ。

 聖女が死んだように見せかける準備を、入念に整えて。


 彼女が聖女ではなく、ただのフライヤとして生きられるよう、計画を実行したのだ。

 

※※※


「フライヤが生きている? ふふ、おかしなことを仰いますのね」


 ラヴィナが口元に手を当ててころころと笑うのに、ダーレストは逆に、パッと手を開いてみせる。


「貴女には、先ほど伝えたと記憶しているが……私は侯爵領に赴いた(・・・・・・・・・)とね。何故そうしたのか、だ」


 言われて、ラヴィナは上唇を軽く突き出し、目を細めた。


 ーーーなるほど。最初は、フライヤへの人質を取った、とでも勘繰ったのかしら?


 入学当初から、ラヴィナが何を企んでいるのかを探っていた、とダーレストは言っていた。


 ファーユ侯爵家の動きも同時に見張っていて、あの子の家族を、わざわざ王都から侯爵領に移住させたことにも気づいたのだろう。

 そして、ラヴィナの正体を探るのと合わせ、長期休暇の時期にでも領に出かけて情報収集したのだ。


 理解はしたけれど、親切に肯定してあげる理由もないので、ラヴィナは当然、またしてもはぐらかす。


「ダーレスト様のご高尚な考えは、わたくしの理解の及ぶところではございませんわ。何故侯爵領に?」

「気づいているだろう? その質問に答える意味は特にない、と判断する」


 ダーレストは自分の上唇を、親指の腹で撫でた。


「貴女にも癖はある。他人の意図を探る時に、上唇を軽く突き出す仕草だ。そして納得、もしくは理解した際には軽く目を細める。今、どちらの癖も出ていた」

「あら、気をつけますわね」


 言われてみれば、その仕草をこの場で見せるのは、二度目かもしれない。

 一度目は、ダーレストが先ほど、自分の元に訪ねてきた時である。


 ーーー本当に、よく見ていますわね。


「が、聖女フライヤが生きていても死んでいても、この先の話にはあまり関係がない。重要なのは『対外的に聖女は死亡している』という一点だ」


 ダーレストは、指を三本立てた。

 

「聖女との婚姻は為されなくとも、さて、これは困ったことになった。王女殿下に対抗する権力の後ろ盾を、ルフト殿下は失ってしまった」

「ええ、そうね」


 王女殿下……インフィー・フェリクスは、ルフトやラヴィナより一つ年下である。

 なのに、第一王子であるルフトの権力闘争相手になり得る理由は、王妃殿下にあった。

 

 ルフトは先代王妃の子であり、インフィーは現王妃の子なのである。


 流行病で儚くなった先代王妃は伯爵家の出で、王家の血を引いていなかった。

 その後に側妃から正妃に上がった現王妃は、辺境伯の娘である。


 辺境伯は、先代国王の兄に当たる人物で、王女殿下は父母共に王家の血を引いているのだ。

 

 その年齢と血統の尊さの捩れが、今回の件に繋がっていた。

 辺境伯の孫であるダーレストが事件解決の任に当たったのも、理由がないことではない。


 辺境伯令息の子が、ダーレスト・オーガス。

 辺境伯令嬢の子が、インフィー・フェリクス王女殿下。


 つまり。


「ルフト殿下は、王妃殿下(叔母上)インフィー王女殿下(我が従姉妹殿)を味方につけた宰相閣下を、相手にすることが出来なくなった」


 そう口にする彼が彼が『変人』と言われる一番の理由は、そこである。


 ダーレストは、自分の立場を全く気にしていない。

 どこの誰が、自分の家族が今正に争っている相手と……ルフトと『貴族学校で親しい友人になる』などという無神経過ぎる行動を取るのか。


 それに対して、皆呆れ返っていたのである。

 が、何も気にしない張本人であるダーレストは、あくまでもただの『事実』として、友人と家族の現状を語る。


「しかも、法は改正された。今まで伝承に従って認めていなかった『女王擁立』を認める方向にな」

「そうですわね」


 ダーレストは、約束通りに伝承を絡めて話をしてくれるようだった。


「伝承には、こうありますわね。『男児のみを王とせよ。女王が立てば国を乱す』……聖女の伝承は大切にするのに、そちらはないがしろにするなんて、不思議ですわね」

「宰相閣下側が、聖女の伝承を大切にしているという事実はないな。それを押し付けてきたのは大司教で、受け入れたのはルフト殿下側の一派だろう」

「ああ、言われてみれば」


 ラヴィナは、パッと両手を開いておどけて見せたけれど、初めてダーレストに冷めた目を向けられる。


「そもそも貴女は、伝承をくだらないと思う側の人間だと、私は考えているが」

「どうでしょう。わたくし、伝承自体はたくさん覚えておりますわよ? 『剣が折れた日に生まれた黒髪の子は、魔性である』とか、『双子は忌み子。玉座に不穏を招き入れる』とか、他には……」

「ふざけたフリは、その辺りでやめておくことだ」


 パッと手を開いて、格子越しに顔の前にかざされたラヴィナは、大人しく口をつぐんだ。

 怒らせないようにした訳ではなく、じっくり見つめる機会のなかったダーレストの手のひらを見せつけられて、思わず見つめてしまったのである。


「法改正は為され、聖女は消え、従姉妹殿の勝ちは決まった……かに思われたところで、起こったのが彼女の暗殺事件だ」


 ラヴィナが気を取られている間に、ダーレストは話を進める。


「教室移動の最中、蔦の魔術で足を取られ、階段の手すりの上から落下した従姉妹殿は、たまたま下を通りかかったルフト殿下に受け止められ、命を救われた……が」

「が?」


 手のひらが引かれて、再びダーレストが三本の指を立てる。

 ちょっと残念な気持ちになりながら、ラヴィナが彼の顔に目を向けると、視線がぶつかる。


「この件について不審な点が、三つある。『貴女が緘口令を敷いた情報を何故知っていたのか』というのが一つ。『本当にルフト殿下はたまたま下を通りかかったのか』というので二つ」


 再び射抜くような視線に変わっているダーレストは、さらに言葉を重ねる。


「そして『従姉妹殿は、何故護衛や取り巻きを連れず、側付き侍女一人を連れて移動していたのか』で三つだ」

「何かおかしなことがありまして?」

「一つずつ解いていくつもりだが、その前に、この件についても結論を述べておく。三つ目の結論をな」

「ええ、お願い致しますわ」


 ニッコリと笑って、ラヴィナが両手を合わせて頬の横に添えると、ダーレストは三本指を手首を曲げて伏せ、こう口にした。



「この件は従姉妹殿も(・・・・・)承知の上で自演された(・・・・・・・・・・)もの。ーーー彼女もまた、貴女の共犯者なのだ」

  

 

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