父親の行方
エイルは父親の痕跡を探すために狩場へ向かっている。運がよかったのか、彼が道中で黒騎士に出くわすことはなかった。
それでも、いつ黒騎士が木陰から、わっ! と飛び出してくるかと思うと、少年は気が気ではなかった。
エイルは剣の握りに触れて、わずかに震えながら道を進む。
そして、少年は鹿を仕留めた場所にたどり着いた。
解体は全て父親が済ませてくれたに違いない。乾いた血だまりが地面に広がっている。鹿の死骸は見当たらない。近くになにかを掘って埋めた跡があることから、死骸はそこに埋まっている……のだろう。
ふと、妙な考えが少年の頭に浮かんだ。もし……もし、そこに埋まっているのが父親だったら、どうしよう……。
エイルは慌てて頭を振った。
そんなはずがない! あの人は、父さんは強いんだ! そんなわけ――。
――そこで、ふたり分の焼死体がエイルの脳裏をよぎった。
エイルは生唾を呑み込んだ。
まさか。
エイルは掘り起こし跡のそばにしゃがむと、手を使って土を掘りだし始めた。大した抵抗もなく、土は掘り返されていく。
こつん。
何度か土をかき分けていると、ふいに指先に触れるものがあった。それは、体のようで――。
心臓の鼓動がうるさいくらいに鳴っている。それでも、少年は掘ることをやめられなかった。
少年は両手で土をかき分けると、埋まっているものを確かめた。すると――。
ああ!
なんと、蹄がついた脚が一本、姿をあらわしたではないか!
(な、なんだ……)
エイルの心配は杞憂に終わった。父親は黒騎士に殺されて、死体を土に埋められてなどいなかったのだ。
では、父親はどこへ――?
(……よし!)
エイルは掘り起こしたばかりの土を摘まむと、自身の舌の上に乗せた。そして、それを咀嚼した。砂利の触感の不愉快さに眉をひそめるも、少年は我慢をして、土を飲み込んでしまった。
(これで……)
エイルには父親にない才能がある。それは、過去の情報の看視。少年は、世界に刻まれた過去の記憶を垣間見ることができるのだ。
エイルが目を見開いた。
「見えた!」
表情が読み取れないほどの曖昧なぼんやりとした輪郭だけの存在――だが、確かに父親の姿をしたそれが、エイルの視界だけに存在している。
「――!」
父親と誰かが言い争いをしているようだ。相手は鎧を着こんだ人物……父親と同じ騎士だろうか?
騎士らしき影は父親の肩をつかんで、責め立てるように詰め寄っている。彼は、始めは相手に同意し、うなずいて、話を聞くそぶりを見せていたが、やがて相手を突き飛ばすと、なにかを言い返した。すると、相手は剣を抜いて、切っ先を父親に向けた。相手が最後の通告をしたようだ。父親は首を横に振り、剣を抜くと、彼らは戦い始めた――。
そこで、過去の記憶は途切れている。
「父さんは……誰と話していたの? どうして、戦ったの? なにがあったの?」
少年の問いに答える者はいない。
エイルは疑問符だらけの頭で周囲を見回した。なにか、他に手がかりは――。
……あった!
木の根元に包みがある。おそらくは鹿肉を入れたものだろう。それは放置されていたことで、虫が集っていた。エイルは余計なものを追い払うと、中身を確認した。
予想通り、鹿肉だ。まだ新しい。
きっと、父親は戦いで家に戻ることができなかったのだ。
エイルは剣を使って生肉の塊を裂くと、それを口に含んだ。
新たな過去の記憶が浮かび上がる――。