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英雄王とイストリアの白銀姫 - 89.決して騙した訳では
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89.決して騙した訳では


ガラガラガラ、ガラガラガラとよく絵本などで表現される馬車の音はずっと誇張だと思っていた。


「...それが誇張じゃないのよね。」


(わず)かに弾む自分自身と馬車そのものの音を例えるなら、確かにガラガラガラが正解だった。

いやー、本当に馬車って揺れるよね。

もう慣れてきてはいるけれど、前世のアスファルトに舗装され、震動一つ気にする必要のなかった自動車が懐かしい。

人は失くしてから大事なものに気付くってほんとだよね。

やっぱ利便性は重要だと思うの。


「ルシア、どうした?」


さて、前世ほどにないにしてもどうにか利便性を向上出来ないかな、と既にいくつかやらかしていることを忘れて考え込んでいたルシアは真横からの声にそちらを振り向く。

隣に座っていたのはクストディオ。

向かいにはノックス。

行きの座席位置をそのまま、クリストフォルスからノックスに変えただけの場所に私たちは座っていた。


「いいえ、何でもないわ。...ねぇ、帰りも行きと同じ日数で帰るのよね?」


ルシアは首を横に振って、さも今思い出したかのように予定の確認をした。

強引な話題転換ではあったが、さすがこの一月の間、誰よりもルシアの傍に居た男である。

クストディオは深く追求せず(うなず)いた。


「ああ。ただ、春告祭(はるつげさい)の準備の時間が多いことに越したことはないから、ルシアに負担にならない程度には急がせてる。」


「あー、そうよね。だって私、最低限しか時間を配分してないもの。」


春告祭の準備は例年のことなので侍女たちに任せられることは任せているし、最低限の(よそお)いが出来れば、いくら地位ある者って言ったってこんな小さな少女をまじまじ見る人は居ないしと今回の旅程は本当にギリギリまで期限をルシアは引き伸ばしていたのだった。

少し早く出立出来たから急げば確かにもっと充分な準備が出来るもんね。

それを私が望んでいるかは兎も角。


「...あの、春告祭ってイストリアで毎年(おこな)われている春の始まりを祝う祭りなんですよね?」


とはいえ、さすがにジェマが新しくドレスを仕立てる時間はないから長時間拘束はないはず、と既に別のことに憂慮していたルシアは向かいから上がった質問に目線を向けた。


「ええ、そうよ。毎年イストリアで行われている春告祭。イストリア中の街や村で平民たちが祭をやるわ。勿論、貴族である私たちも王宮で(もよお)される春告祭のパーティーへ参加するのよ。」


春告祭はイストリアの人間で知らぬ者は居ないし、他国にだって知られている一大イベントだ。

とはいえ、隣国で長いこと騎士をしていたノックスが詳しく知らないのは道理である。

だから、王宮で通用するだけの準備をする必要があるのだとルシアはノックスに説明をした。


「はあ、それは大変ですね。ということはルシア様も参加するんで?いや、するんですか?」


「あら、別に砕けた話し方で良いわよ、クストディオもそうだし、私自身もそうでしょ?(おおやけ)の場でしっかりしてくれれば良いわ。...そうね、私は絶対参加しなければならないわね。」


あっけらかんと言い切ったルシアにノックスは頬を掻いた。

そうなんだ、私自身は何もしないとはいえ春告祭の王宮内で催されるパーティーは王族主催。

主催側って休めないもんよねー。


「......デビュタント、にはイストリアでも早いですよね?え、もしかしてそれなりに地位ある家だったりするんですか、ルシア様の実家。」


多少は貴族の知識も知っているのか、ノックスはそう口にした。

確かにデビュタントなら参加しなければならないわ。

しかしながら、デビュタントはアルクスで12歳、イストリアで14歳である。

まぁ、それ以下の子供がパーティーに参加することはどちらの国でもままあるけれど。


しかし、それはそれなりの地位の家の子供が大半だ。

そこまで思い至ったのか、馬車に乗り込む前あんなに堂々としていたノックスが人形のように表情を失くした。

心なしか青褪めているようにも見える。


「......大丈夫よ、イストリアに来てまで雇えませんとはならないわ。それほど厳しくないから。」


私に対してはね、と心の中で付け加える。

いや、本来ならまず許可通らないよ。

あ、でもクリストフォルスからも一言もらっているから身元保証人を立てるという理由で許可が降りる可能性はあるか。


「明言を避けたあたり凄く怖いんですけど。えっと、イストリアのどの辺りですかルシア様の家って。」


「さぁ、4日...3日?経って着いたら嫌でも分かるわよ。」


「ええー、いやほんとに。深く考えてなかった俺も悪いですけどまさか上位貴族とか言いませんよね?いや、でも可能性はある?え、ほんとに俺、門前払いとかされませんよね?」


ルシアの口ぶりにどんどん嫌な予感を感じてか、ノックスが独り言を交えながらルシアに確認を取る。

大丈夫、クリストフォルスの推薦付きで何より私が騎士にするって言えば誰も拒否出来ないよ。

ましてや、王子を含めて全員がノックスの実力を知れば。

ニキティウスやオズバルドも援護してくれると思うし。


横からクストディオがじと目でルシア見るが、彼女は一向に意に介さない。

結局、そのままノックスははぐらかされ続けながらイストリアの王都へと連れていかれたのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ほんとに、面白いです。ルシアは冷静でありながら結構無茶もするので、仲間が増えて嬉しいです。キャラが一人一人癖があり、いいですね。これからお話がどうなるのか、とても楽しみです。
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