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英雄王とイストリアの白銀姫 - 90.王都へ帰還
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90.王都へ帰還


ルシアがアルクスから帰国して数日、早くも春告祭(はるつげさい)の真ん中に(おこな)われる王宮でのパーティー当日である。

今現在、ルシアは王子と共に対となるきらやかな礼装に身を包み、会場となるホールの入り口前に立っていた。


「そろそろ入場するからな。」


「ええ、分かっているわ。ねぇ、カリスト。何処か可笑しいところはない?」


扉前ですっと立つ王子に(うなず)いて、ルシアは最終確認の為にくるりと回った。


「ああ、大丈夫だ。」


不備がないと告げると王子は腕を構えた。

ルシアはその腕に手をかけてエスコートの形を取った。

さてと、行こう......とその前に。


「ノックス、その死んだような顔をどうにかしなさい。疲れるのはこれからよ、始まる前に疲れたような顔をしてどうするの。」


ルシアが振り向いて声を発した先にはノックスが立っていた。


「いや、緊張するなっていう方が無理です。というか、こんなに疲れているのは誰のせいですか。この国へ来た時から驚きっぱなしで俺は疲れました。」


不貞腐れたように言い放ったノックスにルシアはそっと目を逸らした。

それはルシアたちが馬車で王都に到着し、帰還した日のことである。



ーーーーー


「さあ、ようこそノックス。ここがイストリアの王都よ。」


「へぇ、ここが王都ですか...王都?え、王都ですか?」


街へと入る門での手続きをスムーズに終えて動き出した馬車の中でルシアはそう告げた。

ノックスは興味を惹かれたように外を見ようとしてルシアに振り返った。


「俺、王都に寄るなんて聞いてないんですが、もう既に春告祭に向けて屋敷を借りている訳ですか。」


「あら、借りなくても屋敷はあるわよ。」


社交会などの時に下位貴族もマナーハウスを借りたりして王都に滞在することが多いのはどの国でも同じらしく、勝手に納得しかけたノックスにルシアがそろそろ彼の現実逃避を打ち破ろうと追い討ちをかけた。


「私の生家は王都にあるわ。この馬車はオルディアレス伯爵家へ向かっているの。」


「...伯爵、家ですか。」


ルシアは旅の為の衣装を着替える為と久しぶりの帰省という形で実家であるオルディアレス家の屋敷へ向かっていた。

まぁ、父には会いたくないので兄に連絡したのだが。

ノックスは伯爵家、と聞いて考え込んだ。

伯爵家というのは間違いなく上位貴族だが、その実状は平民と変わらない暮らしをする家から公爵家にも匹敵するほどの力ある家までピンキリである。


「それは、伯爵家でも実状公爵家と変わらない、そろそろ侯爵家になるかもなんて言いませんよね...?」


しかし、ここまでのルシアの感じから素直に伯爵家でも下の方とはノックスは思えず、恐る恐るルシアに尋ねた。

その問いにルシアはふ、と笑ったのでノックスは一縷(いちる)の期待をしたのだが。


「さすがにそんなに大きな家ではないけれど。ただ、イストリアの創国の際から続く歴史ある家というだけよ。」


「え゛。」


イストリア創国当初なんてアルクスは勿論のこと、西方のほとんどの国がまだ形を成していないような時代の話だ。

ノックスは既に冷や汗だらだらであった。


「さあ、着いたわ。ここが私の生家オルディアレス伯爵家よ。」


いつの間にか貴族の屋敷が建ち並ぶ貴族街に入っていた馬車からそれなりの重厚さを持つ屋敷が見えてきた。

立地としても周囲に侯爵家以上はなく、オルディアレス家が一際大きく見えた。

その門から中に通される様をノックスは人形のようなぎこちない動きで見送っていたのだった。



「新しいルシアの騎士は応接室に?」


ルシアは普段は放置している様子がありありと分かる元自室になんだか、前世の一人暮らしから帰省した際の実家に自室が無くなっていた時の気持ちはこんなだろうかと思いながら、侍女の手を借りずそれなりの恰好へ着替え、ノックスたちが待つ応接室に向かっていた。

応接室の入り口前で兄と遭遇し、ルシアは扉を押し開けながら兄へと紹介した。


「ええ、そうよ兄様。クストディオは前に手紙で紹介しましたわね?こちらがクストディオ、こちらが今回新しくわたくしの騎士となったノックスですわ。ニキティウスとオズバルドは知っているわよね?」


急なルシアの振りにルシアの唐突さにも突飛さにも貴族にも慣れているクストディオたちはアルトルバルに目礼を返し、ルシアの唐突さにも突飛さにも貴族にも慣れていないノックスがカチコチになりながら立ち上がって勢いよく頭を下げた。

その角度は90度以上だ。


「ノックス、そんなに固まらなくても大丈夫よ。兄様はそれほど気にしない人だから。」


なんとか緊張を(ほぐ)そうとルシアが声をかけ、アルトルバルも頷くがノックスは固まるばかりである。

その様子にクストディオがアイコンタクトで大丈夫か、と問いかけてくるがルシアは困ったように笑って返した。


うーん、クストディオが緊張を解してくれたら良かったんだけど。

こういうのは苦手よね。

ニキティウスやオズバルドでも良いけれど、彼らは王子付きの人間だし、オズバルドは貴族だしで適任とは言い(がた)い。


クストディオはあまり口数が多い方ではない。

口が多少なイオンが居てくれれば助かったんだけど、今は近衛騎士団団長の元だ。

くっ、こんな時に限ってあいつは!


「...それにしても兄様。久しぶりの家での再会ですが屋敷の様子は如何(いかが)ですか。」


しょうがない、そっとして置けばそのうち慣れてくるだろうとルシアはノックスから視線を兄に向け直して屋敷の近況を聞いた。

まぁ、部屋が私の帰省を聞いて慌てて整えたのが分かる辺り、やっぱりあまりよく思われていないようだし、私としても聞いたところで気になる情報という訳でもないんだけど。


「ああ、手紙にも書いた通り特に変わったこともなく平和なものだよ。」


「左様ですか。」


そのまま、暫く立ち話を繰り返しているとノックスがあの、と声を上げた。

ルシアが振り向くとまだ完全にアルクスでの彼に戻っては居ないが緊張が解けてきたようだった。


「なあに、ノックス。」


「ああ、ええと。すみません、お二方の会話を聞いていて疑問に思ったんですが。」


「ええ。」


おずおずと言い始めたノックスにルシアは頷く。


「ルシア様は普段、こちらの屋敷に住んでいないんですか。」


「え?ルシア、彼に説明していないのかい?」


「え?」


ノックスの質問に驚いた兄がルシアへ問いかけ、その言葉に今度はノックスが驚きの声を上げた。

いやまぁね、ちょっと説明しづらいというか、なんというか。

多少、面白そうと思ったのは否定出来ないけれど。


「ええと、ノックス。実は説明していなかったのだけれど...。」


ルシアがそろそろ説明するかと口を開いた時、応接室の外からノックが響いて言葉を中断させる。

入ってきたのは兄の護衛の一人で、兄に何か耳打ちした後、退室していった。


「兄様?」


「ルシアのお迎えが来たようだよ。」


兄が告げたのはそんな言葉だった。

お迎え?

そんなことを頼んだ覚えはない、まさか......。

ルシアが驚いた目で兄を見上げると兄は頷いた。

あ、これは。


「エントランス、かしら。」


ルシアは(みずか)ら扉を開けて廊下に出ていく。

アルトルバルはそのルシアの様子にノックスたちに苦笑を見せてから後を追いかけた。


「クストディオ。」


「......行こう。」


ノックスが困惑顔で同僚となったクストディオの名を呼ぶが、彼はそれだけを言って退室していく。

ニキティウスもオズバルドも後に続いたのでノックスはまだ何かあるのか、と嫌な予感が頭痛に変わりそうになりながら応接室を出たのだった。


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