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彼女に少し嫌われたい ~俺を魔王と呼ぶ美少女と運命の出会いをしたけど、忠誠度が高すぎるので少し下げて普通の恋人を目指したい~ - 20 魔王の護衛
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20 魔王の護衛

 潮浬から千聡の情報と、昔話という名の妄想話を聞いた後。名残なごり惜しそうに午後からの仕事に向かう潮浬を見送り、夕方の少し涼しくなる時間を待って、外に出る事にする。

 目的は食材の買い出しだ。


 俺は一人暮らしを始めて数ヶ月だが、意外と料理が性に合っていたようで、基本自炊をしている。


 千聡からは炊事洗濯掃除など、家事全般を負担するという申し出もあったが、さすがにそれは申し訳なさ過ぎるので遠慮して。基本自分の事は自分でやるようにしている。なので、食材の調達が必要なのだ。


 そんな訳で、近所のスーパーに向かうべく一歩部屋を出た瞬間。俺はまたその場に立ち尽くす事になったのだった……。



「――あ、閣下お出かけですか? 自分もお供しますよ!」


 そう声をかけてきたのは、金髪長身美少女のリーゼ。そしてリーゼはまるで俺が出てくるのを待っていたかのように、扉の横に立っていたのだ。


「……リーゼ、こんな所でなにしてるの?」


「師匠の命令で、閣下の護衛です!」


 師匠はたしか、千聡の事だっけ? そしてすごく元気のいい返事だが、護衛って……。


「もしかして、ずっとここに立ってたの?」


「はい! おそばを離れたら護衛の意味がありませんから!」


「それはそうかもだけど、いつから? 今日猛暑日だったってテレビで言ってたのに……」


「昨日閣下の部屋を出てからです。そして暑さなんてどって事ないですよ、鍛えてますから!」


 ものすごく体育会系の発言で、なんかすごく嬉しそうだ。


「……って、ちょっと待って。それってもうすぐ丸一日になるんじゃない? 平気なの?」


「このくらいどって事ないですよ。師匠がごはんを差し入れてくれましたし、師匠の命令で閣下のために働いてるんです。自分、今がこの世界に生まれて一番幸せですから!」


 ……心の底からそう思っているような、純真な笑顔。

 どうやらリーゼも千聡や潮浬と同様、ちょっと変わったタイプであるらしい。


 いやまぁ、一人だけまともな訳はないと思っていたけどね……。


「そういえば、今朝潮浬がここ通らなかった?」


「はい。『ご苦労様』って言ってもらいましたよ!」


 ……なるほど、多分リーゼは『怪しい人間を通すな』とか言われているのだろう。


 潮浬は仲間だから怪しい人間ではなく、結果俺は寝込みを襲われかけた訳だが、別に危害を加えられそうになった訳ではない。

 一応、護衛の任務はちゃんと果たせているのだろう。襲われかけたけど……。


「リーゼ、丸一日もこんな所に立ってて疲れたでしょ? 護衛はいいから、家に帰って休んでよ」


 俺としては全力で気を使った発言のつもりだったのだが、なぜかリーゼは悲しそうに。泣きそうな顔になってしまう。


「それは、自分なんて役立たずだから不要という事でしょうか……」


「え、いやいやそうじゃなくて。護衛してくれるのはありがたいけど昼間暑かったし、徹夜したなら疲れてるだろうと思ってさ。護衛は……多分出番ないと思うしさ」


 この数日で、俺の対処能力もかなり上がったと思う。

『護衛なんていらないよ』と言うと多分泣かれてしまうので、半分相手の主張を取り入れた上で、やんわりとお断りするのだ。


「それなら大丈夫です! このくらいでへばるようなヤワな鍛え方はしてないですし、万一に備えるのが護衛ですから! 護衛がいらないなら荷物持ちでもなんでもしますから、お供させてください!」


「う、うん……」


 さすがは千聡の仲間と言うべきか。やんわりとお断りは全く効果がなかったようで、勢いに負けて了承の返事をしてしまう。

 なんかみんな、押しが強いよね……。



 ……そんな訳で、結局近所のスーパーへの買い物に付き合ってもらい。遠慮したのだが是非にと言われて、本当に荷物持ちをしてもらいながら帰路につく。


 パンパンに詰まったエコバッグを片手で軽々と持ち、たしか刀が入っているギターケースを背負いながら、ついでに買ったアイスをゴキゲンでめているリーゼの姿は、なんかすごくカッコイイ。


 すれ違う人達がみんな目で追っている事からしても、人目を引く存在なのは間違いないだろう。


 身長170センチの俺よりも長身で。スレンダーな体は背が高いというよりも、長いと感じるような印象だ。


 この暑いのに黒のパンツスーツ姿と、腰まである長くて綺麗きれいな金色の髪が絶妙のコントラストで。中性的な顔立ちも相まって、男の俺がなぜかキュンとしてしまいそうである。

 ……実際、荷物とか持ってもらってるしね。正直、どっちが男かわからない。



 往復の道すがら、雑談をかねて情報収集を試みてみたが。どうやらリーゼは『師匠』と呼ぶ千聡にとても懐いているようで、自分の事よりもむしろ千聡の事を、うれしそうに語ってくれた。


 なんでも、頭が良くて、頼りになって、物知りなすごい人らしい。……一個目と三個目は同じじゃないだろうか?


 リーゼはどうやら、知力よりも体力が売りなタイプらしく。声も動作も一々大きいが、それを不快に感じないのはさすが貴族のお嬢様だからなのか。

 あふれ出るほどの爽やかさと、颯爽さっそうとした凛々しさのおかげなのだろう。


 女子校とかにいたら、完全に王子様に祭り上げられるタイプだと思う。もしくは、運動部の主将キャプテンとかもすっごく似合いそうだ。


 そんな事を考えながらアパートへと帰り着き。玄関前でエコバッグを受け取ると、リーゼは再びスッと、自然な動作で扉の横に立った。


「……え、もしかしてまだ護衛続けるの?」


「はい! 師匠が自分を選んで命じてくれたんですから、ちゃんと任務を果たさないと!」


 ……夕方になったとはいえ、気温はまだ30度をゆうに超えていて、立っているだけでも汗ばむくらいだ。


 長袖の黒スーツを着ているリーゼが汗一つ浮かべていないのは、それだけでもおかしいくらいである。

 おまけにこのアパートの玄関は南向きで、陽射しをよける場所すらない。


 こんな所に丸一日以上も立たせておくのはもはや虐待レベルだと思うが、無理に帰らせようとしたら、多分泣かれてしまうのだろう。


「……じゃあせめて、部屋の中で護衛する事にしない? 部屋なら冷房も効いてるしさ」


「えっと……師匠に訊いてみますね」


 リーゼはそう言うと、スーツのえりに手をやって千聡と連絡を取る。

 どうやら通信機が仕込んであるらしいが、なんかスパイ映画みたいだな。


 そう思いながら待っていると、隣の部屋から千聡が出てきて俺に迷惑でないかの確認をし。リーゼに『くれぐれも魔王様の邪魔にならないように』と念を押して、護衛場所を変更する許可が出た。


 そんな訳でリーゼと二人で部屋に入ると、リーゼは買い物を冷蔵庫にしまう手伝いをしてくれた後、スルスルと器用に、大きなギターケースごとベッドの下へと潜り込む。


「……リーゼ、なにしてるの?」


「師匠に閣下の邪魔にならないようにと言われたので!」


 うん、相変わらず千聡の仲間達が言う事は意味がわからない。


「いや、別に普通にしててくれていいよ」


「普通になら、やっぱりここでいいですよ。自分、元々洞窟とかを棲家すみかにしていましたから、暗くて狭い場所が落ち着くんです!」


 ……そういえば、千聡によるとリーゼはこの世界で言うナーガに近い種族だったのだそうだ。


 ナーガと言われてもピンとこなかったので後で調べたら、下半身がヘビの妖怪みたいなやつだった。

 それを考えると狭くて暗い場所が好きというのは、設定に合っているのかもしれない。


 ベッドの下なんて、間違っても貴族のお嬢様を入れるような場所ではないし。女子校の王子様にも似合わない事この上ないが。まぁ、本人がいいと言うのなら好きにしてもらおう。

 俺も大分、千聡達の奇行に対する耐性がついてきたと思う。


「……そうだ、リーゼ夕食一緒に食べる?」


「いいんですか!」


「うん。一人で食べるよりも二人で食べたほうが美味しいからね」


「是非ともお願いします!」


「了解」


 なんか無人のベッドと会話しているようで変な感じだったが、一人暮らしをはじめて以来料理が趣味みたいになっている俺は、初めて自分の料理を他人ひとに食べてもらう事に緊張と期待を感じつつ、台所に立つ。



 もし高評価だったら千聡にも食べてもらいたいなと。そんな事を考えながら……。

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