43 ちょっと小休止?
引越しの準備があるらしいイリスさんとは後日日本で合流する事になり。お屋敷を辞したのは、現地時間で昼下がりの事だった。
まだ夏の太陽がまぶしい時刻だが、日本時間だと夜の11時近く。今日は早起きだった事もあって、わりと眠い。
また飛行機で移動中に就寝かなと思っていたら、千聡が気を利かせてくれ。ホテルに泊まれる事になった。
昼間にインして夜までいるのを泊まるって言うのかどうかは、よく知らないけどね……。
ともあれ。しばらく車で走って着いたのは、大きくはないが歴史があって高級そうなホテル。
案内された先は最上階の、スイートルームというやつだった。
豪華な部屋だが、もっと豪華な客船やお屋敷を体験してきた所なので、感覚が麻痺していてさほどの驚きはない。
もっとも、お値段を聞いたらびっくりして寝られなくなる気がするので、そこは訊かないでおく。
わりと眠気が迫って来ているので、軽くシャワーを浴びて早速寝室に入ると。広い部屋にキングサイズと言うのだろうか? 3~4人寝られそうな大きなベッドが二つ。向かい合わせに置かれていた。
「申し訳ありません魔王様。お一人でというのはどうしても、護衛の都合上……」
千聡が申し訳なさそうに言い、頭を下げる。
「いや、それはいいんだけど……」
正直あまり良くない気もするが。なにより問題なのは、俺達が四人でベッドが二つという事である。
ベッドが大きいので、二人ずつ寝るのは問題ない。それでもゆったりしたスペースが確保されるだろう。
問題は、その二人をどうするか。具体的には、俺が誰と寝るかである。
……まず、潮浬はいけない。朝まで寝かせてくれない気がするし、俺が無事ではすまない可能性がある。
狼と子羊を一緒に寝かせるようなものだ。当然俺が子羊である。
かといって千聡も……多分俺がガッチガチに緊張して一睡もできないだろう。千聡と同じベッドで寝るとか、想像しただけで心臓がドキドキしてくる。
そして千聡がそんな俺の様子に気付いて、遠慮して床で寝ると言い出す所まで容易に想像がつく。
それはいけない。
となると、残る選択肢はリーゼだが……それはそれでやっぱり緊張しそうだ。リーゼも美人な事にかけては他の二人に引けを取らないし、潮浬とは違う意味で。純粋に甘えてくっついてきそうだ。
どの選択肢を選んでも寝られない気がして絶望していると、千聡が遠慮がちに声をかけてくる。
「魔王様はベッドを一人でお使い下さい。我々は三人でこちらを使いますので」
……うん、やっぱりそれが妥当だよね。申し訳ない気もするが、こればっかりは仕方がない。
潮浬はゴネるかなとも思ったが、イリスさんの所でいっぱい撫でてあげたおかげか、意外なほどあっさりと。一対三に別れる事に同意してくれた。
そしてリーゼはなにやら、三人並んで寝ると聞いてすごく嬉しそうである。
そんな訳でとりあえずの結論が出たので、俺は一人。大きなベッドへと潜り込む。
厚手のカーテンを閉めると部屋は夜のような暗さとなり、急速に眠気が襲ってくる。
すぐにウトウトしはじめた俺の耳に、ささやくような声が聞こえてきた。
(ちょっと千聡、なに手握ってきてるのよ。あなたそっちの趣味でもある訳?)
(そんな訳ないでしょう。こうしておかないといつ何時、貴女が魔王様のベッドに忍び込まないとも限らないからです)
(そんな事する訳……ないとも言い切れないけどさ)
(師匠師匠、自分も手繋いでいいですか?)
(……あちらに回って潮浬に繋いでもらいなさい)
(はい、先輩いいですか?)
(いや、ダメじゃないけどさ……)
なにやら和むような、決してそうではないような会話と。ガサゴソと、恐らくリーゼが移動する音が聞こえてくる。
とりあえず俺の貞操は守られるようなので、安堵の感情と共に。俺は夢の世界へと落ちていくのであった……。
翌朝……と言っても、時間的には真夜中らしい。
目覚めた俺が体を起こすと、即座に声が聞こえてくる。
「魔王様、お目覚めになりましたか」
千聡の声に向かいのベッドに目をやると、右から千聡・潮浬・リーゼの三人が、揃って俺に視線を向けていた。
どうやら先に目覚めていたらしいが、薄暗い中でじっと見つめられていたかと思うと、軽くホラーと言えなくもない。
「陛下の寝顔、とてもステキでしたよ。いつか胸に抱かれて、ぬくもりを感じながら見上げたいものです」
潮浬がそう言って笑いかけてくれるのを、とりあえず愛想笑いで誤魔化し。ベッドから出る。
夜食とも朝食ともつかない食事を軽く食べ。深夜にホテルをチェックアウトして、次の目的地であるアトラス山脈へと向かう事になった。
俺は聞いた事のない地名だったが、千聡によるとアフリカ大陸の北西部。モロッコからアルジェリア、チュニジアにかけて延びる山脈で、これから行く場所はアルジェリアであるらしい。
アルジェリア……『「○○ジェリアといえば?」「ある」「ない」』というネタ画像でしか知らない国だ。円グラフが50パーセントずつになってるやつ。
千聡は昨夜からベッドの上で情報を集めていたようだが、『強く統制がしかれているらしく、全くと言って良いほど情報がありません。この状況で情報を掴んでいたイリスルビーレ公爵はさすがですね、己が力不足を思い知らされます……』と言って凹んでいた。
俺にしてみれば魔獣なんて都市伝説やオカルトに類する話だとの印象が拭えないので。知っていても別段偉くないと思うし、気にしなくて良いと思うのだが、特定の界隈では知っていると偉いのだろうか?
ちなみに潮浬もイマイチ信じていないらしく。『あの女が陛下の気を引こうと思って言ったガセネタじゃないの?』と敵意満載な事を言っていたが、そんな事を言っても俺の気は引けないので、違うと思う。
千聡にも、『そんなすぐにバレる嘘をつく意味はないでしょう』と否定されていた。
そんな話をしながら、車から飛行機へと乗り継いで。まだ暗い夜明け前に、どこかの空港へと降り立った。
今度は高級車ではなく。タイヤが六つもある装甲車みたいなゴツイ車に乗り換えて、夜道を走る。
……この車。値段的には、むしろ下手な高級車よりもはるかに高価なのかもしれない。ちなみに運転は、まさかのリーゼだ。
「……リーゼ、免許持ってるの?」
「はい! 試験16回も受けたので完璧ですよ!」
自信満々の答えが返ってくるが、それはもしかして15回落ちたという事ではないだろうか?
正直不安しかないが、千聡が『落ちたのは学科のせいです。技量は申し分ありませんからご安心を』とフォローしてくれる。それなら安心……していいのだろうか?
車は間もなく舗装されていない道に入ったようで、ガタガタと揺れはじめる。
千聡のナビがあるので道を間違う事はないだろうけど、どこに行くのかはわりと不安だ。
まぁ、どのみち俺には流れに身を任せる事しかできないので、気にしても無駄なんだけどね。ただ千聡を信用するのみだ。
朝日が昇って辺りの景色が見えてくるようになると、周囲は一面の砂と岩山で、まばらに低い木が生えている程度。人影はおろか動物の姿も見えない、荒野という表現がピッタリな光景がどこまでも広がっていた。……なるほど、信号も標識もないし、学科は特に必要なさそうな環境だ。
そんな事を考えながら、俺は車が向かう先。いかにもアフリカらしい土色をした、巨大な山脈を眺めるのだった……。
現時点での世界統一進行度……0.16%
・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を配下にしたかも?
千聡の主人公に対する忠誠度……100% カンスト