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彼女に少し嫌われたい ~俺を魔王と呼ぶ美少女と運命の出会いをしたけど、忠誠度が高すぎるので少し下げて普通の恋人を目指したい~ - 44 魔獣
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44 魔獣

 リーゼが運転する車は砂埃すなぼこりを豪快に巻き上げながら、低い木がまばらに生える岩山を登っていく。


「情報によると、魔獣が目撃されたのはこの辺りのはずですが……」


 そう言いながら千聡がしきりに辺りを見回し、リーゼもそれにならう……リーゼは前を見て運転して欲しい。


 一方で潮浬はじっと俺ばかり見ているので、少しは景色とかも見たら良いと思う。

 せっかくの雄大な風景なんだし、俺なんか見ていてもつまらないだろうに……。



「――リーゼ、このまま500メートル走って止まりなさい」


 突然千聡がそう言い、リーゼは指示通りに車を停止させる。そこから少し離れた所には、雷でも落ちたのだろうか? 真っ黒に焼けて崩れ落ちた木があった。


 千聡が車を降りて現場へ向かい、俺達もその後に続く。


「……魔王様、ご用心を。目標は近いようです」


 辺りの地面は黒く焼け焦げ、所々にキラキラ光る粒が無数に光っている。

 千聡によると、高熱で砂がけてガラス化したものだそうだ。


 ……もしかして、魔獣って火を吐いたりするのだろうか? ドラゴンとか? いやまさかね。


「ねぇ千聡、目標ってどんな魔獣なの?」


「目撃情報が少ないので詳細は不明ですが。体はさほど大きくなく、体高が低くて口から炎を吐くそうです。恐らく四足歩行の動物タイプでしょうが、この世界で言う所のサラマンダーか、ヘルハウンドの類である可能性が高いと思います。どちらにも似た魔獣が存在しますから」


 サラマンダーはたしか、炎を操るトカゲみたいなやつだよね? ヘルハウンドはなんだっけ? 千聡に話を合わせるためにそっち系の勉強をした時に見かけたような……。


 ……あ、そうだ。たしか炎を吐く黒い犬だ。シャーロックホームズの冒険に出てくる、バスカヴィル家の犬のモデルになったと読んだ記憶がある。


 ちゃんと思い出せた事に、俺のオカルト知識もなかなかのものになってきたなと一人満足していると。周囲を観察していた千聡がおもむろに『こちらです』と方向を定めて歩きだした。



 千聡を先頭に、潮浬とリーゼに護衛されながらしばらく歩いていると、不意に千聡が岩陰に身をかがめ。こちらに合図を送ってくる。


 俺達も千聡と同じ岩陰に身を潜め、千聡の視線の先を見る。


 そこにいたのは、中型犬くらいの大きさのクリーム色をした動物。

 丸くなって寝ているその姿をよく見ると、ピンと立った耳にクルンとした尻尾。黒い鼻に全身は短い毛で覆われていて……うん、これ柴犬だね。


 厳密に言うと少しだけ違っていて。おでこに太くて短い、サイみたいなツノがついている。

 だが、それ以外はほぼ柴犬だ。ぶっちゃけ柴犬にツノをくっつけたコスプレ犬にしか見えない。


 どう見ても炎とか吐いたりしそうにないし、なんならすごくかわいらしい。むしろでたいくらいだ。


 ……しかし、ほんわりなごみはじめた俺のとなりで。千聡は表情を険しくしている。


「予想外の大物がいましたね、ブルハルシュです」


 ブルハルシュ?

 なにそれ聞いた事のない名前だ。


 ブルドックの仲間……ではないよね、見た目明らかに柴犬だし。そしてなんか、千聡がおびえている気がする。


「なにそれ強いの?」


「はい。ドラゴンを除けば、地上種では最強の戦闘力と凶暴さを併せ持つ魔獣です。あれは幼体で、100年ほどを過ごすと虫のようなまゆを作って成体になりますが、戦闘力だけに限れば幼体の方が高く、この世界のトラやライオンなどでは相手にもなりません。最新鋭の戦車を10台並べて、それでようやく戦えるかどうかという相手です」


 なんかわりとすごい事を言われて、改めて魔獣を見てみるが。やっぱりどう見てもツノをくっつけた柴犬である。


 かわいくこそあれ、凶暴さは微塵みじんも感じられない。


 いやまぁ、中型犬だって本気で怒ったらかなり怖いし。狂犬病とか持っていたらとてもヤバイ。

 でも、倒すのに戦車は必要ないと思う。


 ……これはやっぱり、そういう設定なのだろうか? 

 幼体の方が強いというのは違和感があるが、ホタルやアリジゴクみたいなものだと思えば、分からなくもない。柴犬だけど。


 そして、千聡の動揺ぶりはかなりのものだ。顔がリアルに青褪あおざめている。演技だとしたら相当すごい。


「えっと……撤退する?」


 思わず空気を読んでそう発言すると、千聡は悔しそうに目を伏せて言葉を発する。


「残念ですが、この場はそれが妥当『師匠、自分に行かせてください!』


 千聡の言葉をさえぎって、リーゼが手を上げる。


「……なにか勝算があるのですか?」


「策はありますけど、勝てるかどうかはやってみないとわかりません!」


「その策というのは?」


「正面からぶつかって、どっちが強いか教えてやります!」


「……それが失敗した場合の次善の対応は?」


「戦う前から負けた時の事なんて考えてません!」


「バカですか貴女は?」


「ええと……賢くはないと思います!」


「…………」


 お、千聡が沈黙してしまった。


 多分呆れているのだろう。俺だって正面からぶつかると聞いた時は、『策とは一体……』って突っ込みたくなったもんね。


 でも、普段はおとなしいリーゼがこんなに自己主張するなんて、珍しい事だ。


「いいじゃない千聡、やらせてあげようよ」


 なんか却下されそうな気配を感じたので、横から口を挟む。

 せっかくやる気なんだから、やらせてあげたいよね。


「閣下……」


 なにやらリーゼがキラキラした目で俺を見つめてくるが、これはもしかして好感度が上がってしまったのだろうか?


 いやまぁ、リーゼの好感度は別に上がっても問題ないよね。……多分。


「魔王様のご意向であれば、私ごときがどうこう言う事はありません」


 なんか深々と頭を下げてそう言われ、どうやら方針は固まったらしい。


「リーゼ、一つだけ約束して。安全第一で、危険を感じたら帰ってきてね」


 もし万が一、狂犬病とかに感染したら大変だからね。


「はい!」


 リーゼは元気よく返事をし。いつも持っているギターケースを地面に置くと、スーツの上着を脱いでその上に置き。肩を回しながら魔獣へと向かう。


「あれ。リーゼ、刀はいらないの?」


「はい。どうせ通りませんから!」


 ……柴犬とか、日本刀で切ったらわりと真っ二つだと思うが。さすがにそれは過剰対応だという事だろう。


 素手というのもそれはそれで心配だが、本人は自信がありそうなので任せてみよう。


 魔獣に向かうリーゼに、千聡が後ろから声をかける。


「リーゼ。一応言っておきますと、防御が一番薄い部分は後足の付け根から内側に入った部分。お腹の下半分ですよ」


「はい! ちなみに一番硬い部分ってどこですかね?」


「……ツノの根元です」


「わかりました、ありがとうございます師匠!」


 リーゼは嬉しそうにそう言って、意気揚々と歩いていく。


「魔王様、こちらへ」


「え……」


 千聡は俺をうながして、隠れる場所を移動する。


 リーゼと魔獣を横から見る位置に移動したので、見やすいようにだろうか?



 リーゼの荷物を持った潮浬もついてきて。いよいよ俺には柴犬にしか見えない魔獣と、リーゼとの戦いが始まろうとしていた……。




 現時点での世界統一進行度……0.16%

・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を配下にしたかも?


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト(私の弱気な方針を敢然かんぜんと改めてくださる魔王様は素晴らしい。部下リーゼの意も汲み、まさに王の器をお持ちだ。忠誠度上昇)

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