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彼女に少し嫌われたい ~俺を魔王と呼ぶ美少女と運命の出会いをしたけど、忠誠度が高すぎるので少し下げて普通の恋人を目指したい~ - 58 勇者への対応
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58 勇者への対応

 自分をどうするつもりかという有紗さんの問いに、千聡は少し考えて質問を発する。


「魔王様に対して敵意がないのはわかりましたが、貴女は今でも。魔族を滅ぼそうという意思を持っていますか?」


「それは意味のない質問じゃないかなぁ? もしあたしが『全然ないよ、平和が一番!』とか言ったら、それをそのまま信じるほどあなたはオメデタイの?」


「…………」


「でも一応答えてあげる。メンドクサイから、今の所この世界で勇者をやる気はない。魔族が人間を滅ぼそうとでもしてきたら別だけどね。信じろとは言わないけど、あたしはあなた達より先に魔王を見つけ、しかもその魔王は記憶を失っていて無防備だった。でも和人君が今日も元気に生きている事が、なによりの証明になるんじゃないかな?」


「ぐっ……」


 千聡の奥歯が、本日何度目かも分からない歯噛はがみ音をたてる。


「あたしがその気なら、魔王はとうにこの世界から消えていた。前の世界では聖剣をへし折られるほどの力を持っていたから引き分けたけど、この世界でなら簡単にやれたと思うのよね」


 ……なんかこれ、俺を殺すみたいな物騒な話になってない?


 千聡が、そして潮浬とリーゼも。有紗さんを射殺さんばかりの鋭い視線と殺気を向けているが、有紗さんは少しも気にした様子がなく。平然とそれを受け止めている。



 ……会話が途切れて険悪な雰囲気だけが残り。わりと最悪な空気になっている気がするので、ここは俺の出番なのかもしれない。


 それにそろそろ、お土産の中身が心配だ。北海道の魚介類が俺を待っているのだ。


「――ねぇ千聡。有紗さんは酒癖が悪くて生活能力が皆無な所以外はいい人だから、このままアパートにいてもらったらいいんじゃないかな? 一緒に住んでみれば、仲良くなれるかもしれないよ」


 よく分からないけど話も合うみたいだしね。


「……なんかあたし、軽くディスられた気がするんだけど?」


「酒癖いいと思ってるんですか?」


「いやまぁ……そこは『ご迷惑おかけしてます』としか言えないけどさ……」


「ですよね」


 というか、この人を害そうと思ったら敵意なんて向けなくても。部屋いっぱいのお酒をあげたら急性アルコール中毒かなんかで死ぬと思う。


 千聡に教えたらホントに実行しそうだし。有紗さんも正面から受けて立ちそうだから言わないけどさ。


「……魔王様のご意思が共存であるのなら、私はただ従うのみです」


 千聡は少しの間を置いて。そう言って頭を下げる。


「潮浬とリーゼもそれでいい?」


「……努力いたしましょう」「閣下がいいなら自分はいいですよ!」


 潮浬がちょっと不安だが、一応OK……かな?


 リーゼが一瞬も有紗さんから目を離さず。殺気を引っ込める気も刀を引っ込める気もなさそうなのも、ちょっと気になるけど……。


 俺達のやり取りを見ていた有紗さんが、一つうなずいて言葉を発する。


「話は決まったみたいね。そっちは相談する事もあるでしょうから、あたしはこれで一旦失礼するわ……あ、そうそう和人君。お土産今渡してもいい?」


「あ、はい。ありがとうございます!」


 ここで、ようやく俺一番の関心事だ。


 荷物を受け取るべく部屋の奥に向かって歩き出すと、千聡達三人がギョッとして俺を止めようとしたが。ギリギリ思い留まってくれたようで、俺の後にピタリとくっついてくる。


 全員汗を浮かべて、表情が引きつっているのは気のせいだろうか?


「この箱二つと、袋の半分がお土産だよー」


 一方の有紗さんはさっきまでの真面目な態度はどこへやら。いつもの調子に戻って気さくに接してくれる。


 キャリーカートに積まれていた箱を開けてみると、さすがは北海道土産。

 カレイ・イカ・タコ・ホタテ・カニといった魚介類に、バターまである。ホタテとバターの組み合わせとか、最高かな?


 ゴキゲンで袋の方も開けてみると、こっちにはトウモロコシがいっぱい。もう半分は、さけとばという、サケの燻製くんせいみたいなのが入っていた。


 これは明らかに、トウモロコシが俺へのお土産で、鮭とばが有紗さんのお酒のお供だね。


 俺はウキウキで魚介類を冷蔵庫に、一部を冷凍庫へと運び込む。


 リーゼと潮浬を有紗さんへの警戒に残し。千聡が手伝ってくれたが、なんか警戒感が半端ないよね。


 ホントに仲良くなれるかなと一抹いちまつの不安を覚えつつ。仲良くなるにはやっぱり一緒にご飯だよねと考えて、言葉を発する。


「ねぇ有紗さん。今夜ここで一緒にご飯食べませんか?」


 千聡の、『魔王様、なにを!?』という声にならない悲鳴が聞こえてきた気がするが、果敢にスルーをキメる。

 好感度が下がるのなら、むしろ望む所だ。


「和人君って、わりと空気読まないわよね……」


 俺的にはめいいっぱい空気を読んで、友好への第一歩のつもりなのだが、なにか間違っているのだろうか?


 そもそも有紗さんから大量のお土産やおすそ分けをもらうのは、その一部を調理して再おすそ分けするのが暗黙の前提なので。どのみち一緒にご飯を食べるのが自然な流れだと思う。


 有紗さんはちょっと苦笑を浮かべると、『じゃあお邪魔するわね』と言い。話は終わったとばかりに立ち上がった。


「そっちで寝てる人にもよろしく言っといてね。あとワンちゃんも、バイバイ」


 その言葉にシバが歯を剥いてうなり声を上げるが、有紗さんは気にした様子もなく。鮭とばが詰まった袋を持って、ゴキゲンで部屋を出ていく。これは夕食を待たずに飲む気だな……。


 というか、今でもすでに若干お酒臭かったので。間違いなく道中も飲んでいたのだろう。


 千聡達は相変わらず全力で警戒しながら道を開け、それを見送ったが。ドアが閉じられてしばらくすると、潮浬が『はぅ……』と息を吐いて、崩れるように床にへたり込む。


 千聡もふらつきながら、なんとか自分の机までたどり着き。少しノートパソコンを操作すると、疲れ切ったように椅子いすに体を預けて脱力する。


 リーゼはまだ立っているが、汗びっしょりで髪が顔に貼り付き。なんかフルマラソンを走りきった後のようだ。


 この部屋は冷房がよく効いていて快適なのに、真夏の炎天下にずっと立っていて汗一つかかなかったリーゼがである。


 そういえばイリスさんも気を失ったままだし、なんかまるで大変な事が起こった後みたいだ。



 ……微妙に声をかけにくい雰囲気だなと思って様子を見回していると、気を取り直したらしい千聡が言葉を発する。


「――魔王様。私といたしましては、今すぐ遠方……南太平洋に無人島を所有しておりますから、そこへ退避する事を強くお勧めいたします」


「え?」



 なんか千聡が、潮浬みたいな事を言い出した……。




 現時点での世界統一進行度……0.16%

・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を配下にしたかも?


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%→ 『私が魔王様を見つけるのが遅かったばかりに、まさか勇者に先を越されていたとは。勇者の気まぐれがなければ今頃どうなっていたか……いや、たとえ記憶を失っておられても、魔王様があっさりと倒されたはずがない……』

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