鍛錬
傷の回復を待つ間、乳房が動かないように、胸当てを改良することにした。
いままでの胸当ては、麻布で作った間に合せのもので、乳房の動きをほとんど抑えていなかった。
今度は、乳房をきちんと抑えつけるようなものにしなければいけない。
夏毛の鹿皮を胸に合わせて長方形に切り取り、四隅に穴を開け革紐を通す。
革紐は、左側で締め付けの度合いを調整できるようにする。
試しに、装着してみる。左側の革紐で、最も締め付けがきつい留め方をしてみる。
乳房はほとんど動かないが、乳房が圧迫されて痛い。息ができない位だ。
革紐を少し緩めると、乳房は激しい運動をした際に多少動く。しかし、乳房の締め付けはそれほどでもない。呼吸も楽だ。これくらいの締め突く具合で良さそうだ。
ただ、鍛錬の際に、ちゃんと適切かどうか確かめないといけない。
傷が完全に癒えた日の翌朝、狩りの身支度をして、浜辺に向かう。
まずは、何も身に着けない状態で、体の動きを確認する。
走る。跳ぶ。蹴る、殴る。撚る。様々な動きを試してみる。
やはり、乳房の動きの影響は大きい。素早く体を動かすと、乳房は若干遅れてその動きに合わせようとする。時には、それが次の動きの邪魔をすることになるのだ。
それと、尻の影響も意外に大きい。尻肉も、乳房ほどではないが、後の動作に影響を与える。
男の肉体を持っている感覚でいると、乳房や尻の動きと合わず、どうしてもチグハグな動きになってしまう。
こういった動きの違いとその影響を頭と体に覚え込ませる。
スムースな動きが自然に、無意識にできるようになるまで、何度でも繰り返し練習する。
次に、ブラジャーと褌を身に着けた状態で同じ動きを試してみる。
結果は、裸の場合とほとんど変わらない。
激しくない動きの場合、乳房は多少大人しくしている。しかし、激しい動きをすると、乳房は奔放に踊る。それどころか、裸の場合より、奔放になる。布が様々な位置に引っかかり、それにより、不確定要素が加わるのだ。
褌はともかく、ブラジャーは激しい動きをする場合には邪魔にしかならない。
そして、新しく作った胸当てを試してみる。
一番きつく締めると、ほとんど息が出来ず、禄に体を動かせない。緩めすぎると、裸の場合とほとんど変わらない。どの位の締め付け方が良いかを探った。
何度か試行錯誤を繰り返し、やっと、きつすぎず、乳房の動きを最小限に留める締め付け具合に辿り着いた。
ただ、胸当てで押さえつけられた乳房はどうしても動く。動く際に、胸当ての革に擦り付けられてしまう。
激しい動きをする場合、乳首を強い刺激が襲う。激しい動きを長い時間続けていると、乳房、特に、乳首が痛む。
天蚕糸布のブラジャーは、ものすごく薄いため、あっても無くてもほとんど変わらない。革のザラザラした質感を直接乳房に伝えてしまうのだ。
そこで、ブラジャーを改良し、二重の天蚕糸布で作り直した。布と布間に真綿を詰めることで、革の質感が直接乳房に伝わることを回避した。これで、乳房が擦り付けられて痛むことが無くなった。
胸当てを丁度良い締めつけ具合で装着し、動いてみる。裸の時と全然違う!乳房は、もちろん動くが、次の動作を妨げるほどではない。激しい動きをしても、動きに淀みやもたつきが無くなった。
胸当てを着けていることを意識しなくなるまで、練習を続ける。
こうした肉体の鍛錬は、毎日、朝から昼間で、浜辺で行った。
午後からは、山に戻り、弓の訓練だ。
弓の訓練と言っても、実態は、矢の個性の把握だ。
今、鉄の鏃を付けた矢は30本しかない。まず、それぞれの矢に番号を振る。
それぞれの矢の矢筈の上下を定め、印をつける。上を上にして射た場合と上下を逆にして射た場合の違いを見定め、記憶する。必要な場合は、矢筈に印を刻む。
例えば、3番の矢は、矢筈の上下に従って番え、20メートル程離れた場所から的を射ると、10センチ程左に反れる。こういった情報を一本一本頭に刻む。
矢筈を触っただけで、何番の矢か、その矢の特性はどういうものかが分かるまで、矢を射続ける。
合間に、鹿狩りに出かけ、鹿を1頭狩ったが、それ以外は、このような体と弓の鍛錬をひたすら続けていった。
どちらも、なんとか形に成ったかなと思えた頃、空には雪が舞い、7度目の出血が始まった。
浜辺で目覚めてから、丁度200日目で、12月12日のはずだ。