Producing Iron
鉄を作らなければいけない。
インガ達に弩を与えたが、矢の数が絶対的に足りない。一番多く矢を持たせているヒルダでも、5本程しか持っていない。その上、彼女達の矢の鏃は、ほとんどが石の鏃だ。
石の鏃は、練習で的に当てるたびに割れたり欠けたりする。
鉄の鏃も少しづつだが、その数を減らしている。矢は射る度に、可能な限り回収している。
しかし、当然のことながら、全ての矢が回収できる訳ではない。矢の行方を見失ってしまったり、鹿や猪に当たっても、その獲物が逃げてしまう場合もある。
もし、この前の侵入者よりも数の多い集団が侵攻した場合、現在の手持ちの矢では太刀打ちできないだろう。
それに、これから舟を使って、川の対岸や、川の上流の様子を調べるつもりだ。
その際、敵対する集団が現れる可能性もある。
だから、早急に鉄を作り、十分な鏃を揃え、使用できる矢の数を増やさなければならない。
幸い、これまでと違って、人手が増えたため、作業を分担することが出来る。
アーデル、ヒルダ、そして、フレイヤには、馬車を使って、浜辺の流木の回収をしてもらう。
インガと、ヘルガ、そして、グエンには、砂浜で砂鉄を採集してもらう。
この作業中は、常に浜辺に人がいる状態なので、崖の見張りを置く必要はない。
エンマと自分は、製鉄のための炉を作る作業の担当だ。
今までは、山の小屋の前で炭や鉄を作っていた。
しかし、これからは、山陰で炭づくりや製鉄の作業を行う。食事の準備など煙を出す仕事は、この前の侵入者騒動から、既に山陰で行うようにしている。
扇状地の上の方にある元のアワ畑の側に炉を作る。その隣の場所には、炭焼用の場所を確保しておき、炭を保存する小屋も山から移設した。
エンマと自分は、全裸になり、粘土を足を使って捏ねていく。捏ねた粘土を平らに均した地面に円柱状に積み上げていく。円柱の中で火を焚き、中から乾燥させる。
エンマには、鉄を作ると教えているが、エンマはどのように鉄を作るか全く見当がついていないようだ。
8日かけて、高い煙突を備えた炉が完成した。
炉の隣の炭焼用に用意した場所に流木が集められた。今回の製鉄に必要な量の流木はたった2日で集まった。これまで一人でやっていた時に比べれば、それこそ、あっという間だ。
もう既に、木の整形は終えている。枯草を被せ、全体を泥で覆う作業は、隣りで炉を作っているエンマと自分に加えて、流木集めが終わって手が空いたインガ、ヒルダ、そして、フレイヤも行う。
一人でやっていた時には、丸丸2日かかってやっとできたものが、半日で済んでしまった。泥を乾燥させるため4日待って、火入れを行う。
4日後、空気穴から出る煙が無色になった。焚口と空気穴を塞ぎ、火を消し、炭が冷えるのを待つ。
更に4日後、表面の泥を割り、剥がして炭を取り出す。
エンマ達は、ちゃんとした炭の作り方を見たのは始めてのようだ。もちろん、炭自体は、山の小屋に保存してあったので、見たことはあるし、焚き火をして、消し炭を見たこともあるはずだ。
しかし、完全に炭化して、打ち合わせると金属音のする炭は珍しいようだ。炭を打ち合わせては、楽しそうな表情を浮かべる。そう、楽器を演奏しているように。
インガ達が集めた砂鉄も十分な量がある。
製鉄の開始だ。炉に火を入れ、煙突から勢い良く炎が飛び出るようになった時を見計らい、砂鉄と炭を炉に投入する。
一定間隔で砂鉄と炭を入れる様子をエンマ達に見せる。30分程後に、エンマと交代する。エンマは、最初、火の勢いに気圧されたのか、腰を引きながら恐る恐る投入していたが、次第に慣れてきたようだ。
エンマの次は、ヒルダに交代だ。こうして、全員が砂鉄と炭の投入を体験した。
みんなは、これまで、こんな高温の火に曝されたことは無いだろう。
いや、少なくとも、インガはこれに近い炎を体験していた。彼女の集落が焼き討ちに遭っていた時に、強烈な熱い炎に曝されていたはずだ。
分担することによって、砂鉄と炭を継続的に投入することができたためか、出来た鉄の塊は、これまで自分が作った時の2倍近い大きさだった。
一旦、炉を冷やした後、炉に修繕を加え、再度製鉄の作業を行う。
2度目に得た鉄は1回目のより少し小さい塊だった。
インガ達は、黒い砂から自分達が知っている鉄が作り出されることに驚いて、興奮していた。
特に、エンマは、これまで見てきたそれぞれの作業がどんな意味を持つのか、拙い言葉を繋いで、矢継ぎ早に質問してきた。やはり、エンマは知的好奇心が旺盛だ。
2回目の製鉄の作業が終了したのは、浜辺で目覚めてから1096日目、3年目の5月26日のはずだ。
ああ、とうとう来ちまった。