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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~ - 祈り
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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
3章 聖なる山に向けて

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祈り

「よし、例の魔導をエレノール頼めるか」


 ベルガがエレノールに向かって呟く。

 彼女の顔が艶やかに輝きを増す。


姿隠し(インビジブル)


 抑揚のある魔導の文言が雪に流れる。

 どこか恍惚とした表情に俺は少しドキリとする。

 真紅のローブに真っ赤な唇が妙に雪に映えて、そこだけが生々しい。


「この呪文は高い集中が必要なのよ。特にこの人数を透明化するとなると余計ね……音や気配までは消せないからね」


 武器や服、リュックも全て雪の中に混じるようにして見えなくなる。

 まるでそこには何者も居なかったかのように、風だけが舞う。

 他の皆の声や気配は聞こえるんだが、まったく自分の目から見ても何も映らないという不思議。すげえな、魔導って!


「高難度の魔導になればなるほど集中が必要なのよ。詠唱時間も伸びるし、集中している間は魔導師自体がほぼ無防備になるわ。だから術士を守ることが重要になるの」


 フィリナが小さい声で囁く。

 古代狼戦でも似たようなことを言っていたのを思い出す。


「ふふふ。だからあたしを守ってね。ト・ラ・ジ」


「俺じゃなくて、焔刃に言ってくれ。まったく」


 俺達の会話に呆れた様な声でピシリと遮るベルガ。


「お前たち、いつまでも遊んでいる場合ではない。しっかりワシを先頭に手を繋げ! お互いの姿も見えないのだぞ」


「はーい、隊長」


 どこか遠足よろしく、先生感が抜けないベルガ。

 当たり前に緊張感はあるのだが、どうしてもそれが高まれば高まるほど、逆にどこか間の抜けた会話が交わされてしまうのはなんでなのだろうか。


 積もった雪に自分たちの足跡だけが残る。

 ぎゅっぎゅっと踏み抜く音だけが雪原にいやに細かく響く。

 それはかなり奇妙な光景。

 そのまま30分もすると、ヒサメ軍の駐屯地らしき場所に踏み入る。


 人気が全くない。

 モンスターや魔族とやらの姿があってもいいはずなのに、簡易的に造られた居住空間らしき土豪のようなものや、焚火の後が降り積もる雪に覆われているだけだ。

 槍や剣といった武器が無造作に置かれ、少し前まで間違いなくこの場で多くのもの達が住んでいたという形跡だけが残っている。

 足跡だけが大量に、降りしきる雪の中――ラベルク村の方向へと続いていた。


「本当に誰も居ないわね。全軍でラベルク村に向かってしまったということ? それはそれで不用心よね」


「春の妖精の話を信じるのであれば、まだホワイトドラゴンがいるのだ。それだけでも充分に脅威だと判断したんだろう」


「まさに今のうちというところね、ベルガ。この先に洞窟があるのかしら」


 姿が消えているので声だけが駐屯地内に不気味に流れている。

 ふとベルガの歩みが止まった。

 もちろん後ろから手を繋いできた俺達はそのベルガが見えないので、勢いあまって倒れそうになる。

 エレノールが集中を解いたようで、全員の姿が改めて見えるようになった。


「ベルガどうした。突然立ち止まるなよ、びっくりするだろ」


 目の前に巨大な洞窟が口を開いていた。

 入り口の大きさは10メートルはあるだろうか。周囲は雪が降り積もっていたが、どこか強く凍りすぎているというか、氷の大きな結晶のようなものが不自然に周囲に巻き散らかされている。

 その降り積もった雪や不自然な氷の結晶の中から斧や槍、剣の残骸が見え隠れする。


「これってもしかして……」


 何かに耐えるように、ベルガはただ、ただ立ち尽くしていた。

 雪だけが無情に降り注ぐ。

 風が冷たく、俺達の顔に吹き付ける。


「すまない。戻ってくるのが大分遅くなってしまった。三番隊の勇者たちよ」


 低い声で言葉を吐きだす。

 ベルガの両目から無念の涙があふれる。


(そうか。ガルムの仲間たちはここで……魔王の攻撃で力尽きていったのか)


 雪に埋もれた中に、もしかしたらその時の遺体があったりするのかもしれない。

 ごくりと唾を飲み込み、改めて異世界の冒険がロマンやカッコ良さだけではなく、現実的な死と隣り合わせであるという感覚を肌で感じていた。

 祈りを捧げるフィリナ。

 エレノールでさえ、目を閉じ考え込むようにうなだれている。


「ワシは逃げ出してしまった。魔王レイカに唆されたとはいえ、三番隊隊長としてあるまじきことだ。許せとは言わん。天上で待っていてくれ……いずれワシも辿り着いた時に全てを詫びようぞ」


 そっと、ベルガの毛深い両手を握り返すフィリナ。

 凛とした瞳には深い愛情の色が灯され、やわらかな光が握りしめた手を包んでいく。


「わたしにも何もできない。だけど、安らかなるようにと祈りたい。その祈りは必ずや女神シャウザ・ニークを通し、彼らの元に伝わるわ」


 膝を折り、フィリナの前でむせび泣くベルガ。

 鼻の奥がツンとしてくる。

 エレノールがぐずぐすと鼻をすすっていた。

 焔刃はフィリナの祈りの呼応するように、優しい光を発していた。




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