12.夢
その晩、ナディアは久々にあの頃の夢を見た。
いつものように身体中を好き放題いじられながら、聞くに堪えない話を聞く日々。
「魔力の源らしきものは見当たらないな……。やっぱり心臓か頭のどちらかじゃないか?」
開いた腹を覗き込みながら同僚達に問う男。その顔を見てナディアは、この男が一番嫌いだった事を思い出した。
(頭が悪い癖にプライドだけは妙に高かったんだよなあ、こいつ……)
「だとしたらさすがに難しいな……。下手したら治癒する前に死んじまう」
「それでも良いと思うけどなあ。どうせこいつは既に死んだ事になってるんだ、俺達はお咎めなし。だろう? 俺だったら研究が一気に進む方を選ぶね」
(そうだった……、珍しくこの日は、私も心の中でこの男の言う通りになるよう願ってたんだ。そうすればこの地獄が終わるから、って。だけどそうはならなかった)
「別に研究が進むなら俺もそれで良いとは思うが。万が一予想が外れたらどうするつもりだ? 女が死んだ上に研究も進まなかったらこの先悲惨だぞ」
「別に新しいモルモットを用意すれば良いだけだろう? 居なくなっても問題にならないやつらなら、そこら中にたくさん居るし」
「馬鹿ね。この女ほど保有魔力が高くて、尚且つ国の管理下に居ない人間なんて滅多に居ないでしょ。まさかあんた、私達の中から新しいモルモットを出そうって言いたい訳じゃないわよね?」
「はは……さすがにそんな事は言わないですよ。ドブネズミのように皆に迷惑をかけて、生きてる価値がないやつらを、俺達がお掃除がてら有効活用しましょうって話です」
(お前の方がよっぽど生きてる価値がないやつだと思うけどね……。ああ悔しい、あの時気を失う寸前じゃなきゃ、直接言ってやったのに)
「やあやあ皆、随分と盛り上がってるようだけど。もう少し声のボリュームは落とそうね。……馬鹿が露呈しちゃうよ」
「……っ、いくらなんでもそれは失礼では!?」
「はは……、もしかして気付いてない? 君の魔力はナディアに劣る。その上ナディアは自らの意志で人を治していた。色々あって死人としてここに来たけど、やってた事はよっぽど君よりも価値がある事じゃないか。そんなナディアをドブネズミ呼ばわりするなんて……君はなんだい? ゴキブリかな?」
「お言葉を返すようですが、ドブネズミがドブネズミを救ったからってなんだって言うんです? 救う価値のない者を救うのは、国にとって迷惑以外のなにものでもない。それこそゴキブリを繁殖させるようなものじゃないですか」
「ふうん……。君はそう考えるんだ、覚えておくよ。まあなににせよ、そろそろ交代の時間だ、君達は出て行ってくれないか? 僕は自分の時間を一秒も無駄にしたくないんだよ」
(まるで私の味方みたいな発言をする癖に、あいつらと同じように実験はするんだから頭がイカれてるよ、本当に。だけど、何故かこいつを嫌いになれない私もイカれてるんだろうね……)
「やあナディア。遅くなってごめんね? ああ、今にも気絶しそうだね。治してあげるから少しだけ待ってて。……あいつらはナディアの事を理解しようとしないからいつまで経っても魔術師として大成しないんだ。ましてやこの傷! 確認が終わったならさっさと治療してあげれば良いのに」
それ以前に人を切り刻むのをやめろという話なのだが、何故かこの男にもその概念はなかった。
(きっとこの施設ではそれが当たり前に横行してて、疑問に思う事すらなかったんだろうね)
それにしても、とナディアは久々に見る男——イノセント——の顔をまじまじと見つめた。イノセントは魔術に対する探究心が人一倍強い。ナディアと話す事で人体実験以上の成果を出そうとした事からも、それが見て取れる。
セレスティンには冗談半分で言ったけど、案外本当にイノセントなら森の魔法陣を応用して自身を不老不死化させているんじゃないだろうか。あの魔法陣にしたって、馬鹿達が生み出せる訳がないから殆どイノセントの発案に決まっている。自分で考えた理論を応用するくらい、朝飯前だろう。
(もしかしたら……イノセント本人を探すという手もあるかもしれないね?)
勿論、本当にまだ生きているかどうかは分からない。だけどもしイノセントが生き続けているとしたら、魔術の歴史を調べていけばきっと彼だと分かるはず。
(まあ、とっくの昔にこの国を去ってるって可能性もあるけどね)
それでも、セレスティン一人に全てを任せるよりはずっと良い。ナディアはナディアで、自分の潔白を証明する為の手段を模索するのも悪くないと思った。