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国に飼い殺され続けた魔女、余命十年の公爵の養女になる? 〜養女契約のはずが、妻の座を提案されてしまった〜 - 13.訓練場
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13.訓練場

「直接魔術を行使するのと魔法陣の決定的な違いは、暗記するか書くかだ。それがどう作用するかというと……ああ、例えば今ナディア殿には買いたい物が大量にある。だけど実際に買いに行けるのはひと月後だ。買う物を頭で覚えた場合と、あらかじめ紙にまとめておいた場合、どちらがより正確に買う事が出来るだろうか?」


 ——間違いなく後者だろうね。前者なら一ヶ月の間に一つや二つ忘れる可能性もある。


「では、実際に買うまでの過程が楽なのはどっちだろうか?」


 ——前者だ。買い物リストを作る必要もなければ、買う時にそれを手元に用意する必要もない。


「その通り。直接身体から魔術を行使するのは手っ取り早い分、細かい制御が難しい。その反対に、魔法陣は事前に描くという下準備が必要だが、それさえ出来ればあとは魔力を流すだけ。同じ魔法陣を使えば誰でも同じ品質の魔法を発動出来る。勿論、魔法陣そのものの品質が良くなければ、直接魔術を行使するよりも劣る場合もある」


 ——魔法陣は工程が複雑な魔術に向いているって事だね。或いは、魔力があっても制御が下手な人物と、魔力がないけど魔法陣を完璧にかける人物で、作業の分担が出来る。


「素晴らしい理解力だ、ナディア殿。ではそれを踏まえて、魔法陣の基本的な書き方だが——」




「……という訳だ。ここまでは理解出来ただろうか?」


 ——うーん……頭では理解出来てるつもりなんだけど……、魔法陣を間近で見た経験がほとんどないから、発動までの過程がぴんと来ないな。簡単なもので良いから、出来れば実際に見てみたいんだけど無理かな?


「確かにそうだ、知識だけでは分からない事もある。では訓練場で実演しよう」


 そういってナディアを机から抱き上げようとしたのか、両腕を広げた状態でぴたりと手を止めるセレスティン。


「……カトリーヌ、ナディア殿を訓練場まで頼む。私は一足先に行って準備をしておくから」


「承知いたしました」


 その様子があまりにもおかしかったものだから、セレスティンが部屋を出た途端、ナディアとカトリーヌは笑い合った。


 ——カトリーヌ、閣下はいつも私に文字盤を持たせる時に身体を起こしてくれるんだ。それなのにどうして抱き上げる事は出来ないんだと思う? もしかして文字盤に集中してて、自分の行動に気付いていないんだろうか?


「さすがにそんな事はないと思いますが……、閣下の中で明確なルールがあるのかもしれませんね。例えばナディア様を地面から離すのが駄目、とか……」


 セレスティンの事だ、確かにナディアを落っことして大怪我でもさせたら、と考えていても不思議ではない。だけど……。


 ——でも、私が閣下に触る事も嫌がってたよ? 骨折したら困るとか言って……。その理論で行くと、上半身を起こす時に脱臼する可能性だって考えそうなものじゃないかい?


「……ではナディア様を地面から離す事と、閣下が意識していない時の接触が駄目なのでは?」


 ——まあ辻褄は合うね。……面倒臭すぎてびっくりするけど。


「ふふ、閣下がそれだけナディア様の事を大切に思っている証拠なのでしょう」


 カトリーヌがふわりと優雅に笑いながら言った。


 「大切」。セレスティンといいカトリーヌといい、どうしてここの人たちはナディアを「大切」に扱うのだろうか。もしこれが普通の家だったら……、魔女だと分かった時点で森に戻されるか、利用するにしても最低限の接触で済ませようとするだろうに。


(やっぱり、主が変なら使用人も皆変だな。……だけど、それも悪くない)




 「訓練場」は城の地下にあった。てっきり外にあるものだとばかり思っていたナディアは、少し驚き、納得した。


(地下にこれだけの広さを確保するのは骨が折れただろうけど……、情報の漏洩を考えれば仕方がないか)


 六大公爵家が維持する皇都の結界は、森の結界とは違い魔獣対策ではない。


 本来絶対に絶やしてはいけない技術は、魔塔のような場所で広く後継者を募って教えるのが正解なはず。だけど皇都の結界維持に関しては、用途が用途なだけにそれが出来ない。


 対人間対策。


 結界の維持方法を知る人間が多ければ多いほど、破壊方法も漏れやすくなる。諸外国や地方からの反乱対策の為なのだから、それでは困る。


(六大公爵家が、不公平なくらい特権を持っている理由はそれか)


 もしも皇帝が暴君だったら。皇国民を守るはずの皇都の結界は、一転して暴君を守る為の最強の盾になってしまうだろう。だから歴代の皇帝は六大公爵家に、皇帝を指名する権利と結界に関する知識を授けたのだ。


「……訓練場は堪能出来たかな? ナディア殿」


 その言葉でセレスティンを待たせていた事を思い出し、ナディアは「あばばば(そうだった!)」と慌てふためいて文字盤をカトリーヌから受け取った。


 ——ごめん! あまりにも規模が大きくて呆けてしまったよ。


「いや、ちょっとした冗談のつもりだったんだが……、難しいな。邪魔してすまなかった、心ゆくまで堪能してくれ」


(閣下は冗談が得意じゃないのか……、先日の骨折発言はそれこそ冗談だと思いたかったんだけど)


 ——いや、それより閣下の実演を早く見てみたいな。

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