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国に飼い殺され続けた魔女、余命十年の公爵の養女になる? 〜養女契約のはずが、妻の座を提案されてしまった〜 - 14.実演
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14.実演

「魔法陣は内容や複雑さによって多少発動直後の見た目が変わる。……と言っても普通は気が付かない。ナディア殿なら分かるだろうから、よく観察して違いを覚えると良い、きっと役に立つぞ」


 紙に描かれ、地面に並べられた魔法陣の数は九つ。非常に単純な模様が八つに、複雑なのが一つ。模様から判断するに、同じ魔法陣が二つずつあるようだ。


 ——同じ魔法陣が二つずつある理由は?


「魔法陣を描く為の材料の違いだ。こっちがよくあるインクで描かれていて、その隣が特殊な技術で作られた、魔力をよく通すインクで描かれている。それじゃあ左から順に起動してみようか。……と、その前に、ナディア殿。この魔法陣の意味が読み取れるかな?」


 セレスティンからの突然の質問にもナディアは慌てず、落ち着いて文字盤を操作した。


 ——さっき読んだ参考書の四十三ページに記載されていた魔法陣に形が似ている。光の魔法陣……かな。


「正解。光を発するだけの単純な魔法陣だ。主な用途は照明。まずは普通のインクで描かれた方を発動してみよう」


 一番左の魔法陣にセレスティンが手を触れると、黒いインクで描かれていたはずの魔法陣の模様が、中心から外側に向けて流れるように白くなり、一瞬のちに淡く光った。


「その隣の魔法陣にも同じだけの魔力を流し込む。よく見ていてくれ」


 明らかに先ほどの魔法陣よりも明るいそれに、ナディアは目を細めながらセレスティンに向けて文字盤を操った。


 ——随分と明るい……。本当に同じ量の魔力を?


「そう、これがインクの効果だ。魔力をよく通す分、魔法陣の効果が強くなるんだ」


 続けてセレスティンが三番目の魔法陣に触れると、魔法陣は中心から外側に向かって踊るように赤く変化した。赤。先ほどは白だったのに、とナディアが思った瞬間魔法陣から炎が上がり、そして消えた。


「今のが炎を出す魔法陣。ご覧の通り魔法陣が破壊されれば効果は失われる。描く素材には注意が必要だ」


 続けて四番目、五番目……と順を追って説明していくセレスティン。ナディアはじっと魔法陣の変化に目を凝らしたが、違いは発動直後の色とその動きくらいに見えた。


(でもこれは誰でも気付くはず……、なにか見落としたかな)


「ところでナディア殿。好きな動物は居るかな?」


 首をひねりながらナディアが考えていると、最後の魔法陣の前でセレスティンが問いかけた。


 ——どうだろう、森には魔獣くらいしか居なかったから……。ああでも、あの魔獣は可愛かったな。大きくて四つ足で耳がとがってて、顔がシュッとして口には牙が生えてる。毛がふわふわで、妙に人なつこい……。そう、犬に似た感じの。


「なるほど。それじゃあ最後の魔法陣だ。……喜んでくれると良いんだが」


 どう言う意味だろうか、とナディアが思う間もなく魔法陣が様々な色で、きらめくように光り出した。


 ふと、ナディアの目には魔法陣の中心が盛り上がったように見えた。魔法陣が強く光っているせいで直視は出来ないけど、確かになにかが地面から這い出てきているように見える。


(下は地面……だよね? それじゃあれは一体……?)


 光は次第に弱まり、やがて完全に消失した。魔法陣は跡形もなく消え去り、代わりに大きくて四つ足で耳がとがっていて、顔がシュッとして、ふわふわしている……、犬が居た。突然の事に驚いたのだろう、犬も不安げに辺りを見回していて、とても可愛い。


「ナディア殿の好みに合うだろうか、この子は?」


 ——あ、ああ……。だけどこれは一体……!?


「最後のは召喚用魔法陣だ。一言で召喚と言っても色々あるが、今回は屋敷内の動物飼育スペースとここを繋ぎ、その中から一頭連れてきた」


 ——凄いな……。だけどとてつもない量の魔力を使ったんじゃないのか? 先ほどの四種類とは次元が違うだろう、これは。


「その通り。だけどこれで、直接魔法を使う場合と、魔法陣を使う場合の明確な使い分けについて分かっただろう? さすがに魔法陣を使用せずにこんな事は不可能に近い」


 ——ああ、イメージは沸いたよ。魔法陣の発動についても大体分かった。だけど発動直後の見た目の違いが……色と動きくらいしか分からなかった。あれなら誰でも気が付くだろう?


「ははは! ナディア殿は本当に素晴らしいな……! 普通の人間には魔法陣が発動するほんの一瞬の出来事なんて全く見えていない。ましてや色どころか動き? ……それは私でも自信がないぞ」


 笑いながら言うセレスティン。そんなまさか、あんなにはっきりと見えたのに?とナディアが眉をしかめ、なおも言いつのろうと文字盤に視線を落とした瞬間、視界の端でなにかが倒れた。


「閣下!」とカトリーヌが叫び、側で見ていたバーナードがセレスティンの元へと走り寄った。


「ラファエル様を呼んできます!」


 カトリーヌはそう言って、ナディアをセレスティンとバーナードのすぐ近くへと降ろしてすぐに訓練場をあとにした。


 近くで見たセレスティンの顔は真っ青……、否、真っ白だった。なんの色も乗っていない顔とは反対に、手はまるで興奮した時のように真っ赤に染まっている。


(無理に魔力を使いすぎたからだろうか? 少なくとも執務室では具合が悪そうに見えなかった)


「……驚かれたでしょう、ナディアお嬢様」


 顔には焦燥が見えるものの、バーナードはこの事態を冷静に受け止めているように見えた。もしかすると、これが初めてではないのかもしれない。


 ——度々こういう事が?


「ええ、そうです。ただ、詳しい理由は私の口からは申し上げられません」


 それきりナディアとバーナードは黙りこみ、訓練場にはただただ犬が悲しげに鼻を鳴らす音だけが響いていた。

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