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月下に契る - 第二十五話:地獄の門を叩け
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第二十五話:地獄の門を叩け

修行は――困難を極めた。


……いや、“困難”などという言葉では到底足りない。

それはまるで、“死”そのものと手を取り合い、舞を強いられるような日々だった。


眠ることも、食うことも、息をつくことすら命懸け。

立ち止まれば、すぐ傍に“死”がいる。

常に、どこかで誰かが狙っているような圧迫感。張り詰めた殺気が肌を焼き、心を削ぐ。


これが――戦い?


「……我らがこれまでくぐり抜けてきた“戦”とは、一体……何だったのじゃ……」


カガリの声は、わずかに震えていた。

凛夜もまた、返す言葉を持たなかった。

その問いは、彼の中にも、幾度となく浮かんでいたからだ。


──そして、三日目の夜。


地を這うような静寂の中、突如として響いたのは、外からの紅明の声だった。


「へへ。なかなかやるじゃねぇか。ま、死んでねぇだけ上等だ」


口調は相変わらず軽い。だが、その裏に滲む“確認”の色に、凛夜とカガリの背筋が強張る。


そして、明かされる“真実”。


「言っといてやるがな。あいつら――俺が作ったもんだ」


「式神の応用だ。限りなく本物に近い“擬似妖魔”ってやつよ。名前ぐらいは覚えてやれ。

空羅くうら地権摂ちごんせつ炎儀挫えんぎざ水髄すいずい……そいつらが、お前らの修羅場だ」


一瞬、時が止まる。


「……なん、じゃと……?」

「それじゃ……あれは、“創られた”存在……?」


「おうよ。バカみてぇに強ぇだろ? ああ見えて、お前らより二段か三段は上に設定してある」


紅明の声は乾いていた。

だが、続く言葉に――その真意が込められる。


「ただ強ぇってだけじゃねぇ。“バランスよく”鍛えられるようになってんだ。

速さ、重さ、破壊力、そして知略と精神……四体で一つの地獄。まさしく“戦場”そのものよ」


紅明は煙草に火を点ける音を残し、言葉を吐き捨てるように続ける。


「敗けたら死ぬ。それが戦場ってもんだ。……俺の弟子を名乗るってんなら、

せめてそれぐらいは、身に叩き込んでおけ」


カガリが唇を噛みしめる。

凛夜もまた、無言のまま拳を握りしめる。


その様子を感じ取ってか、紅明は、ふっと息を吐いた。


「……せいぜい気張んな。そこでおっ死ぬようなら……お前らは、所詮そこまでだ」


「俺は、そういう奴らを何人も見送ってきた。……腐るほどな」


「感情なんざ、とっくに擦り減っちまったが――」


一拍、間を置き。


「……それでも、せめて引導ぐらいは渡してやるさ。

それが“師”ってもんだ」


冷たい。だが、それは紛れもなく、“本物”の師の言葉だった。


凛夜とカガリの瞳に、再び火が灯る。


死の淵で、それでも抗う。

絶望の中で、それでも立ち上がる。


ここからが、本当の“修行”だ。

魂を賭して叩け――その先に待つ、真の強さを掴むために。


地獄の門が、今、静かに開かれる――


補足:四体の擬似妖魔(今後の戦闘描写用)

空羅くうら:速度特化。影のように細く、姿を自在に揺らす。空間跳躍のような奇襲を繰り出す殺戮の影。


地権摂ちごんせつ:防御・圧力特化。岩塊の如き巨体と無慈悲な質量。踏み潰す一撃は防御を意味すら為さない。


炎儀挫えんぎざ:攻撃特化。常に炎を纏い、瞬間的な爆発力で周囲を焼き尽くす、暴力の化身。


水髄すいずい:精神干渉・術特化。水を媒介に幻術・毒・錯覚を操るトリックスター。空間を歪ませ、心を抉る。



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