第二十四話:修羅の檻
「ちょっとばかし気張ってみろや」
「生き残れりゃあ、少しはマシにもなんだろうよ」
ぶっきらぼうな紅明の声が、乾いた空気に低く響く。
そう言って彼が案内したのは、竹林の裏手――岩盤をくり抜いたようにぽっかりと口を開けた、天然の伽藍だった。
鬱蒼とした竹に覆われた空間の奥、古びた鳥居がぽつんと佇んでいる。鳥居には、何重にも禊の札が打ち付けられ、得体の知れぬ気配が漂っていた。
「ここは“外”と繋がっちゃいねぇ。つまり――逃げ場はねぇってこった」
紅明は淡々と告げた。
「ま、たった二人じゃ厳しいとは思うが……だから“試練”って呼ぶのさ」
結界の内側に踏み込むと、空気が変わった。
耳鳴りのような沈黙。風も音も、すべてを拒絶するような圧。
それは“死”の匂いだった。
そして――現れたのは、四体の妖魔。
それぞれが、先ほど紅明が一蹴したあの妖よりも、一回りも二回りも強大。いや、“格”が違った。
存在しているだけで、空間が歪む。重力が狂い、視界が滲む。
「……っ、これは……!」
カガリの額に冷たい脂汗が浮かぶ。
脳裏に浮かんだ一文字。
『死』
凛夜の眉間にも、苦悶の皺が刻まれる。額を一滴の汗が伝った。
紅明はそれを見て、何食わぬ顔で煙草に火を点ける。
「こいつらを二人で、ちゃちゃっと片づけちまいな」
「食いもんと水は中に備えてある。せいぜい、無くなる前になんとかするんだな」
そして、にやりと笑う。
「……ああ、言い忘れてたが――ここで死んでも、俺は手ぇ出さんからな」
そう言い残して、紅明は外から結界を閉じた。
――瞬間、空気が豹変した。
内側から押し返すような殺気。結界そのものが生きているかのように、牙を剥いた。
息が、重くなる。意識が、擦り切れていく。
「さあて……どこから喰らってやろうか?」
ひときわ凶悪な声が、四体の妖魔のうち一体から発された。
その眼は、確かに“意思”を持っていた。理性さえ、備えている。
「……っ、マジかよ……」
凛夜が刀を抜く。
カガリが爪を構える。
「凛夜……儂、生きて出られる自信がないのじゃが……」
声は震えていた。だが、目は逸らさなかった。
凛夜は、静かに答える。
「だが……生きるしかねぇだろ」
その一言が、カガリの胸に火を灯した。
――静かに、しかし確かに。
結界の内側、四方から収束していく殺気。
理性ある“殺戮者”たちが、じわじわと間合いを詰めてくる。
その中央で、凛夜とカガリは、互いの背を預けて構えを取った。
命を賭した、極限の修行が――今、幕を開けた。