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月下に契る - 第六十七話:芦屋冥道の章3.そして、すべてを壊す者」
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第六十七話:芦屋冥道の章3.そして、すべてを壊す者」

夜の帳が京を包み込んだ頃。

闇に蠢く妖気が、街の片隅から徐々に広がり始めていた。

それは静かに、しかし確実に、かつての安寧を蝕んでいく。


──そして、その中心に立つのは、かつて“正しき道”を歩んだ男。

芦屋冥道。かつて晴明と肩を並べた陰陽師にして、今や“異道”そのものとなった存在。


「……ようやく、残ったな。安倍晴明」


冥道は、静まり返った京の空を見上げて呟いた。

宗雅は既に命を賭した大呪術によって世を去り、紅明は未来に希望を託し、禁呪によって眠りについた。

残ったのは、ただ一人。安倍晴明──冥道が最も憎み、羨み、かつては誰よりも認めていた男。


冥道は、その一人になった晴明の姿を見届けた瞬間を“機”と見た。

すべてを壊すなら、今しかない。


「お前を喰らえば……この世に俺を止める者はいなくなる……!」



陰陽寮を一瞬で焼き払い、呪の柱を打ち砕き、冥道は闇と共に都に現れた。

その術の精度、破壊力、呪の密度は、もはや人の枠を逸脱していた。

それは陰陽術でありながら、もはや“異界の呼び水”となりかけている。


冥道の目的は明確だった。

晴明を倒し、完全に異界の門を開くための土台を築くこと。

それをもって、自らを認めなかった世界すべてを呪い、破壊し尽くすため。


「……冥道。お前がここまで堕ちたか」


晴明は静かに現れ、冥道の前に立った。

白き装束に、結界符の風が揺れる。

その表情に悲しみはあれど、決意の影は濃く。


「すべてを失ってなお……俺はまだ、お前を殺したくはない」


「フッ、偽善だな。お前のその瞳が一番、俺を嘲笑っている!」


言葉が交わされると同時に、呪が弾けた。

雷鳴が裂け、風が巻き、火と闇が交錯する。


冥道の術はもはや“理”を外れていた。

対する晴明は、ただ静かに、古き正道の型を貫く。


「紅明の想いを……宗雅の願いを……縁の魂を……俺は背負っている」


晴明の瞳には、かつて共に並び立った友の影が映る。

それらすべてが、今の晴明を支えていた。


だが、冥道の呪術もまた、強大だった。

一瞬、晴明の結界が崩れかける。


(まずい……)


その刹那、晴明の足元に浮かぶ三つの陣──

紅明の炎、宗雅の風雷、縁の癒しと想念──かつての仲間たちの力が、晴明の術を通して蘇る。


「これが、三人の“想い”だ!」


術が発動する。冥道を中心にした封呪結界が天を裂き、冥道の闇を飲み込んでいく。

冥道は抵抗し、吼える。


「お前に……俺の何が分かる……っ!」


「分からない。だが、分かりたいとは思っていた……友だったからこそ、な」


冥道の術が砕け、闇の奔流が地に還る。

その力を完全に封じるため、晴明は最終の結印を組む。



「……縛……封……顕……滅……!」


「……貴様……まさか……!」

冥道の瞳に、怯えが走る


「晴明ぃぃぃいい!! この“俺”を、封じきれると思うなよ……!

いずれ、目覚める……そして、すべてを呪い殺す……ッ!!」


天と地を繋ぐ呪が完成し、冥道の身体は地脈と交わる岩盤に縛られた。

それは、魂すら1200年の封印に閉じ込める、最奥の封印術。



すべてが終わった夜。

晴明は一人、瓦礫と静寂の残る都を歩いていた。

風が吹くたび、紅明の声が聞こえる気がした。

空を見上げれば、宗雅の厳しさが脳裏をよぎる。

どこか遠くから、縁の笑顔が、瞳の奥に微かに灯る。


「……これで、終わったのか……?」


答える者はいない。

だが、晴明は知っている。

これが、終わりではなく、“始まり”なのだと。


この夜、芦屋冥道は封印された。

だが、1200年後に再び目覚め、現代にて“完全なる異界の門”を開こうとするのは、また別の章で語られることになる──

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