62話『背信者(ベトレイヤー)』は恋の病を垂れ流す(4/4)
7500PV感謝です!!
...
..
.
それは出会って3日目の朝、アイザックは今日の予定をシオンとミークに伝えてカルヴァトスの居住区を訪れた。
カルヴァトスの住所はアイザックとそう変わらない、巨大な建造物の中立ち並ぶ扉の一つ、その扉を叩く。
「カル〜?」
「ーーー」
声はない、しかし扉の鍵が開いている。
「不用心にも程がある」
アイザックは躊躇しつつも扉を開け中を覗き込む、アイザック達の住まいと同じ間取り、しかし自分達が住んでいるほど散らかってはいない。
「カル〜?」
「ーーーすぅ、すぅ」
寝息が聞こえる、今日は『変則競技場』で戦った後2人で観光をする約束があったのだ。
「カルー、お寝坊さんは誰ーーーーダァッッ!!??」
「ん?おはよー」
カルヴァトスは...
ーーー照明にぶら下がって寝ていた。
「寝相が悪いにも程があるッッ!!」
カルヴァトスの服は重力によって垂れ下がり、それによって内側の肌が見えていた。
「あー、アイザックのえっち、女の子の部屋に入るなんてデリカシーなさすぎ〜」
「お、お前が鍵閉め忘れてたんだからな!?」
「あっははは!いいよいいよ、お腹なんていつも晒してるし、それじゃあ着替えるから外でてて〜」
お腹より上もチラッと見えていたがそれは敢えて言わない、アイザックは言われたままに外で待機し、その一日中ずっと悶々としていた。
そんなどうでもいい記憶、そして楽しかった1週間のひととき。
...
..
.
「私の勝ちかな〜」
「...」
カルヴァトスはアイザックを両足で踏みつけていた。
「...」
戦闘経験としても、そしてダンスの技量としても、カルヴァトスとアイザックでは天と地ほどの差があった。
「踊れなくなった方の負け、だっけ?」
「...」
「でもルール上はファイトだからさ、負けたなら降参しなくちゃ」
「...」
「...」
ーーーバキバキバキッッ!!
「ぎゃぁァァァァッッーー!!!!」
カルヴァトスの足にかかる負荷が増す、力が増幅する事に重さが増し地面がひび割れる。
「殺しなしのファイトの勝利条件は相手を気絶させる事だけど、君心が強いからね、絶対に気絶しないでしょ」
「まぁ...な」
「どっちでもいいんだよ?君の事好きだったけど別に降参しないなら...」
「...」
「ん?」
アイザックは負荷の中でも口を開く。
「俺は降参なんて絶対しないぞ」
「...あのね、別に殺してもいいんだよ?」
「...!」
その言葉は、あまりにも冷たく、そして容赦のない一言。彼女にとってアイザックはそれほどに脆くか弱い生き物、そしてどうでもいい存在、そう思えるような冷たい言葉。
ーーーそう、思えるならどれほど楽だっただろうか。
「違う...」
「は?」
「...心がこもってねぇんだよ」
「...」
「お前...言ってることと、その目が物語っていること...矛盾してるし...なにより言ってる事が違うじゃねぇえか!?」
「ーーー」
カルヴァトスの目はーーー震えていた。
「俺の師匠はさ...殺すと言ってきた時は目がマジだった、マジで殺す気で来てたってはっきりわかった...でもお前は違う、自分で言っておきながら、自分がやろうとしてることに躊躇してる!!」
「...」
「俺を助けたいんだろ...そう言ってたじゃねぇか...下手な嘘つきやがって...」
「...!」
アイザックは叫ぶ、その街に響く程大声で、彼女の本心を勝手に代弁する。
「俺も...好きだったんだぞ...」
「...」
そう、彼女は『堕ちた獣』。人を喰らい続け、絶望を伝染させた者。
最初から話し合う事ができていたらこうはならなかったのだろうか、だが、今更になっても遅い。
被害は甚大、死者も出ている、帝国側は兵隊を集めて自分達の様子を窺っているのが魔力でわかる。
「...」
ここまで来てしまった以上はどうすることもできないのだ。
「先ほど糸ごと飛ばされて行ったヨーヨーのように、どうしようもなくなく、飛んでいったものは2度と戻らない」
「...」
「どうしてかな...どうしてこうなったんだろうね...私も、君とただいるだけでよかったのに...突然、全部がどうでもよくなったかのように...」
カルヴァトスは頭を掻きむしって、そして涙を流した。
「...!!」
その症状をアイザックは知っていた、ドリンク=バァと同じだ。
ーーー自分が何をやってるかわからなくなる。
その症状だ。
アイザックとカルヴァトスは事実両思いだった、しかし症状によって全てが台無しになった。
恋した相手を、感染させようとしたのだ。
今のカルヴァトスと...そして、先ほどのカルヴァトス...まるで目の色でも変わるかのように...その殺気は薄れている。
「これだけやれば、私は国外追放、でも……この国はもう長くないから関係ない、だからいいの、どうなっても」
「...」
だが、後には引けない、投げ出したものは、2度ともとに戻らない。
それ故の覚悟、決意の目を向けた。
「その前に、貴方だけは連れていく...」
「...」
「お願い、降参して、私のものになってよ...」
「...
ーーーやだ」
流れる沈黙、それでも、アイザックは拒絶した。
好きな相手の申し出を断った。
カルヴァトスはひとつため息をついて、そして...
「そう、じゃあ死ーーー
「勘違いするなよ」
「...はい?」
「俺の勝ちなんだから、誰が降参するかボケ」
「ーーーッッ!!!」
その瞬間、何かを予感したカルヴァトスは決着をつけるため足を振り上げるがアイザックの方が一手早かった。
ーーーガッ!!
「んッ!?」
しかしアイザックは踏みつけていたもう片方の足を掴んで勢いをつけて転ぶ、それによってカルヴァトスは踏み潰す前に地面に叩きつけられた。
「ぐーーー何をッ!?」
「飛んで行ったヨーヨーのように、なにも戻らないって言ったな」
その時、アイザックは指をカルヴァトスに見せつける、ヨーヨーを握っていない、なにもはめられていない無防備でボロボロの手。
しかし、それはカルヴァトスの勘違いだった。
「!!」
アイザックの指から何かが伸びていた、物質ではない細く半透明な何か。
「まさかッ!!」
それが伸びている先は先ほどヨーヨーを飛ばした方向、どこまで飛ばしたのかはわからないがとてつもない速度でこちらに向かって来ている。
「そもそも!!ヨーヨーなんて精密で原理もわからない玩具、俺如きが作れるわけねーだろッッ!!」
「なに!?」
アイザックが使うヨーヨー、それは普通のものではない。
その部品の一部に刻まれている無数の術式、これはアイザックの師匠であるドゥルセ=デ=レーチェのハンドメイドなのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それは旅を始める前日。
「お前の記憶からこんなものを作ってみた」
「師匠、定期的に俺の記憶勝手に見るよな、プライバシーって言葉知ってる??」
レーチェがテーブルの上に置いた金属の円盤。
「これすごいぞ、なんと糸を使わなくても魔力を流せば魔力そのものが糸になる、お前の場合魔力が尽きないから理論上は無限に距離を延ばせる」
「すごいな、すごいのかな?」
「さらにじゃ、肩への負担ゼロ構造にも成功した、どんな威力で投げても反動ゼロで全く同じ速度で戻ってくるぞ」
「ねぇ、それ危なすぎない?」
「これはあくまでサンプルだが、上手く調整すればこれで新事業が展開できるぞ」
「そうだなあ、こんな世界じゃなければなぁ」
「...そうじゃなあ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アイザックは心の中でレーチェに感謝した、アイザックの指から伸びている魔力の糸はカルヴァトスが飛ばしたヨーヨーと繋がっている。
「見ろ!!元に戻るものはあったようだぜ!!!」
ーーーゴォォオオオオオオオ!!!
そしてそのヨーヨーは風を切りとてつもない速度で向かって来ている。
「確かにここまで来たら後には引けねーけどな!!それでも取り返しのつくことはあるよ!」
「!!」
「だって俺はまだお前の事好きだもんッ!だから、お前が投げだしても、まだやり直せる、元に戻せるんだよ!!」
ーーーゴォォオオオオオオオ!!!
「ッ!!」
カルヴァトスは逃れようとするも、アイザックは完全に固定しているため身動きがとれない。
「おい、なんで逃げようとしてんだよ、お前逃げる必要ねぇだろ」
「うる...ッさいなぁ!!」
ーーーゴォォオオオオオオオ!!!
迫り来る金属の流星、カルヴァトスは必死に暴れる、本来なら自身に降りかかる物理攻撃は無力化できるのにも関わらず。
ーーードンッ!
髪飾りがアイザックの腹を抉る、しかし悶絶するほどの威力は無い。
「離しッてーー!!」
「やっぱりそうだ...」
それがアイザックが確信に至り望んでいた状況、そして彼女の『制約』。
「!」
「お前...奥義使う制約として...
ーーー地に足つけねぇんだろッッ!!!」
カルヴァトスは椅子に座る時も足を上げていた、寝ていた時も照明にぶら下がっていた、2人で歩く時も彼女は楽しそうにスキップを踏んでいた。
おそらく地に足をつく時間によって奥義の効果が弱まっていくのだろう、その証拠に先ほどの髪飾りの攻撃だ。
「ふっーーーふぅぅッッ!!」
彼女の表情が次第に青ざめる、おそらく図星であり、高速で向かってくる金属の塊が直撃する想像をしてしまったのだろう。
だが、彼女は恐れる必要は無い、なぜなら...
ーーーガッ!
「ッ!」
「大丈夫、俺がいる」
アイザックはカルヴァトスを強く抱きしめた、まるで鉄塊の直撃から彼女を庇うように。
「何度も言うけど。なにも死ぬ事はねぇよ」
「で、でもそれじゃあ君が!!」
「俺は無敵だから死なねぇ」
「はぁ!?」
その衝撃はアイザックを貫通しカルヴァトスの全身を揺らすだろう、だがアイザックは直撃のため運が悪ければ即死だ。
ーーーゴォォオオオオオオオ!!!
「はぁ...君って本当にバカだよね」
「知ってる」
「...」
カルヴァトスは諦めたかのように力を抜いてアイザックを優しく抱き寄せる。
「...私、結構な威力で飛ばしちゃったよ?」
「安心しろ、受け止めてやる」
「この奥義、結構な怨念とか込めてるから、すごく痛いよ?」
「受け止めてやる」
「私、感染してるんだよ?ずっといると感染っちゃう」
「受け止めてやる」
「1+1は?」
「受け止めてやる」
「はぁ...」
アイザックは魔力完全集中のため意識がいっていない、虚を向いておりもはや何を言っても無駄なのだろう、カルヴァトスは深いため息をついた。
「........ありがとう」
ーーーゴォォオオオオオオオ!!!
鉄塊は2人の眼前に迫る、カルヴァトスは静かに目を閉じて、それを受け入れる。
そしてーーー。
ーーードォォォォオオオオオンッッッッ!!!!
爆撃、2人は衝撃と閃光に包まれ見えなくなった。
2人の決闘、その結果は相打ちだった。
次回投稿日は2\16 7:10!
次回カルヴァトス編完結です!!
皆様たくさん読んでいただいてありがとうございます!!
高評価、ブックマークを押していただければ作者のモチベーションに繋がります!!
よろしくお願いします!!