63話 消えぬ残響、恋の唄
今回でカルヴァトス編は完結!
感想、高評価よろしくお願いします!
...
..
.
「目、覚めた?」
「シオン...?」
目覚めてすぐ視界に入った病室の天井、そして仲間の声。
「どんくらい寝てた?」
「半日くらいよ」
「そうか...あっ!!」
アイザックはすぐに飛び起きる。
「どうなった、あのあと結局!」
アイザックはカルヴァトスを庇って鉄塊の直撃を受けて気絶、それ以降の記憶がないのだ。
「あんたの勝ちよ」
「...は?」
「カルヴァトスという女、先に目覚めて、居合わせた『機構星騎士』に降参だけ伝えてどこかに消えた」
「...そうか...で、でも気絶したら負けじゃあ...」
「さあ?勝ちの判定を貰う前に降参を宣言したんじゃない?」
「そ、そうか...」
「アイザック、完治したら換金場に行きなさいよ、カルヴァトスは賭け金として全財産をあんたにって置いてったみたい」
「いくら?」
「8億3000万」
「アイツ...そんな溜め込んでたのか」
だが彼女はすでにこの国にはいないのだろう、『堕ちた獣』と判明した今、更なる感染拡大の危険を排除すべく運営側が動いているらしい。
「...」
「アイザック...」
だが、金額なんてアイザックにはどうでもよかった
ベッドの上で、アイザックは天井を見つめたまま動かなかった、勝った、と言われても実感が湧かない。
金の額も、彼女が消えたことも、どこか他人事だった。
彼女の言葉を思い出す
ーーー投げだしたものは戻ってこないと。
アイザックのヨーヨーは戻って来た、やり直せるというメッセージを込めて戻ってきた、少なくともアイザックはそう思っていた。
でも、人は違う。
アイザックは、自分の手を見つめた、何も掴んでいない手。
糸は、もう切れていた。
「...」
...
..
.
3日で怪我を治したアイザックは換金場でBPを受け取り、それをそのまま全てシオンの口座に振り込んだ。
贅沢をしてもいいとシオンに言われたがとてもそんな気にはなれなかった。
「...」
1人歩く繁華街、行き交う人々の声が鋭く響き渡る。これまでは感じなかった喪失感、その現れ。
たったの1週間の出来事だったが、それでも彼女過ごした一瞬がアイザックにとってはとても重かった。
「...」
彼女との決別のきっかけでもある泉に赴いたが、先の戦いで倒壊し埋められていた、アイザックはなにも考えぬままその場を立ち去った。
「...」
竜骨が見下ろす街並み、果実水を飲みながら1人眺める。
「...」
1人で来るのは初めてだった、果実水を1人で飲むのも初めてだった。甘く、そして酸味のある爽やかな味。
「...」
ふと、アイザックはステップを踏んでみた。
カルヴァトスに教わった通りのステップ、彼女と踊った時はリズムが乱れたり、足が絡まってよく転んだ。
しかし、今は一つのミスなく、華麗なステップを踏むことができた。
カルヴァトスがやっていたステップと全く同じものだ。
「...また、会いたいな」
また、今度は完璧にできたこのステップで彼女と踊りたい、そう思い呟いた言葉は...
...やがて風に乗って眠らぬ街に吸い込まれていった。
...
..
.
ーーー小さい頃、私の日常は唐突に地獄へと塗り替えられた。
学団の施設で言葉の勉強をしていた時、『機構星騎士』は、まるで天気の話でもするように告げた。
「お前の父親は、全てを賭けて、そして負けた」と。
父は戦いで死に、私は母と共に、ある男の所有物になった。
外の犬小屋で寝泊まりを強いられ、通りすがりの人間たちに石を投げられた。
「負けた弱者に人権は無い」
そう言われても、私は何も知らなかった。ただ、生きていただけだ。
やがて母は、度重なる暴力の末に父と同じ末路を辿った。残された私は、男の欲望の捌け口になり、それでも殴られ、踏まれ、壊され続けた。
なぜだ。
なぜ、母や私は、こんな目に遭わなくてはならない。
母が死んだその日、私はこの国からの脱出と、そしてこの男と、この国の法を作った『界帝』への復讐を誓った。
私の奥義『天輪天舞』。あらゆる運動エネルギーを操作する魔法、その代償として、私は「四六時中、地に足をつけない」という制約を背負った。
でも――ガラス瓶の破片を詰めた靴を履かされていた頃を思えば、そんな制約、痛みですらない、むしろ私の得意分野だった。
国から脱出した後、路銀を稼ぐため、そして少しでもこの奥義を誤魔化すために踊りを覚えた、私が踊りを覚えたのはたったそれだけ。
楽しくなんてなかった、必要な事だったから。
そして、それが一番楽だったから、覚えた。
ーーーある時、全ての復讐の準備を整えた瞬間、全てが壊れた。
『運命の夜』、人を凶暴化する病の蔓延。
チルド王国の凱旋パーティの夜のことだった、これが踊り子としての最後の仕事のつもりだった。
だがそのパーティ中、人が人を襲い始め場内は阿鼻叫喚の地獄絵図。
私もひたすら逃げ惑ったが、血走った目をした輩に私は喉元を喰いちぎられ苦痛の中死んだ。
...
..
「おはよう」
その声で目が覚めたのは、ちょうど100人の人間や魔物を喰い殺した後だった。
目の前にいた女性、エウロペ=バレーナの言葉によって私は自然と理解できた。
ーーー私は病に『適合』した。
だが、もう既に何もかもが滅茶苦茶になった世界で私の生きる目的なんてないと思っていた、しかしそこで私は『界帝』がこの地獄みたいな世界になっても健在であることを知った。
私は腸が煮えくりかえった、私にとっての地獄を作り出した存在が安全にのうのうと暮らしている事が許せなかった。
今にして思えば、あれは『適合者』特有の、非感染者への異常な敵意だったのだと思う。
私はもう、復讐以外の感情を思い出せなくなっていた。
ずっと1人で『界帝』に少しでも近づくために、ひたすら暴力をもって生き延びていた。
でも、そんな復讐に駆られた私を止めてくれた人がいた。
ーーー「『すんけい』ってヤツと『魔轟衝』の合わせ技だ!!ザマァ見ろバァァアカッッ!!!」
ある競技場、『界帝』が敷いた国の法の元、それを掻い潜って一矢報いた人がいた。
『界帝』が作った環境、そしてそれに縋り腐り切った人間達、それを打ちのめした人がいた。
対戦相手を文字通りぶち込まれた観客達は彼に罵詈雑言を並べ立てゴミを投げていたが、彼は輝かしい笑顔で中指を立てていた。
眩しかった。
彼が、眩しかった。
その瞬間、私の中の闇が晴れたのだ、その時に気付いた、私は彼のことが好きだったのだろうと。
彼の、なにも持たなかったが故に何かを得ようと努力する姿が私の姿と重なったのもあるが、彼はその一歩先を行っていた。
復讐と恋、天秤にかけたとして、その天秤はずっとどちらにも傾いていた。
例え『界帝』を殺して国が滅んだとしても、せめて彼には...彼にだけは生きていてほしいと思ったのだ。
「私って本当にバカ...どうして...どうして正直に言えなかったのかな」
私は怖かった、彼に自分が危険な存在だと知られる事が、嫌われる事が怖かった。
その結果、最後の最後で私は病に脳をやられ『彼を自分と同じ獣』にするという凶行に走ってしまった。
ーーーもし自分の正体を明かしていれば違った結果になったのかな。
「でも...もう私に...そんな権利は...ない」
そう、自分は自分のエゴのために百数人という人間を殺してしまった、そんな者が自分の願いを叶えたいなどという我儘は言えない。
「...でも...言うだけ...なら...それだけなら...自由だよ.ね」
「え?なぁ...おい!!おい!!」
エウロペが言っていた気がする。
ーーー『適合者』は目的を失うと『獣』に戻ると。
「うわっ!!おい不味いぞこんなとこにも出たぞ!!」
「『機構星騎士』呼べって!!『獣』だ!!『獣』がでたぞぉおおおおお!!!」
ーーーもっと一緒にいたかったな...旅について行きたかったな...
ーーー...でも、最後で良い、最後でいいから...
「...また、会いたいな...」
そんで、また2人で踊りたいな...あのステップをまた2人で踏みたいな、ずっと、そうして...
いたーーーー
ーーーパァァンッッッッ!!!
...
..
.
そうして、『獣』の騒動は治り、2日も立てば人々はいつもの日常へ帰る。
「...」
アイザックは1人、街を彷徨っていた。
特にすることもなく、目的もないまま歩いていた。
「...?」
ふと立ち止まって隣の建物を見上げる、他とは違う豪華な装飾が施された巨大な建造物、例えるなら「劇場」。
「アイザック...?」
ふと声がしたので、その方向を見ると先ほどストリートファイトを済ませて来たのか、少し傷を負ったシオンが立っていた。
「シオン...その怪我、大丈夫か?」
「うん平気、ちょっとミスっただけ」
「そうか...」
「...」
「...」
重苦しい空気が漂う。
「じゃあ...先に帰るぞ、飯作らないと」
「待って!」
「?」
突然シオンに呼び止められる。
「そこの劇場、結構歴史古いのよね...ミュージカルやってる時もあればライブをやってる時もある、多分今日はライブだと思う」
「...」
「...見に行ってみない?ほら、ちょっとした気分転換に」
「...いや、俺はいいよ、楽しんできな」
そう言うとアイザックは踵を返し立ち去ろうとする、しかしその腕をシオンは掴んで引き留めた。
「行こう...?」
その手は震えており、アイザックを心配しているようだった。
「...わかった」
ーーーワァァアアアアァアァアア!!!
室内はアイザックの知っている現代のライブ会場のように騒がしかった。
暗い場内の奥にライトアップされているステージ、派手な服装を見にまとった歌い手が美声を奏で会場を沸かしている。
そんなステージを2人は静かに佇んでそれを見ていた。
「...」
「...」
「いい曲だね」
「...そうだな」
歌い手の踊りはすこしぎこちなくも洗練されていた。それを見るとアイザックは彼女を思い出し、肩が震えていた。
「カルの方が...上手いよ」
「そりゃ...あの子は歌い手、カルヴァトスは踊り子だもん」
その時、アイザックの肩が震え、目から涙が溢れる、そして震ながら口を開く。
「そう...だな...でも、どうしても思い出すんだ!彼女を...何度も忘れようとしてた...でも、いろんな事が...彼女を思い出させるんだ...!!」
たった1週間の出来事だとしても、それはアイザックの人生において最も大切な時間だった。
その時、震える手をシオンは握りしめた。
「ーーー私はどこにも行かないよ」
「シオン...」
シオンはアイザックの肩にもたれかかる、その温もりはカルヴァトスの時と似ているようで違う、彼女の時よりも暖かく、そして鼓動が伝わるほど鮮明だった。
「ごめん...アイザックの気持ち、私にはわからない...でも、隣にはいてあげられる...それじゃ、だめ?」
「ダメじゃ...ないよ...ありがとう...ありがとう!!」
アイザックはその手を抱きしめ涙を流す、手が涙で濡れていてもシオンは眉ひとつ曲げる事なくアイザックを見つめていた。
明日からまた、アイザックも変わらぬ日常へと戻る。
またBPを稼がなくてはならない、前へと進むために、アイザックは日常へと戻る。
そんな、甘く切ない、1週間。
...
..
.
『さぁ、ラストステージはいま勢いのあるあの人に登場してもらいます!!』
ーーーワァァアアアアァアァアア!!!
会場は今までで一番盛り上がった、それほどの有名人なのだろうかと、涙を拭いたアイザック、そしてシオンはステージに注目する。
「どんな人だろうね」
「あぁ」
盛り上がる会場の中、進行役は高らかに叫ぶ。
『いきなり現れては全ての軌跡を過去のものとし、帝国を沸かせた超新星!!ではご覧ください!!曲名は『マジェスティ・ソード』!』
ーーーワァァアアアアァアァアア!!
『ミィィイイイイイク=キャメエエエェェェェルーーーーッッ!!!』
ーーーワァァアアアアァアァアアアァァァアアアアーーーーッッ!!!!
「...」
「...」
...
「「は?」」
ーーーパァァンッッ!!
「フゥゥゥウウウーーーーッッッ!!!」
花吹雪と共に飛び出した人影、見違えるほどに美しい衣装を見に纏った女性。
それはアイザックの知る仲間のミーク=キャメルだった。
ーーーワァァアアアアァアァアア!!!
「みなさーん!!今日は来てくれてありがとうございます〜〜〜〜!!盛り上がりましょおおお〜〜〜〜〜〜ッッッ!!」
ーーーワァァアアアアァアァアア!!!
「フワッ↑フワッ↑フワッ↑フワ↑!!」
ーーーフワッ↑フワッ↑フワッ↑フワ↑っっ!!!
「フワッフワーーーふぉああぁあ!!!???」
さすが世界最高の魔法使い、群衆の中からアイザックとシオンの魔力を感じ取ったらしい。
ミークは顔を赤め、崩れた表情で固まる。
「...あいつ」
「アイザック...?」
「あいつ何やってんだァァァァーーーーーーッッ!!!??」
だがアイザックの表情は、笑顔に満ちていた。
大切な時間は過ぎ去ろうとも、また新しい時間、そして思い出は訪れる。
だから、人は前へと進むしかないのだ。
ーーーーー
2-2章 龍界地底砲塔マナタン カルヴァトス編 完
ーーーーー
...そして、砲塔の上で、『界帝』は高らかに叫ぶ。
「とうとうこの時期がやって来た!!」
誰もいない、風をその身受け、それでも高らかに叫ぶ。
「いよいよだ...邪魔は入ったが、いよいよ開催できる!!
ーーー『大会』だッッ!!」
迫る『大会』の時期、ミカードは嬉しそうに叫ぶ。
「今年は誰が私に牙を向くのか...非常に楽しみだ!ワーッハッハッハッハ!!!」
8億BPはある口座から引き出されたらしいですよ、でも、これによって2-3章はもっととんでもないことになります。
次回投稿日は2\18 7:10!
2-3章開幕!!
カルヴァトス編よりぶっ飛んでますのでお楽しみに!!
皆様たくさん読んでいただいてありがとうございます!!
高評価、ブックマークを押していただければ作者のモチベーションに繋がります!!
よろしくお願いします!!