Deprecated: The each() function is deprecated. This message will be suppressed on further calls in /home/zhenxiangba/zhenxiangba.com/public_html/phproxy-improved-master/index.php on line 456
かつて英雄と呼ばれた男は、今はただ幼竜と生き延びたい - 第54話 王城の影、揺らめく灯
[go: Go Back, main page]

表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつて英雄と呼ばれた男は、今はただ幼竜と生き延びたい  作者: 雪沢 凛
第五章:王都セラウィン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/165

第54話 王城の影、揺らめく灯

 部屋の空気が一瞬で張りつめた。

 二人の視線がぶつかり合う中、ついにフィリシアが口を開く。

 その声は静かだが、否応なく場を制する力があった。


「……もういい。今は言い合っている場合じゃない。」

 彼女の視線が二人の間を往復し、やがてわずかに鋭くなる。


「どうやらあなたたち、すでに符釘を作っている連中と接触したことがあるのね?」


 アッシュは短く息をつき、頷いた。


「……国境で、連邦の士官と共に動いた時、下っ端を一人捕らえた。

 そいつはもとは王国の竜輔士だったが、今はその連中に仕えていた。……あの時、王国の内部にも関係者がいると疑っていた。」


 フィリシアの眉がわずかに寄る。


「そう……それなら納得できるわ。魔獣を操る実験をしているのなら、最終目的は竜族の支配。

 あの箱の中身こそ、その鍵。しかも王国が関わっているとしたら……それが国外に出て、再び戻ってきたのは偶然じゃない。」


 彼女は視線を上げ、表情を引き締めた。


「でも、なぜそんな回りくどいことを? もし王国内部の誰かが主導しているなら、箱は国内に留めればいい。

 ……国外に流したのは、何かを試しているのか、それとも注意を逸らすためか。」


 アッシュの表情が暗く沈む。

「……セドリックに会う機会があれば、聞くしかないな。あいつは何か知ってる。」


 重苦しい沈黙の中、リメアがそっと頭をもたげた。

 <……退屈。外に行きたい。>


 リゼリアは思わず吹き出し、リメアの額の鱗を撫でた。

「今はダメよ。しばらく我慢して。」


 アッシュは眉を寄せて振り向く。

「なぜ俺に直接言わない。」


 リメアは小首を傾げ、尾をぱたんと打つ。

 <だって、アッシュはいつも「ダメ」って言うもん。>


 リゼリアは笑いをこらえきれず、肩を震わせた。

「だって、『どうせ許してくれない』って言ってるわ。」


 アッシュは言葉を失い、さらに眉をひそめる。

 フィリシアはその様子を見て、かすかに微笑み、そしてため息をついた。


「私が手を打つわ。……でも、しばらくは外出禁止。代わりに食事を用意させる。」

 そう言いながら、彼女の視線がリメアに止まり、表情が一変する。

「……成長してるのね。」


 アッシュのほうに向き直り、慎重な声音で続けた。

「このままだと、もう『リザード』とは呼べなくなるわ。」


 言葉を区切ると、今度はリゼリアに目を向ける。

「……それにしても、あなた。今、彼女の言葉がわかるの?」


 リゼリアは瞬きをし、さらりと笑った。

「まあ、少しだけね。」


 軽やかな口調だったが、それ以上の説明はしない。

 ただリメアの額にそっと手を置き、話題を流した。


 フィリシアは小さく眉を寄せる。


「繫名者」でなければ理解できないはずの龍語を、人間の彼女が聞き取れる――

 その違和感が、胸の奥に刺さる。


 部屋の燭火が揺らぎ、筆の擦れる音だけが静かに響く。

 フィリシアは一巻の報告書を机に置き、声を落とした。


「これはエミールが持ち込んだ記録よ。

 アエクセリオンの遺体……本来は王家の墓所に送られるはずだったのに、最終的に北方へ運ばれた。」


「北方……?」

 アッシュの眉が鋭く寄る。

 指先が机を強く押し、白くなるほど力がこもった。

「……埋葬されたんじゃないのか?」


 リゼリアは目を伏せ、震える声で呟く。

「埋葬、じゃない……。」


 スカートの裾を握りしめ、怒りを押し殺すように続けた。

「利用するつもりよ……彼を。」


 アッシュの瞳は漆黒に沈み、唇が硬く結ばれる。

 言葉はなかったが、胸の奥で荒れる感情が痛いほど伝わる。


 長い沈黙のあと、掠れた声が漏れた。

「……でも、アエクセリオンはもう死んでる。」


「死んでても、利用される。」

 リゼリアが顔を上げる。その瞳は涙を含んで光っていた。

「……そんなの、あなたは黙っていられるの?」


 アッシュの息が止まる。

 理性が「戻るな」と告げるのに、胸の奥が焼けるように痛んだ。


「死者を弄ぶなんて、許せない。」

 リゼリアの声は震えていたが、決意に満ちていた。

「あなたが言えないなら、代わりに私が言う。」


 アッシュの瞳が見開かれ、二人の視線が交錯する。

 その間に張り詰めた何かが、今にも裂けそうだった。


「……じゃあ、俺にどうしろと言うんだ。」

 掠れた声が低く漏れる。

 胸の奥で、怒りと絶望がせめぎ合う。


 リゼリアは唇を開きかけたが、何も言えずに閉じる。

 アッシュの指は机を握り締め、白く変わる。


 ――沈黙。


「……もうやめましょう。」

 フィリシアが小さく息を吐き、静かな声で割り込む。


 彼女は書類を閉じ、話題を切り替えた。

「今夜、王城で舞踏会が開かれるわ。

 私以外の貴族、使節、そして竜騎士たちも全員出席する。……エミールもね。」


 アッシュがわずかに眉を動かし、黙って彼女を見る。

 リゼリアも視線を落とし、指先でスカートの裾をいじった。


「つまり、王城中の視線が大広間に集まるということ。」

 フィリシアは二人に向き直り、意味ありげに微笑んだ。

「……もし外に出たいなら、今夜がいちばん安全な時間よ。」


 その一言で、重苦しかった空気が少しほどける。

 リゼリアの瞳が輝き、待っていたかのように手を叩いた。


「やった! ようやく外の空気が吸える! ねえ、城下町に行きましょう?」


 <城下町?>

 リメアがぱっと顔を上げ、瞳をきらきらさせる。

 <おいしいもの、ある?>


 フィリシアは苦笑し、肩をすくめた。

「……いいけれど、気をつけて。くれぐれも目立たないようにね。」


 アッシュはしばらく黙って二人を見ていたが、やがて小さく息をつく。

「……気晴らしには、いいかもな。」


 殿外の鐘が鳴り、夜の空に重く響いた。

 華やかな舞踏会の幕が上がろうとしている。

 だが、その光の裏で――

 もう一つの夜が、静かに始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ