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夜行さん - 決戦 5
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夜行さん  作者: 原月 藍奈
人喰いの屋敷編
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決戦 5

 私達は一番近くのエレベーターまでたどり着く。


 大塚国際美術館は地下三階から地上二階まであるのでエスカレーターだけでなく、エレベーターも設置されている。館内も広いのでエレベーターは六台あり、なんならレストランやカフェが併設されている。


 エレベーターが到着して、無事に地下一階まで上がる。


「ああ、これです。これです」


 先生の見たかった作品はエレベーターに近い箇所に展示してあり、先生はすぐに喜びの声を上げた。


 私は目を凝らして絵画の下にあるタイトルを読む。


「『民衆を導く自由の女神』?」


 銃を構えている民衆の先頭に、女性が赤青白の旗を揚げている。フランス7月革命を主題としており、自由、平等、博愛を表現しているらしい。


 荒井先生が「ね? この作品。特に女神が日髙さんに似ているでしょう?」と後ろから声をかけてくる。


「そうですかね……」


 私は絵を見ながら首を傾げる。


 女性は全体的にスラッとしていて胸もこう、ボインとしていて。全然私と似ていない。それに私には誰かを導くようなカリスマ性もないし。

 とはいえ、私には絵の知識がないからなぁ。この絵には別の解釈があるのかもしれない。


 荒井先生は「似ていますよ!」と声を大にする。


「だって日髙さんも妖怪達を先頭でまとめているじゃないですか。――お母様と同じように」

「えっ……」


 ――お母様と同じように?


「それはどういう……」


「どういうことですか」と尋ねようとする。だが聞く前に背後から異様な空気が漂ってきて、言葉の意味を聞くどころではなくなってしまった。


 この感じ、鏡蛸達と同じ。新しい妖怪の気配。


 私はハッとして荒井先生の方を振り向こうとする。


 第一優先は荒井先生の身の安全だ。


 そう思って刀を抜こうとするものの、結局刀を抜くことは出来なかった。刀を抜く前に体が前のめりになった。

 背中を強く押されたからだ……――。


「っ!」


 誰に? 人間に? 妖怪に? ――――いや、荒井先生に。


 目の前にあったはずの『民衆を導く自由の女神』はなく、絵が飾られていた壁自体に真っ暗な穴が開いている。そしてその真っ暗な穴から異様な気配が漂っていた。

 壁の中から細い真っ白な手が出てきて「オイデ、オイデ」と手招きをしている。


 これが『人喰いの屋敷』……。だとしたら、マズい!


 必死に足に力を入れて踏ん張ろうとする。だがその抵抗は虚しく、一度バランスが崩れてしまった体は前に倒れていく。

 私はなんとか後ろを振り向いて「荒井先生!」と声をかける。が…………。荒井先生はこの状況を恐がるどころか、口元に気味の悪い笑みを浮かべていた。

 思わず背筋が凍る。


 やられた!


 そう気付いた瞬間に、一気に体から力が抜けた。視線は荒井先生に釘付けになったまま、体は暗い穴に飲みこまれていく。


 絵を見たいと私を引き止め、私の背中を押した……。そしてあの気味の悪い笑み。……すっかり騙されてしまった。

 大塚国際美術館のペアチケットを渡した時から全て計画されていた。いや、そもそも坂東さんを『人喰いの屋敷』と似ていると言ったところで気付くべきだった。


 荒井先生が…………『人喰いの屋敷』だと。



ここまで読んでいただきありがとうございます!


荒井先生の黒幕設定は最初から考えていたので。脇道にそれることなく書けてほっとしています。

坂東さんのこともそうですが、ぴーちゃんのことも「だからか!」ともう一度読み直していただけたら嬉しいです。

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