決戦 6
夜行さん視点です
―夜行さん視点―
ぴーちゃんが少し先頭を飛ぶ。その後を着いていくが、なかなか退治屋と会わない。全ての部屋を見ているから、見逃したという可能性はない。もしくはエレベーターを使ったかだが。山本さんを追ったのならエレベーターは使わないだろう。
……上の階に行ったのか。
一周回り終わって、地下二階へと続くエスカレーターに乗る。
それにしても人がいない……。いくら夜とはいえ、客の一人や二人いそうなものだが。そのせいなのか。妖怪の気配は感じないものの、空気がどこか暗い。
地下二階まで上がって、いくつもの美術品を通り過ぎる。と、一際大きい展示室に出た。飾られている作品は『最後の晩餐』だ。
俺は慎重に中央に歩いていく。頭にあるのは天狗のことだ。
ここが天狗が襲われた場所、か。天狗が襲われたのは修正された絵の方だと言っていたが。
ぴーちゃんが何事かと俺の頭上をくるくると飛び回っている。俺は対面に並んでいる『最後の晩餐』を交互に見て、修正後の方へ目を向けた。
修正後の方が色がくっきりと出ていて、顔立ちもはっきりしている……ような気がする。
俺はジッと鋭い視線を向けて絵に近づく。
天狗が異様な気配がしたと言っていたが。特にしない。それどころか妖怪の気配すらしない。
「ぴい?」
さすがに心配になったのか。ぴーちゃんが肩に止まって、首を傾げた。
「いや。何もない」
『人喰いの屋敷』は一体どういうつもりなんだ……。襲う人、場所を選んでいるのか。
俺はぴーちゃんの頭を軽く撫でた後、「行くか」と声をかけ、慎重に歩き出した。
地下二階は特に問題はない。また一周回り、エスカレーターで地下一階に上がった。
「!!!」
地下一階に上がった瞬間、空気が変わった。異様な空気が絡みついている。ぴーちゃんもその空気に気付いているのか、せわしなくバサバサと翼を広げて飛び上がった。
俺は大刀を構えながらぴーちゃんの後を着いていく。と、ぴーちゃんがとある絵で止まった。
「『民衆を導く自由の女神』?」
女性が旗を掲げているのが印象的な絵だ。
俺は目をこらして見るものの、特に異変はない。異様な気配もここが一番濃いわけでもなかった。
だがぴーちゃんはその場から離れる気配はない。
「この絵に何かあるのか」と問いかけてみる。
「ぴぃ……」
弱々しい返事が返ってきた。どうやらぴーちゃん自身もよく分かってないらしく、なんとなくこの絵から離れがたいらしい……。
もう一度絵に集中するがやはり何も感じない。だがぴーちゃんの気の済むまでその場にとどまってみる。
ぴーちゃんは新しい妖怪だ。退治屋の言霊でできた珍しい妖怪でもある。俺には分からない何かを感じ取っているのかもしれない。
だが。しばらくするとぴーちゃんは「……ぴぃ」と鳴いて、再び前を飛んでいく。
結局はよく分からなかったらしい。俺は後ろ髪を引かれながら、ぴーちゃんの後を着いていく。
いくつもの絵を横目に見ながら歩く。部屋を通るたびに、異様な気配は濃くなっていく。
大刀をグッと強く握った。
一番この気配が濃い場所は……。
とある絵の前で止まる。
「ここか」
誰でも聞いたことがあるだろう。
異様な配色をした背景。橋の上に無機質な人間が立っており、両手で頬を抑えながら大きな口で何かを叫んでいる。
――――ムンクの『叫び』だ。
説明文には人間の不安や恐怖、絶望を現す、と書いてあった。
俺は説明文をチラリと見てから、素早く大刀を絵に突き刺した。陶板なので硬いが、力押しで貫通させる。
もう一押し。
グッと大刀を深く突き刺してから、一気に引いた。
大刀で刺した穴から黒い影が出てくる。
「……」
俺はなるべく絵画から距離を置く。
天狗は足元からも影が出て攻撃されたと言っていた。
足元に注意しつつ、大刀をしっかりと握る。黒い影は何故か俺を攻撃することなく、目の前で漂っている。
さぁ、どこから来る…………。
「――――り、な」
黒い靄から何やら声が聞こえる。
俺は黒い靄に目を凝らす。
「――久し、ぶり、だ……な」
「!」
その声にはっきりと聞き覚えがあった。
「一体、どういう……」
そう呟いた瞬間、黒い影に足をグイッと掴まれた。
「!」
声に気をとられて油断してしまった。
「ぴい!」
すぐさまぴーちゃんが助けに入る。ぴーちゃんは黒い影を嘴でつつく。黒い影は一瞬怯むが、すぐに足を締め上げてくる。
「クソッ」
俺は大刀を足元の影に突き刺すが、全く効いていない。それどころか。
「お前、は……。相変わらず、だ、な」
黒い影から、いや、美術館全体からアイツの声が聞こえてくる。
俺は鋭い視線を目の前に向けた。黒い靄がどんどんと俺に近づいてくる。黒い靄は徐々に人型に変形していく。
やがて黒い影は一人の人物をかたどって、白い手を俺の肩に伸ばした。
「ここは、安全、だぞ。ずっと、ここにいる、のも……悪くないんじゃ、ないか。――夜行さん」
「お前……」
その瞬間、体が床にのめり込んでいく。床には黒い穴が開いていた。いつの間にか黒い影は俺の体全体に纏わりついている。
「お前、一体どういうつもりなんだ。…………田中 明愛梨」
体が徐々に黒い穴に引っ張られていく――。その刹那、眼鏡をかけた男の人がわずかに視界に入った。
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主人公の陽に引き続き、夜行さんも大ピンチです。果たしてどうなるのか……。ご期待ください!