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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない - 12.
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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


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12/16

12.


 午後。

 ミシェルは分厚い革張りのバインダーを抱え、皇帝の執務室の扉をノックした。

 用件は、先月の「月次税収報告書」の提出と承認印をもらうことだ。

 彼女の改革により、帝国の財政は劇的に改善し、今月も過去最高益を叩き出していた。その朗報を届けるための入室だったのだが――。


「……陛下?」


 入室したミシェルが見たのは、奇妙な光景だった。

 ギデオンが暖炉の前に立ち、何か上質な羊皮紙をビリビリと引き裂き、無造作に火の中へ放り込んでいる。


「おや、何をしておられるのですか」

「ゴミの焼却処分だ。阿呆共から、阿呆な申し出が届いてな」


 ギデオンは燃え上がる紙片を冷ややかな目で見下ろしていた。

 その紙片には、見覚えのある王国の紋章がちらりと見えた気がしたが、すぐに灰となって崩れ落ちた。


 その時、廊下が少し騒がしくなった。

 どうやら城門の方で、何やら揉め事が起きているらしい。

 近衛兵の声が微かに聞こえる。


『お引き取りください! 陛下は多忙であらせられる!』

『頼む! 一目! ミシェル様に一目だけでも! 国の存亡がかかっているのだ!』


 聞き覚えのある悲痛な叫び。

 かつてミシェルに仕事を押し付けていた、王国の宰相の声だ。


「……あれは」

「気にするな」


 だが騒ぎは止まらない。耐えきれなくなったのか、ギデオンは通信用の魔道具を使って、近衛へ連絡を取る。


「追い返せ。……これ以上、我が国の補佐官を侮辱するような寝言をほざくなら、宣戦布告とみなして『相応の対応』をすると伝えろ」

「はっ!」


 やがて外からは、「ひぃぃっ! す、すみませんんぅぅ! 出直しますぅぅ!」という情けない悲鳴と、転がるように走り去る足音が聞こえてきた。

 再び、静寂が戻る。


 ミシェルはバインダーをデスクに置きながら、淡々と尋ねた。


「一体、何だったのですか」

「お前の古巣の馬鹿どもだ。お前がいなくなって困っているらしい」


 ギデオンは暖炉から離れ、ソファに深く腰掛けた。


「『まずは戻ってこい。待遇は追って考える』だとさ。具体的な条件提示もなく、ただ『困っているから助けろ』という泣き言だ」

「……そうですか」


 ミシェルは眉一つ動かさなかった。

 自分のいない王国で、決済が滞り、物流が乱れ、国が傾いていることなど、容易に想像がつく。だが、それはもう彼女の責任ではない。


 ギデオンは足を組み、試すように、あるいは確認するようにミシェルを見上げた。


「……まあ、今更だ。俺たちには関係ない話だろ?」


 その言葉に、ミシェルは一瞬も迷わなかった。

 彼女は持ってきた報告書を開き、突き出した。


「ええ、関係ないですね。私はもう、『帝国の人間』ですので」


 その声には、未練も、感傷も一切なかった。

 あるのは、目の前の「帝国の黒字」に対する誇りと、現在の職務への誠実さだけ。


 ギデオンは少し目を丸くした後、満足げに鼻を鳴らした。


「そうか。なら仕事に戻れ」

「はい。……あ、陛下。羊皮紙を燃やすと煤が出ます。煙突掃除の手間が増えるので、次からはシュレッダーにかけてください」


 ミシェルが真顔で注意すると、ギデオンはククッと喉を鳴らして笑った。


「ふ……お前くらいだ、この俺に意見をする女は。本当に面白いぞ、ミシェル」


 祖国の崩壊などどこ吹く風。

 二人はそのまま、いつものように「帝国の未来」のための業務を再開したのだった。

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― 新着の感想 ―
ミシェル誘拐事件(犯人は祖国)が起きそう…。 若君抜けてるからなぁ…。 城に侵入される、もしくは視察中に誘拐とか。されそう……。
羊皮紙は確かに羊の皮だから脂分があるんで煤がめっちゃ出るよね〜 この世界のシュレッダー手回しのような気がする あと作業属人化しすぎるとあとが大変よ〜
具体案が無いのは帝国も同じじゃないか、責任を他者に押し付けて地位にしがみつくギデオンとか一番いい例だな
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