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エイリアン使いの異世界探索侵略譚 【第3章連載中】 - 0070 枯木は分けられ貪らる[視点:その他]
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0070 枯木は分けられ貪らる[視点:その他]

 血と臓物と肉が焦げる黒煙が、空を覆う嘆きの天幕の如くもくもくと立ち上る。

 その中に、枝葉と樹液と深緑を焼き尽くす黒煙が入り混じる。様々な生物組織――【人体使い】と【樹木使い】の眷属(ファミリア)同士が相争い相喰らい合った残骸が、血漿と樹液が混合した"雨"となって自治都市『花盛りのカルスポー』に降り注ぐ。


 ハルラーシ回廊の"西壁"、【樹木使い】リッケルの迷宮(ダンジョン)【疵に枝垂れる傷みの巣】は、部分的に崩壊していた。

 中空の絶壁に生えた"森"と、その枝々と幹々が絡み合い融合したドーム状の「外壁」はところどころが剥がれあるいは崩れて陥没して内部の構造を露出させており、繰り広げられた激しい戦闘の跡となっている。時折、露出した内部から――瓦礫に混じって生物が、さらにその中には"人型"のものが放り出され、吐き出される黒煙と、残骸の"雨"に混じって小さな災厄となっている。

 その様子は、カルスポー近郊の諸都市からも遠目に何かがあったということが察される有様であった。


 ――そのようにして「陥落」した【樹木使い】の迷宮(ダンジョン)内もまた死屍累々が積み重ねられている。

 『撓れる虚獣(フェイク=ギガント)』が『踊り狂う五指(ダンシングフィンガー)』と相討ちになり。

 『絶叫根精(クライ=グロウル)』が『舌切道化(タングコレクター)』によって粉々にされ。

 『たわみし偽獣(フェイク=ビースト)』が『魔女髪の帽子屋(ウィッチ=ハッター)』と互いをバラバラに解体し合い。

 『家具喰らい(チェアイーター)』は残らず『検魔の巨眼』によって見破られて破壊され。

 『全ての種子の母たる梢』は『打ち鳴らす顎骨(がくこつ)』によって食い荒らされ。

 主たる【樹木使い】リッケルと彼と共に出撃した『樹身兵団』に代わって迷宮(ダンジョン)に籠もり、守らずば死すという覚悟で防衛していた従徒(スクワイア)や、カルスポー義勇兵達が『骨喰み肉塊(ボーンイーター)』達の侵攻に壮絶に抗って次々に討死する。

 そのような光景が、【疵に枝垂れる傷みの巣】の各所で繰り広げられ、屍と樹木の残骸の山を積み上げていた。


 その中で、急襲部隊を率いる【人体使い】の従徒(スクワイア)エネムとゼイレは、各部屋の制圧と破壊、抵抗の排除を部隊の各執事(バトラー)女給仕(メイド)達に任せ、迷宮の最奥部へ。

 巨大な"心臓"を思わせる外観のドーム状施設たる『転生の間』に踏み込んだ二人は、そこにいくつもの枝と根と蔦を編んだような「繭」を見つける。それらはさらに、背面から何重もの"根の道"によって互いに、さらには迷宮自体に接続されていたが――魔素と命素の巡りがまるで死んだように途切れており、さながら霊安室であるかの如き静けさであった。


「なんだこりゃ、墓場か死体置き場じゃないか、これ」


 手近な「繭」を覆う根や蔓蔦を剣で強引に引き剥がし、彫刻の如き非人間的な魔性の美貌たる少年エネムが顔をしかめる。その中にあったのは――まるで体内の水分という水分、体液という体液を吸い付くされ干上がったミイラのような"遺骸"であった。

 事前に確認してきた【樹木使い】側の主要な従徒のリストと比較して、なんとか、かろうじてその顔貌の特徴から、それが『枝魂兵団』の一人であることがわかる。


「ねぇ、エネム! こっちはまだ綺麗……ていうか、こいつリッケルじゃない!」


 エネムを見て、『転生の間』の最奥の「繭」をこじ開けにかかっていた、こちらもまた彫刻か芸術品として造型されたような不気味なまでに端正の取れ過ぎた少女ゼイレが驚きの声を上げる。それを聞いて、相棒のところまで駆け寄ったエネムもまた、ゼイレと瓜二つ(・・・)な顔を驚かせる。


 長髪に痩せこけた頬。それはエネムとゼイレの記憶にあるリッケル=ウィーズローパーその人であり、彼の首元や心臓、手首の脈などを測るエネムが呆れたような声色で呟いた。


「こっちは干からびてないね。でも死んでるね……えーと、死んでからまだ1日か2日てところかな?」


「かつては麒麟児とまで言われて、【人体使い】の後継者候補だった人が……こんなもんなんだね」


「能力主義で世代交代! なんて嘘っぱちだよね。でも、それで今のテルミト伯がいて、僕らがいる――少なくとも伯に拾われなかったら僕らはここでこうしていない。きっと今も『逆さ傘のイディルピケル』で、小動物みたいに身体寄せ合って雨に打たれていただろうさ」


 それは小声で、口元だけを動かすような会話であった。

 何故ならば、二人は軽く目配せをし合って、近くに『這い回る片耳』が現れるかどうかを警戒し続けていた。つまり、それは二人だけの、たとえ主たるテルミト伯であっても聞かれたくない秘事である。


「それにしても、リッケルはとんでもないことをしたね。伯から聞いた時はびっくりしすぎて顎が外れるかと思ったけれど」


「いくら元後継者候補だったからって……【樹木使い】の力で"黄金の比率"に近づこうなんて、意味がわからないよ」


 【樹身転生】によって仮初の肉体――そのために生み出し調整し造型された眷属ではあるが――に意識と魂を転移させ、迷宮領主(ダンジョンマスター)としての強みと眷属(ファミリア)の特性を併せ持って最果ての島を制圧、大返ししてテルミト伯の居城を襲撃する。

 そしてその時間稼ぎと目眩ましのために【蟲使い】との【情報戦】にテルミト伯を引きずり込む、というのがリッケルの戦略であった。だがしかし、彼の戦略は早々に、ある理由から破綻していた。

 少なくとも、眷属の身体に自身を移すという迷宮領主(ダンジョンマスター)にとっては外法の類である【樹身転生】は、早い段階でテルミト伯に知らされるところとなっていたのである。


 そちら(・・・)は、現在、テルミト伯が激しい苛立ちを必死に押さえつけて"対応中"である、とわかった上でのエネムとゼイレによる「サボり」の会話である。


「いやさ、確かに生物ってくくりなら植物も動物と比べたり対応させられる要素はあるよ。でも、いくらなんでも、肉と骨と脂の代わりに枝と根と葉でできた"人間"だなんて――拡大解釈もいいところじゃない?」


「【人体使い】の従徒(スクワイア)として"黄金の比率"を目指す私達からしたら、異端もいいところだよね。異端と言えば、リーデロットという(ひと)も、城にいた時からずっと絶滅したはずの小醜鬼(ゴブリン)の研究ずっとしていたらしいし」


「でもさ。伯が送り込んだ"眼"であの島に小醜鬼(ゴブリン)が生き残ってるって、伯も僕らもあの時知ったわけだけど――リーデロットは、どうやってあの島に小醜鬼(ゴブリン)が蔓延ってるって知ったんだろう?」


「みんな色々するよね。そんなに【人体使い】の称号が大事、なのかな」


「伯が言うには本当に特殊らしいからね、僕らが仕える迷宮(ダンジョン)は」


 通常、迷宮領主(ダンジョンマスター)はその心臓に迷宮核(ダンジョンコア)が同化することで元の生命の枠を外れ、半不老となる。『ルフェアの血裔』は70年から80年生きる存在であるが、その寿命が3倍から4倍、迷宮(ダンジョン)の特質によってはそれ以上ともなるものであり、戦って殺されるということでもなければ、代替わりは滅多に起きるものではなかった。

 ――だがしかし【人体使い】は異なる。

 "黄金の比率"と彼らが呼ぶ叡智に――神の似姿(エレ=セーナ)に至ることをこそその存在意義として生まれたこの界巫直属(・・・・)迷宮領主(ダンジョンマスター)は、常の新陳代謝を求められる存在であり、下剋上が繰り返される迷宮でもあったのだ。


「【人体使い】になり損なってなお、リッケルもリーデロットもなりたがったのかな……ねぇ、ゼイレ。リッケルはさ、完全な存在に少しでも近づけたのかな? こんな無茶苦茶なことをして」


「わからないや。でも……"植物"を取り入れたんだから、"何か違う存在"にはなっていてもおかしくないね。純血の人達からしたら発狂ものだろうけれど、多分よくわからない新種が生まれはする」


「問題は、それが"人族"の範疇に入るかってことだよね」


「彼が何を求めてたかなんてわかりっこ無いけれど――ねぇ、伯、遅いね。もう僕らで先に迷宮核(ダンジョンコア)抜き取って回収して、"裂け目"の【不活性化】もしておかない?」


「そうしよっか。予想通りとはいえ、面倒な(・・・)相手の相手は、伯にしてもらいたいもんね。とばっちりはご免だよ」


 頷き合い、エネムとゼイレは互いの左胸、心臓のある辺りに手を当てる。

 【人体使い】固有の情報通信手段である【鼓拍の脈言】によって、他の従徒(スクワイア)達と連絡を取り合い、制圧と残党狩りの進行状況を連絡し合う。その後、干からび始めていたリッケルの遺骸を乱暴に引きずりだし、その胸に剣を突き立てるのであった。


   ***


 場所は変わって『作戦本部』。

 執事長とメイド長、そして『踊り狂う五指』を護衛として背後に控えさせ、テルミト伯は額に青筋が浮かぶのを必死に抑制しながら、努めて丁寧で柔和な表情を浮かべ、眼前の人物と相対していた。


 周囲には死んだ【樹木使い】の従徒達の死体が血生臭く散らかって(・・・・・)いる。

 そのいずれも、内部から樹木が生え弾け――さらにその樹木が内側から裂け割れて、まるでさらに内部(・・・・・)から何かが、殻を脱ぎ捨てるかのように這い出したかのような空洞となっているという、【人体使い】テルミト伯をして筆舌に尽くしがたい死に様であった。

 無論、それを成したのはテルミト伯ではない。そしてリッケルが裏切りの防止措置のために従徒達に植え付けた『冬人夏叢(とうじんかそう)』の仕業でもない。


「やーんもー、てるみんったら本当にお堅いんだからー。元々りっけるんはパパの債務者でーだからここは取り立て対象? 差し押さえ物件? 的な? 丸ごと私らがもらうって決まってることだしー」


「えぇ、えぇ、その辺りの事情はわかっていますよ、わかっていますとも、ロズロッシィ様。ですが私達『励界派』の事情も知っておいていただきたい。私個人の事情もね、リッケルの大馬鹿野郎は、一応は私の傘下に降ったわけですから……このようなことをされてしまうと、私としても非常に困ります、困るのは私だけでもないですからね」


「なによー自分も債権者だって言いたいわけー? だったら早いもの勝ちじゃん、そんなのこの世界の常識ー。遅かったてるみんが間抜けでお馬鹿さん、けなげにずっと準備していたロッシィちゃんの頑張りかっさらおうってわけー?」


 砕け過ぎた口調――聞いていると頭が悪くなる、と"てるみん"ことテルミト伯が内心で頭を抱える中、眼前の少女はあっけらかんと小馬鹿にする態度を改める様子は無い。それは素直であるとも、傲慢であるとも言える。

 金色の髪を大きな青いリボンによって豪奢なツインテールに結わえた少女ロズロッシィ――グエスベェレ大公の娘にして【宿主(しゅくしゅ)使い】は、子供のような華奢な身体を、まるで人形遊びに使われるかのような深い青色のゴシックドレスに包んでいる。およそ、血生臭い会合の場にそぐわない存在であった。

 ただし、黙っているならば、その地位と血筋に相応しい存在として誰からも敬服されるであろう。

 当人もそれを生まれ持ってのもの、所与のものとして理解するような、上位者としての眼差しを睥睨させる者である。


 しかし、彼女と多少でも"交渉"した者であれば、それが一面の仮面に過ぎないと気づく。

 【宿主使い】ロズロッシィは貴人の姫君然とした表情を老獪な獣のように歪め、にやにやとテルミト伯の反応を窺っているのである。

 そして、テルミト伯の背後の執事・メイド達の緊張と警戒は、その場が一触即発であることに代わりが無いことを物語り続けている。


 それもそのはず。

 ロズロッシィの周囲には、血まみれの異形の化け物とでも言うべき眷属(ファミリア)達が、すえた内臓液のような悪臭を周囲に撒き散らし、よだれを垂らしながら、ただ主の命令だけを待っていたからだ。今この瞬間にも、ロズロッシィが気まぐれを起こせば話し合いは殺し合いに発展するだろう。


 【宿主使い】の権能により、【樹木使い】リッケルが配下達の体内に仕込んだ『冬人夏叢』の――そのまた体内に寄生(・・)していた『長針の(ひる)足兎』という名の眷属(ファミリア)は、頭部からぶよぶよとした脂肪の塊のステーキのような「耳」を二枚生やし、巨大な蛭を思わせる手とも足ともつかない「足」を6本生やした異形である。さらにその"尾"は長大な針となっており――産卵管の役割を果たす、【宿主使い】ロズロッシィの"基本種"であった。

 【幻獣使い】グエスベェレ大公よりリッケルが借款を受けた折、早い段階から好奇心(・・・)によって介入の機会を狙っていたロズロッシィが、"寄生種"を仕込んでいたのである。それによって内部から【疵に枝垂れる傷みの巣】を制圧しようとしたが――異変に気付いたテルミト伯は、もはやリッケルを泳がせておくよりも、その迷宮核が大公の手に落ちることを嫌って、やむを得ず総攻撃をかけたというのがこの戦いの真相であった。


「【蟲使い】がカルスポーを落としたでしょう。ロズロッシィ様が引っ掻き回してくれたお陰で、あの陰気な男がこれから調子に乗ることを考えると非常に頭が痛いのですが、元々リッケルの大馬鹿野郎への"取り立て"役は奴だったのでは?」


「あーそだねーうぇる君なんか頑張ってるもんね? 彼のお師匠様とパパは、良い関係築いてたんだけどなー同じようになることをあたしとしても望むよねー」


「……カルスポーとこの迷宮(・・・・)を二つとも押さえてしまうのは、今はまだ大公閣下には時期が悪いはず。そうではありませんか? 今、回廊全体に衝撃を与えるのは、大公閣下には具合が悪いはずだ。準備不足だということぐらい、私にもわかりますよ」


「あーなにー! 私の独断専行だって言いたいわけーそれをパパに告げ口しちゃおうってことー? てるみんのそういうところほんと嫌い、ねちねちだよねーてるみんてほんとさーもー」


「こじれれば、あの蝙蝠野郎フェネスが出張ってきますよ。私はあいつの顔も見るのも嫌なので、可能ならばさっさと手打ちにしたいわけです――迷宮核(ダンジョンコア)と"裂け目"は渡せませんが、大馬鹿野郎が大公閣下から借り受けた分は、我ら(・・)"励界派"が分割で返済するのはどうでしょうか」


「あはは、ほんとてるみんて意地悪だよねーそれどう見てもうぇる君に負担させようってことじゃん!」


 テルミト伯がリッケルの降伏を受け入れたのは、後日難癖をつけて改めて攻め滅ぼすためでもあったが、同時に【蟲使い】が再びカルスポーを制圧することがないように牽制するためであった。グエスベェレ大公が【樹木使い】リッケルを自分に対抗させてカルスポーを支配させる、その意趣返しを狙ったものでもある。

 しかし【宿主使い】ロズロッシィが【疵に枝垂れる傷みの巣】を混乱に陥れた以上、カルスポーの守りは衰える。そうなれば【蟲使い】ワーウェールとしては、彼の悲願であったカルスポーの奪還を堂々と進めてくるであろうし、探り合いの【情報戦】を律儀に自分と続ける必要など彼には無い。

 レェパもワーウェールの行動の支持に回ることが予想されたため――それならば、テルミト伯としては彼の後ろ盾(・・・)の名前を出す他は無かったのであった。


「大公閣下にとって価値があるのは"裂け目"よりも『街』そのもの。それに、紐のついていない私ではなくて陰気男から取り立てる方が確実でしょう? そのまま引き抜いてもらっても私個人としては一向に構いませんが、レェパが騒ぐかも知れませんね。そうならないよう、私が、我々として大馬鹿野郎の借款の返済を約束するのでいかがでしょう」


 テルミト伯の提案に思案顔となるロズロッシィ。

 およそ年相応の少女とは思えぬ邪悪な笑みを浮かべ、人差し指を唇に押し当てる。


「んーそだねーそれじゃあ【不活性化】も条件に入れよっかー。期限はれぇぱんとてるみんの組織? がきっちりりっけるんの借款返し終えるまで。それまではその迷宮核(ダンジョンコア)の利用は禁止だし、とーぜんふぇねちゃんにも飲ませてよ? ていうかーふぇねちゃん欲しがると思うけど渡しちゃだめだからー。その後だったらむしろカルスポーとその迷宮核を交換したっていいぐらいかもーあぁでもこれはパパに要相談かなー、あーみなりんに怒られるかもーあー嫌だなー」


 リッケルの捕縛、または殺害のために深部に出撃させたエネムとゼイレから、最終的に"裂け目"の確保まで済んだという報告がテルミト伯の元に届いたのはその時である。かつてカルスポーの英雄として、街の頭上に迷宮(ダンジョン)を構え、勢いを増していた【疵に枝垂れる傷みの巣】は、こうして文字通りに解体されることとなった。


 テルミト伯はその後、具体的な条件や段取りについてさらにいくつかロズロッシィと取り決めを交わし、その記録を互いの眷属(ファミリア)それぞれの能力によって作成して、お互いにそれを検め合う。

 そして、満足した【宿主使い】ロズロッシィが、蠢く絨毯状のいくつもの"卵"を腹に抱えた、タガメと虎を合成させて虫羽を生やしたような奇妙な「寄生生物」に乗って飛び去るのを見て、ほんのしばらく前に【鉄使い】フェネスとも似たようなことが同じ場所であったなと、苛立ちがぶり返すのを感じる。


 ――それでも最低限、グエスベェレ大公の勢力拡大は遅延させることができたか、と考える。

 【蟲使い】ワーウェールが先代のような力を取り戻すには、まずカルスポーから、リッケルがグエスベェレ大公から受け取っただけの資源(リソース)を搾り取る必要があるだろう。そしてその後も、『街』を手に入れた【幻獣使い】が何をするのかを、知らない彼ではない。それによって生じる荒廃(・・)は、はっきり言ってテルミト伯の感覚からすれば「割に合わない」ものではあるが――それでもカルスポーを欲しがっているのであれば、矢面に立ってくれればいいのである。


 思考しながら冷静さを少しずつ取り戻していく。

 更に、怒りを鎮めるべくエネムとゼイレを呼び出して愛でようとするテルミト伯であったが――他の配下から、今度は【傀儡使い】レェパ=マーラックと【鉄使い】フェネスから矢継ぎ早に先触れの使者と、詰問するような"質問状"が送りつけられてきたことを知り、どっと疲れが押し寄せるのを感じるのであった。


「更なる力を得るために、高みに登るために【人体使い】になったというのに。どうしてこうも、求道とは関係の無い厄介事ばかり起きるのだ……リッケルめ、リーデロットめ、どいつもこいつも。あぁ、煩わしい、煩わしい。最果ての島の"新人"もそうだ。リッケルを討ち取るとはな……副伯(バイカント)になってるかもしれないな、この分では。あぁ全く」


 その後、テルミト伯が投入した戦力と、そして頼んでもいないにも関わらず後から現れた他の"励界派"のメンバー達の戦力によって、制圧と解体は速やかに進められる。

 その最中、ロズロッシィとの独断での交渉と【蟲使い】のカルスポー制圧が"励界派"の今後の戦略に与える影響の議論や、その後始末と互いの領分の微調整。そして【鉄使い】フェネスからの嫌がらせのような連絡などで、さらに数日テルミト伯は苛立ちを押さえながら、この一件の後始末をつけることとなる。


 ――彼がリッケルを撃退して『最果ての島』を掌握する存在としての立場を確固たるものとしたオーマに、接触のために新たなる眷属(ファミリア)を送り込んだのは、それからさらに10日ほどが過ぎて後のことであった。

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[一言] 他人視点: 元『励界派』【樹木使い】は【人体使い】と戦う為に借金=>『励界派』に復帰して【人体使い】と共闘 カルスポーは結局は『励界派』の「蟲使い」=>『励界派』【樹木使い】=>『励界派…
[一言] 最近講義で寄生虫について勉強してて(【寄生虫使い】とかでてきたら面白そうだなー、でも【蟲使い】とか【エイリアン使い】と被りそうだしないかー)とか思ってたから、【宿主使い】でてきてめちゃめちゃ…
[良い点] 迷宮領主の寿命は2〜300年って長生き。 その中で人体使いは世代交代が速いって、あんまりなりたくないような…実際は希望者が多いみたいですけど。 神の似姿に至るのが目的ってことは、人世の方に…
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