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エイリアン使いの異世界探索侵略譚 【第3章連載中】 - 0071 狂樹の置き土産(1)
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0071 狂樹の置き土産(1)

12/27 …… 昇格時の解禁特典について

【45日目】

 ―― 改め【降臨暦2,693年 燭台の月(3月) 第4日】


 副伯(バイカント)迷宮領主(ダンジョンマスター)にして【樹木使い】たるリッケルの軍勢との戦いが過ぎ、俺は最果ての島の復興作業と"戦果"の確認、さらに今後予想される【人体使い】テルミト伯の次の一手に対する備えのための沿岸防備体制の構築などに追われていた。

 といっても、実務は現場で「土木工事」を行う労役蟲(レイバー)触肢茸(タクタイラー)達が行い、その指揮は"名無し"達の群体知性とそれを掌握する副脳蟲(ぷるきゅぴ)どもにやらせている。俺は大きな方針を示して細かいところは彼らに任せ、何か判断を求められた際にその都度、会話を脱線(きゅぴきゅぴ)させる連中へ辛抱強く指示を下す形を取っていた。


 というのも、今俺は件の『大産卵室』に仮設の寝具を用意して寝泊まりし、加冠嚢(イニシエーター)に【魔素操作】と【命素操作】を発動し、その"胞化"促進を黙々と進めており、その作業に集中していたからだ。

 先行して"胞化"を促していた1体が、今のペースならばあと2日と11時間。

 加えて、新たに4基の加冠嚢(イニシエーター)に対しても同時並列で【魔素操作】【命素操作】により――それぞれ残り10日となっている。


 本来であれば、1体目であっても完全な"胞化"完了までまだまだ残り2週間程度であった。

 それをここまで短縮できたこと、さらに複数同時でも加減を間違えずに集中できている要因は6つあった。


 第一に、俺自身の位階上昇(レベルアップ)で得た技能点から【因子の注入(グラウト=ジーン)】の位階(レベル)をMAXまで上昇させたこと。次に、同じ位階上昇(レベルアップ)処理によって迷宮領主(ダンジョンマスター)としての『保有魔素』『保有命素』が増大したこと。

 また一ツ目雀(キクロスパロウ)カッパーの補助を受けて【魔素操作】【命素操作】の精度が上がったことと、それに加えて当のカッパーが現在つきっきりで俺の文字通り「生きた魔法の杖」として補助に徹してくれていることが大きい。というのも、カッパーを通して彼の感覚が副脳蟲(ぷるきゅぴ)達にフィードバックされるため――実質的に副脳蟲(ぷるきゅぴ)達をも【魔素操作】【命素操作】の手伝いに巻き込むことができているからである。


 またその他に、"進化の促進"作業に『魔石』と『命石』を活用できるようになったこと。

 そして最後に、これは怪我の功名に近いが、加冠嚢(イニシエーター)が補助無しでは「30日」という"大食らい"であったことで……言うなれば、多少"強引"な注入でも問題が無かった、というところだ。

 俺がこの世界に転移してきた当初は、幼蟲卵(ラルヴァ=エッグ)1つに進化促進をするのにも繊細な魔素と命素の操作が求められていたが――あれは俺自身の技量の問題も確かにあったが、単純に、必要とする量が「少なすぎた」のだ。

 「第4世代」ともなる加冠嚢(イニシエーター)が必要とする"量"では、瞬間的な魔素と命素の注入量が多少行き過ぎても、即座に破裂したり壊死のような副反応を起こすことは無かった。


 そのことに気付いたのは、対リッケル戦での壮絶な潰し合いの中で、奴の海中拠点を潰すために突牙小魚(ファングフィッシュ)を集中生産していた時である。

 ……さすがに、常時変幻流転する戦況を把握し、情報を吸い上げて指揮しながらの進化補助作業では実は何度も手元が狂った。だが、幼蟲(ラルヴァ)であったらたちまちに爆散させていただろう加減間違いであっても突牙小魚(ファングフィッシュ)の"蛹"が破裂するということは無く、もしやと思って、いくらか乱暴な勢いで【魔素操作】【命素操作】をやっても彼らは無事に「存在昇格(アセンション)」を完了してくれたのである。

 

 それで、リッケルの埋葬とか「謎の種子」をル・ベリに任せてあれこれ指示を出して早々、奴の"迷宮経済"によって奪われた【領域】の再定義を強行軍で1日で終わらせた後。

 戦力の補充速度という根本的なボトルネックの緩和のために、俺は現在、加冠嚢(イニシエーター)の"胞化"促進を優先しているというわけである。


 思うに、リッケルが――【樹木使い】がそういう(・・・・)特性であるということを差し引いたとしても、苦戦が続いたのは「進化」を俺自身の手で直接行わなければならなかったことだ。

 一応、副脳蟲(ぷるきゅぴ)達によって、随時労役蟲(レイバー)走狗蟲(ランナー)達に幼蟲(ラルヴァ)を、俺の行動計画に合わせて移動させることで随時「進化指示」を出すことで無理矢理誤魔化してはいたが――それでも坑道に押し込まれる頃には、迷宮経済が赤字化して幼蟲(ラルヴァ)がバタバタと倒れ始め、完全に後が無い状態となっていた。

 あのまま持久戦で臨まれていたら、走狗蟲(ランナー)達も維持コストを贖えずにまとめて斃れ、俺は敗れ去っていたかもしれない。その意味では、リッケルの側に「時間制限」があったことも、運が味方した結果なのだろう。


 そして、最終的に【樹木使い】の軍勢を煮殺した「釜」の制作の指揮だけではない。"荒らし(ハラス)"合戦での1体単位、1ミリ単位、1秒刻みでの調整にさらに加えて、そうした幼蟲(ラルヴァ)の移送ルートの構築をも噛み合わせた全体指揮は、俺一人ではまずできないことだった。

 ――副脳蟲(ぷるきゅぴ)どもあっての勝利、というわけである。

 認めてやるのは癪ではあるが、奴曰く"外法"によってではあるものの迷宮領主(ダンジョンマスター)4人分もの指揮能力で乗り込んできたリッケルの軍勢との絶え間ない【眷属戦】と【相性戦】を有利に進め、抗うことができたのは間違いなく副脳蟲(ぷるきゅぴ)達の力によるものだ。迷宮領主(ダンジョンマスター)眷属(ファミリア)としての繋がりに加えて、彼らは俺によって名付けられ俺の中から「俺を輔ける」ために生まれたという"役割"の特性上、【精密計測】に近い"脳"力を発揮している。


 それにより実現できた、非常に精密な指揮能力差こそが勝因であった――と戦後の戦況分析で俺は結論付けていた。

 ならばこそ、そうした進化と分岐という【エイリアン使い】の戦略上重要な機能を、俺一人だけに依存した状態には無理がある。それこそ、女王蟻の如く「産む機械」となって一箇所に引きこもり鎮座し続けるという体制も構築できはするだろう。ひょっとしたら【黒き神】やその意を受ける【闇世】の最高司祭、界巫(かいふ)が望む迷宮領主(ダンジョンマスター)の理想像とは「そういう」ものであるかもしれない。


 だが、俺は俺で、目的があった。目標があった。

 動き回らなければならない理由があり、探さなければならないものがあったのだ。


 正直、【樹木使い】リッケルとの闘争の中では、迷宮領主(ダンジョンマスター)としての役割に徹し、それ以外の感情を排除して――勝つためにだ――自分自身を"機械"に研ぎ澄ませようとしていた部分も、あった。

 だが、当のそのリッケルから、俺には「探しもの」があることを否応なしに思い出させられてしまったのだ。

 あるいは、茹だるような灼熱の熱湯地獄の熱気で視界すらも歪んでいた中で、この世界に落ちてくる直前の"炙られた"記憶が刺激されていた、ということもあろうか。


 ともあれ、俺自身の役割をより純化させる意味でも加冠嚢(イニシエーター)の早期投入は【エイリアン使い】の戦力拡充と選択肢の拡大のための最優先事項となったのである。


造物主様(マスター)の指示に従って、僕らが同胞(はらから)のみんなを臨機応変さんに生産さんできるね!≫


≪きゅっぴっぴ……造物主様(マスター)もきりきり働いてもらうのだきゅぴ。僕達の演算さんが増えるほど、造物主様(マスター)の最終判断さんも増える! 旅は道連れ夜のお酒なのだきゅぴぃ≫


≪ま、造物主様(マスター)……とりあえず加冠嚢(イニシエーター)さんを、1基完成させたら……"進化補助"さんはカッパーさんと加冠嚢さんに任せて大丈夫だよ?≫


≪ほう、アン。どこかの自称チーフと違って、それは興味深い指摘だな≫


≪う……うん、1基目の加冠嚢(イニシエーター)さんがね? 「やり方なんとなくわかったよ!」だって……≫


 どうやら俺の【因子の注入】と、カッパーによる補助付きの【魔素操作】【命素操作】を、この胞化完了まで「残り2日と10時間43分」となっている加冠嚢(イニシエーター)副脳蟲(ぷるきゅぴ)フィードバックにより、エイリアン的同調能力で"理解"したらしい。

 ――さながら、SFものに出てくる自己複製能力を持ったナノマシンの如く、1基加冠嚢(イニシエーター)がいれば自身の同系統を含めて、ちょっとした一群ならば「任せて」構築させてしまうことができるか。しかもそれに必要なのは魔素と命素、つまり"迷宮経済"であるわけだから――副脳蟲(ぷるきゅぴ)達にとってはますますその指揮の範疇のものとなる。


≪わかった。それなら、とりあえず今の1基を最優先で仕上げることに俺は集中するとしようか≫


 他の4基に分散・並列で注入していた【魔素操作】【命素操作】を自信のこもった名乗りを上げてくれた加冠嚢(イニシエーター)に集中させる。その進化完了までの時間が徐々に加速していき「残り1日3時間34分」で安定するのを見やりながら、俺は改めて、俺自身(・・・)に起きた小さくない大きな変化を再確認するべく【情報閲覧】を(そら)んじた。


【基本情報】

名称:オーマ

種族:迷宮領主(人族[異人系]<侵種:ルフェアの血裔>)

職業:※※未設定※※ ← APPLIED!!!

爵位:副伯(バイカント) ← UP!!!

位階:30 ← UP!!!


技能(スキル)一覧】


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 まず位階(レベル)については、俺の実年齢である「26」を越えた後に「種族経験」が上がりにくくなるのが感覚レベルでわかった。少なくともその上がり方の間隔や幅といったものが、ここを境に"半減"したように感じられたのは実感としての事実である。


 ただ、前にも想定した通り――単なる"半減"に過ぎず、いきなり全く上がらず押さえつけられているというものでもない。27から28、29、そして30へと至るペースはその"半減"した状態でもコンスタントだったからだ。

 この先これがさらに半減のそのまた半減していく可能性はあるが、成長量が完全にゼロになる……ということは無いのかもしれない、というのが俺の今の考えである。


 なお、与えられた技能点(スキルポイント)18点分については、位階上昇(レベルアップ)自体は【樹木使い】の軍勢との戦いの準備段階から始まっていたため、余らせたり蓄えておく余裕は無く、その都度必要としていた技能の底上げに注ぎ込んでいる。

 土木工事のために【体内時計】と【精密計測】を、そして先にも述べた"進化促進"のために【因子の注入】に、それからリッケルが露骨に【領域戦】を仕掛けてきていたため【領域定義】をそれぞれ上げた形だ。


 これら自体は、当初の俺自身のビルド方針からは大きくは外れない。

 加冠嚢(イニシエーター)に今後は任せることができるため、【因子の注入】はできれば後回しにはしておきたかったが、命あっての物種であり背に腹は代えられない。だが、これはこれで今後、俺が"外"にさらに一時的な拠点を作る上では役には立つかもしれないが。


 ――ただ、ビルドという意味で言うのであれば、根本から考え直さねばならない要素が今回、新たに現れた。

 それが『副伯(バイカント)』への昇爵(クリアランスアップ)であり――待ち望んだ"解禁"要素は次の通り。


 その1。【闇世】Wikiへの「編集"提案"権」。

 以前、俺自身の眷属(ファミリア)の情報について【闇世】Wikiに編集を提案するかどうか迷宮核から確認され、爵位権限(クリアランス)不足で却下されたアホみたいなことがあったが、副伯(バイカント)になったからには正式にできるようになったらしい。

 ただ、広域で連合して共通の敵に対峙しているような情勢であるならまだしも、迷宮領主(ダンジョンマスター)同士が争っている現状であえてそうするメリットは薄いだろう。もしも「嘘」を書いたり、情報操作が効くのであれば、多少は使い所もあるかもしれないが――現状、【闇世】に存在する他の多くの迷宮領主(ダンジョンマスター)達がそうしていない以上は、俺もそれに倣うべきだろう。

 それにあくまで"提案"でしかないため、つまり許可する何者か、おそらくは『九大神』か"界巫"かに一方的に情報を検められる可能性も高かった。そうなれば、情報操作すらできずにその意図だけ抜かれて終わりである。


 その2。【闇世】Wikiでの追加のいくらかの知識。

 技能や称号、経験や魔法といった世界法則系のシステム周りについては、予想していたことではあるがやはり副伯(バイカント)では郷爵(バロン)に毛が生えた程度のものでしかなく、何ら核心的な新事実がわかったわけではない。

 だが、迷宮領主(ダンジョンマスター)としては使える知識はいくらか与えられている。"裂け目"に関してのものであったり、ひとまず"一人前"と認められはしたのか、この世界の"暦"に関する正確な知識が「共有」されたのはありがたかった。


 それによれば【闇世】は【全き黒と静寂の神】が"一握の土くれ"からこの世界を創造した時を起源とし、『降臨暦』という暦を採用しているらしい。


 ……ご丁寧に【闇世】Wikiの各頁に「更新年月日」がこの暦での表示で正確に表示されるようになっており、今日(・・)が「燭台の月」の「第4日」であるということもわかった。

 なお、意外なことだが、これが偶然か知らないが――この世界の暦法は元の世界に近く、1ヶ月が30日の12ヶ月360日から成っていた。そして、それぞれの月は『九大神』の神話にちなんで『秤、夢石、燭台、沃土、百眼、合鍵、鉄靴、寝台、銀盃、山彦、鋳型、黒檀』と呼ばれている。


 つまり、今日は「3月4日」というわけであった。

 また「年」に関しては『降臨暦2,693年』と、元の世界を軽く上回っているものであったが――魔法や技能や迷宮なんぞが存在している以上、必ずしも文明発展のレベルは同様のものではないと思われた。

 加えて、暦の知識が入ってきたのではっきりわかったことであったが、竜人(ドラグノス)ソルファイドの因縁(ルーツ)たる『竜主国』による【人世】の支配は1,000年以上にも及んでいる。

 竜によって他の生物が「支配」されていたのであれば、きっと人間系の種族にとっては停滞の時期であったはずであり――そこを差し引くならば、創意工夫と発明によって社会や産業を発展させうる存在、としての「人間」の性質がこの世界(シースーア)でも同じであるならば、文明の発展に使うことができた時間は千数百年であるか。


 ……これも乱暴な推定に過ぎないが、【人世】での技術や社会経済の発展度合いは、元の世界での「近世」に相当する段階である――かもしれない。確証は何も無く、考えるとっかかり程度にしか使えないだろうが。


 とりとめもない思考を一旦手仕舞いし、俺は副伯(バイカント)となった"特典"の中で最も重要なもの。すなわち、新たに"解禁"され、選択できるようになった俺自身の『職業(クラス)』に意識を向けた。


≪きゅぴぃ! つ、ついに造物主様(マスター)が"無職"さんから脱却……! きゅぴは感無量なのだきゅぴぃ≫


 いや、それを言うならお前ら(エイリアン)には『職業』の項目自体存在していないのだがな。

 どうも迷宮領主(ダンジョンマスター)システムでは、まだひよっこである郷爵(バロン)であるうちはきっちり迷宮領主(ダンジョンマスター)"稼業"に集中させるために、つまりその生き方に集中させ関連の技能も取らせるために『職業』は制限されている、というのは以前考察した通り。

 だが、そこから一皮剥けて副伯(バイカント)となった際には、今度はその戦力や選択肢の拡充のために『職業』を解禁する、ということであるか。であるならば、副伯(バイカント)であったリッケルや伯爵(カント)である【人体使い】テルミト伯なども、迷宮領主(ダンジョンマスター)としての役割とはまた別の『職業』を有しているのだろう。


≪きゅぴぃ~、教えて迷宮核(コア)ちゃん! 造物主様(マスター)には一体どんな求人票さんが来ているかなだきゅぴ!≫


 調子に乗った副脳蟲(ぷるきゅぴ)が勝手に俺の脳内から迷宮核(ダンジョンコア)に語りかけるや――。

 いつものシステム通知音と共に、まるで俺から問いかけられた時のように【情報閲覧】の表示が拡張され、『職業』欄から新しいウィンドウがポップアップ。目の前に、いくつかの「選択肢」が表示された、現時点で俺が選択可能だと思われる「職業(クラス)」の一覧が表示されたのであった。


『選択可能職業』

・火葬槍術士(※派生条件クリア)

・四元素術士(※派生条件クリア)

・槍戦士

・魔導の学徒

・詐術師


≪思ってもみない誤作動があるかもしれないから、迷宮核(ダンジョンコア)に勝手に話しかけるのは緊急時以外禁止な≫


 ――そう副脳蟲(ぷるきゅぴ)どもに言いつけておいて、俺はとりあえず一番下の選択肢は見なかったことにする。

 ル・ベリの時もそうであったが、この「選択肢」が俺自身の「認識」によって得られたものであるならば「槍戦士」だとか「魔導の学徒」だとかいうのは、俺が指揮杖代わりに『黒穿』を使っていたこと、そしてカッパーの補助によって「魔法」の力に関するキッカケを掴んだことによるのだろう。

 他方で、俺は迷宮領主(ダンジョンマスター)として軍勢を指揮したり、兵站を維持したり副脳蟲(ぷるきゅぴ)どもを統率したりしているので、例えば『指揮官(コマンダー)』というような「職業」がもし存在するならそれが出てきてもよいのではないか、と考えたが……。


≪きゅぴ、造物主様(マスター)何を突然黙ったきゅぴか?≫


≪……いやな。いつものパターンなら、ここで迷宮核(ダンジョンコア)から「職業が追加されました」とかそういうシステム通知音が来るかな? と思ってな≫


≪変わってないねぇ、創造主様(マスター)、あはは≫


 思うに、俺が最果ての島を制圧する際に行ったことや対【樹木使い】戦で繰り広げた数々は、あくまでも迷宮領主(ダンジョンマスター)としての「経験」である、ということか。つまり、それとは異なるこの世界における役割としての『職業』の選択肢に至るものではなく、あくまでも「種族経験」に過ぎない、と。

 そして、そうした「種族経験」を除いた「職業経験」として選択肢に上がってきたのが、この5つなのであろう。


 後、その意味で気になるのは上2つの「派生条件をクリア」したらしき、2職業であるが。

 「認識」が意味を持ち、俺自身がそれをそういう名前(・・・・・・)で「認識」することに重要な意味が与えられるこの世界の法則(ルール)では、この2つは3つ目、4つ目の「職業」と比較してみる限りでも明らかな上位職業か派生職業であると思われた。


≪ええっとぉ! ル・ベリさんの時には無かったよね?≫


≪そうだな、無かった。まぁこの世界に「職業」がそもそも何種類あるのか――そしてその数が常に一定かもわからない現状、考察材料は少なすぎるがな≫


≪きゅぴぃ、でもル・ベリさんは"転職"エージェントさんができそうだったきゅぴ? 造物主様(マスター)も、片っ端から選んでみるとよいのだきゅぴぃ!≫


 よくわからない単語が後ろについたが、ウーヌスが言ったのは俺がル・ベリの『職業』欄を、現在の『奴隷監督』からいつの間にかさらに変更できるようになっていたことが最近わかったことを指摘したものである。

 実際、ル・ベリの『職業』はそもそも消去法での選択であり、他により良い"選択肢"が出たらそれに変更することを想定して、仮置きで『奴隷監督』にしていたものであったが――少なくとも『奴隷監督』に設定した"直後"は、すぐに転職をさせることはできなかった。

 それに気付いたのは、後で改めて本人を呼び寄せて確認するつもりであるが、【樹木使い】戦が終わってからのことであった。


≪思うに、一度でもその「職業」を選択したら、しばらくはその職業での「経験」を積まないといけない仕組みなんじゃないか、というのが今の仮説だ。だから、そうほいほいとロンダリングじみた転職はできないのかもしれない≫


≪きゅきゅぴぃ。でもル・ベリさんが「奴隷監督」さんになってから、何ヶ月とか何年も経ってるわけじゃないきゅぴ。きゅぴは……造物主様(マスター)の就職活動さんが見たい! わかった! ここは僕がきゅぴ肌脱いで適性検査するのだきゅぴ! 造物主様(マスター)に今から三者面談(きゅぴきゅぴ面接)を――≫


≪あーはいはい、ウーヌス僕とあっちで遊ぼうねー。取り込んだ海流さんから創造主様(マスター)の記憶から"流れるプール"さん作ってみたからさーちょっとねーあははは≫


 わあい、と人の脳内ではしゃぎながらウーヌスだけでなく他の4体もモノに引率されて『環状迷路』の"新アトラクション"へ移動していく気配が伝わってくる。

 こんなことでいちいち「お仕置き」していたら時間の無駄なので、俺は自分勝手な副脳蟲(ぷるきゅぴ)どもを用事があるまで放置することにしつつ、意識をまた俺自身のビルドに戻した。


 『9氏族陥落』作戦でもそうだったが、【樹木使い】戦においても、手が足りず必要だったからとはいえ、俺自身が前線に出る場面が今後もあるかもしれないという気持ちがあった。

 加えて、今全力で"胞化"を促進させている加冠嚢(イニシエーター)が稼働すれば――いよいよ後方に引っ込んでいる理由は無くなるのである。生産から進化まで、俺は意志と方針を示すだけでよく、後は眷属(ファミリア)達がうまく調整してくれる――指揮それ自体ですら、極論、副脳蟲(ぷるきゅぴ)達さえいれば、俺がどこにいようともできるのが【エイリアン使い】の強みであるのだから、引きこもる必要性は薄い。


 無論、迷宮領主(ダンジョンマスター)という存在としては危険を冒してはならないが、ある程度であれば螺旋獣(ジャイロビースト)アルファや城壁獣(フォートビースト)ガンマを護衛として、危険を避けながら行動する意味はある。

 ならば、俺自身の目的のために、探しものを探して、その手がかりを見つけるために、自らが動き回ることに役立つような『職業(クラス)』を選んでもよいのではないだろうか。『職業』だけでなく、「認識」が俺の在り方を決めるならば――例えば【異形】や【魔眼】などについても、今後【闇世】や【人世】を"旅"することを見据えれば、優先順位を上げてもよいのではないだろうか。

 問題となる、迷宮核(ダンジョンコア)から長期で離れること、に関しては――【人体使い】やその周りの連中の出方次第ではあるが、交渉の芽はある、と思っていた。少なくとも、そう試みることを俺は決めていた。


 ――迷宮領主(ダンジョンマスター)となり"魔人混じり"の身体に変貌したとはいえ、【強靭なる精神】によって色々と誤魔化しているとはいえ、それでも、きっと俺のこういう部分は、元の世界にいた頃と変わらない性分なのかもしれないな。


 そう俺は自嘲するでもなく、自分で自分に言い訳をしていることをはっきりと自覚していた。

 そしてそれを見つめていた。

 要は、俺は理由を探していたのだ。


 例えば、このまま迷宮領主(ダンジョンマスター)として何十年、何百年でも牙を研ぎ続けて力を蓄えてから、それから一気に世界を探索するというやり方もあるのかもしれない。

 幸運が重なったとはいえ――【樹木使い】という副伯(格上)を打倒した【エイリアン使い】の反則じみた"強み"は、実際に比較することで見えてくる部分が多かった。これを前面に出して【闇世】での戦乱に積極的に身を投じていく、そういう道もあるのだろう……だが。


 ――せんせ、まるでイノシシみたい。ちょ突猛進。だって、こうと決めたら、誰が止めてもまっすぐ突き進んじゃうのがせんせだもんね。


 そんな声でからからと笑われた頃から、俺の性分は変わらなかったのだ。

 だから、巨大企業の本社ビルへの潜入計画を立てながら、それが「彼女」を探すため、そして自分自身が失った何かを取り戻すためのものでありながら――自分自身で動くことを楽しんでいた部分があった。

 動かずにはいられないのだ。彼女「達」だけでなく、そもそも俺自身が、小さい時から、席に座ってじっとしていることができない"性分"であったから。


 "裂け目"を抑える最奥の間に迷宮核(ダンジョンコア)と共に玉座にどっしりと座ったままでいる、というのは俺の"性分"とは合わない。『北の入江』に危険を承知で直接見に行った通り、俺は、やはり自分の足で歩いて自分の目で直接見るのが一番性に合っている、そんな人間なのだと改めて自覚した。


 ――なぜなら。

 生きていた多頭竜蛇(ヒュドラ)の"生首"。

 こいつからは『因子』も色々取れたので、また後で改めて「お話」する予定であるが――重大な、俺にとっては爆弾にも等しい、とある情報を聞かされたのだ。


 それもまた、俺の心境変化と方針変化の理由である。

 だから、全体の統括や指揮を任せられる存在としての副脳蟲(ぷるきゅぴ)どもが現れてくれて、本当によかったのだ。そのありがたみは、この【樹木使い】との戦いで、十二分に実感した……まぁ、直接言うと調子に乗るだろうから言ってはやらないが。


 ――もし、彼らがいなかったならば、俺はきっと今彼らが担ってくれているものを、今のこの俺自身で徹底的にやらざるを得なかったのだろうから。それはきっと、俺が自分自身の足と目を使う余地を奪う選択だったろう。

 ――もしくは、それを補うために『称号:超越精神体』の諸技能に手を出さざるを得なくなっていたのだろうか。


 リッケルの今際の言葉が思い出される。今際のその眼差しが思い起こされる。

 探しものを探すために、遠く離れた最果ての島にまで、何年も準備した上での勝算ありとはいえとんでもない博打で乗り込んできた男。

 難敵であり強敵であったが、憎めない男だった。


 【強靭なる精神】は、その時点での動揺を鎮めるだけのものであり――不感症にさせるような類のものではないのだな、と俺はどこか安堵した気持ちで、渦巻く思いを見つめていた。

 リッケルによって引き起こされ、多頭竜蛇(ヒュドラ)がもたらした情報によりもはや抑えが効かなくなり、そうして俺自身の中で確かめられたある決断への、最後の後押しがこの『選択可能職業』の群であった。


 俺は【情報閲覧】による『職業ウィンドウ』に触れ――ちらりと『黒穿』を見やり、あの燃え盛る廊下で炙られた記憶を思い起こし、そして今は亡き先達(せんだつ)達の言葉を脳裏に思い描きながら、『火葬槍術士』を選択したのであった。

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[気になる点] 無垢なる大器や知天則、天恵など、一見してどんなご利益があるかわからないものも今後手を出してみてほしいですね。 とくに、天恵や知天則はそこら辺のエイリアンで実験できるから試してみてもい…
[良い点] 敵からも生き方を学び成長していく、一種の教養小説ビルドゥングスロマンと言う感じがします。 人格的、内省的にも読めます。 模索しつつ大望を少しずつ確かなものにしていく青春時代ということになる…
[気になる点] これも一応報告を。 >・火葬槍術士(※派生条件クリア) >そして今は亡き先達せんだつ達の言葉を脳裏に思い描きながら、『火葬槍戦士』を選択したのであった。 表記ゆれがあります。旧作で…
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