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「やっぱりお前は特別な人間なんじゃねえかよ」
レイは私を睨みつける。その言葉に私は「特別って何が?」と、首を傾げる。レイは更に眼光を鋭くさせて、眉間に深く皺を寄せながら口を開いた。
「全分野の魔法が使えるっておかしいじゃねえかよ。努力も代償も、全部免除されるってか。全く羨ましいよ。お前が聖女に選ばれたのは何かの間違いだったんだ」
間違いだったら良かったんだけどね~~~。
これから先、何度だってそう思うのだろう。変えられぬ運命に嘆いてもしょうがないから、悲観的にならないようにしている。聖女だってことは自認している上で、好き勝手している。
「別に私は特別じゃないよ。誰だって全分野の魔法を操れるじゃん。一つの分野しかしちゃいけないっていう規定はないでしょ? ただ、みんなしないだけ」
「何を驕っているんだ。お前はこの前も多くの仲間を殺そうとしたくせに!」
「仲間を殺そうとした? いつ?」
記憶にない話をされている。
私は思わず顔を顰めながら、レイの言葉を待った。王子はレイが話そうとするのを止めようとしたが、私は「止めないで」と視線で彼の動きを制した。
レイは蔦に縛られたまま、私に大声を放つ。
「とぼける気か!? 魔族との対戦で、騎士たち全員を凍らせたらしいな!! 「ケイト・シルヴィは仲間殺しを楽しんでる、俺たちは殺されかけた」って、ここ数日は騎士の中では、お前の話題で持ち切りだ。お前は失敗作の聖女なんだよ!!」
…………笑え、私。
心に鎧をいくつも着せて、私は「話題に上がれて光栄だわ」とか細く少し震えた声を発した。
こういう時は間を空けちゃだめなの。すぐに答えないと……。
また何か言葉を発しようと思ったけれど、何も言葉が出てこない。酷い言われようね、と笑みを零せたらいいのに……。私は意外と弱いのかもしれない。
怒るという気力などなかった。ただ、なぜか涙が出そうになった。それがどうしてかは分からない。
心が痛いわけでも、悔しいわけでもない。……行き場を失った感情がひたすらに重く、沈んでいく。
声を出せば壊れてしまいそうで、呼吸を浅く保つ。その時だった。『ソード』と低く小さな声と共に、金属が空気を裂くような高い音が一瞬だけ鳴った。
気づけば、ジェフリーがレイの顔に当たるギリギリの場所で剣先を向けていた。ジェフリーの全身から凄まじい殺気を感じた。
いつも冷静沈着で、感情をあまり露わにしない弟が怒っている。
「これ以上、僕の姉さんを傷つけたら、容赦なく刺すよ」
「傷つく? こいつが? 十歳の頃から戦場で活躍している血も涙もない聖女が俺の言葉ぐらいで傷つくわけないだろ」
この身動きの取れない状態で、しかもジェフリー相手にまだ反抗的な態度をとれるんだ……。
ジェフリーのおかげで、少し自分を取り戻した。私のために怒ってくれる人がいるっていうのは悪くない。
「お前だって、こんな女が姉だってことを恥ずかしんでいるんだろう?」
「自分の立場分かってる? 姉さんのことが羨ましいなら、君も他の分野に手を出したら?」
ジェフリーは目に触れるか触れまいかの辺りにまで剣先を近づける。だが、レイはまだ動じている様子はない。
……すごいわね、この男。片目の一つぐらいあげてやるって勢いだ。