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空気が張り、緊迫感が流れる中、王子の声が響く。
「そこまでにしておこう」
その言葉に従い、ジェフリーはすぐに剣を消した。王子の言葉は絶対だ。
ちなみに、騎士のほとんどは魔法で出す剣を使用しない。戦闘で魔法の剣を使っているのは私ぐらい。一般的に魔法の剣は威力はそこまで強くなく、壊れやすい。だから、戦闘では普通の剣を使用する。
しかし、私の場合は違う。私が出す魔法の剣の精度は普通の剣の何倍も優れている。
これも「特別」なんかではなく、魔法の剣を戦闘で使えるものにしようと毎日痛みを数えている暇もなく訓練をした結果だ。
魔法の剣は扱いづらく、魔力のブレによって、手を切ってしまうことが多々ある。
皮膚が裂ける。その部分を布で巻き直す。そして、また魔法の剣を持つ。これをひたすら繰り返してきた。できない理由を探す思考は、何度も頭に過った。けれど、その度に消した。ただ、できるまで終わらせない。それだけを決めていた。
そのおかげで、今の私は魔法の剣を武器に魔族と戦えている。
十五歳ぐらいまでは私も普通の剣を使ってたもんね~~。今思えば、剣に魔力を込めていた時期が懐かしい。私も成長したもんだよ。
しぶとく、頑張った甲斐があった。達成感半端なくて、思わずジェフリーに自慢したのを覚えている。
「彼が剣を抜いてくれたおかげで、俺はお前を殺さずに済んだ。ジェフリー・シルヴィに命を助けられたな」
懐かしい記憶に浸っていると、王子が低い声でレイに向かってそういった。その口調は、背筋が凍るほど冷たかった。
その男、王子が連れてきたんだよ? と言いたかったが、私は言葉を飲み込んだ。
「はい」
レイはどこか納得しない様子で、ぎこちなく言葉を発した。いくらレイでも王子には逆らえないみたい。
本当に私はこの男と一ヶ月ぐらい時間を共にするんだよね……。依頼よりもしんどいじゃん……。もはや、依頼を倍にしてもらった方が楽だよ。
そんなことを愚痴っていても、もう遅い。私はふぅっとため息をついて、彼を蔦から解放した。次の瞬間、レイはドンっと音を立てて地面に落ちる。
……本当はもっと丁寧に落とせたんだけど、これぐらいはいいよね。あんな態度の後だもん、少しぐらい乱暴な仕打ちで返しても問題ない。
果たして私は王子からレイ・ウッドという男を預けらえた理由を分かるのだろうか……。
「殿下、そろそろお時間が……」
「ああ。……今日はこれで。こいつを頼んだ」
セナの言葉に反応して、王子は立派な馬車へと乗り込んだ。あっという間の出来事に「まじか」と私は思わず口を開いてしまう。
言い残した言葉それだけなんだ。ちょっと、雑過ぎない……?
いくら忙しいとはいえ、こんな急にポイってされちゃうんだ……。王子、女の子を泣かすタイプでしょ。
私たちの家の周囲で護衛をしていた衛兵たちが、馬に乗った状態で現れる。
……あ、そうだ。この人たちもいたんだった。……こんな目立った豪華な状態でこんな場所に来てくれたのね。
目の前の状況にまだ若干頭が追い付かない。
お忍びで来るとかじゃないんだ……。こんなの、また私が悪目立ちしちゃうくない?
衛兵たちは王子の乗る馬車の前と後ろに付いて、馬車と共に進み始めた。レイは急いで立ち上がり、馬車に向かって深く一礼をする。もちろん、ジェフリーも。私も二人につられて、一拍遅れて一礼をする。
……嵐みたいな人。突然現れて、かき乱して、去っていく。
次第に馬車の音が遠くなっていき、私は顔を上げた。もう馬車や衛兵たちはすっかり見えなくなっていた。
「……迷惑行為じゃん」
私はボソッと呟く。
もう王子は消えた。何を言っても、聞かれることはない。
「殿下が平民の家に足を運んでくださるという奇跡のような出来事を、迷惑だなんていうのは姉さんぐらいだよ。普通なら泣いて喜ぶはずなんだけどね」
「……こんな男を我が家に置いていくぐらいだよ? 迷惑でしょ」
私は眉をひそめながら、親指でレイをさした。
もし私が王子に対しての熱狂的な信者だったとしても、なかなか受け入れがたい状況だもん。置いていくなら、せめてセスにしてくれよ! って叫んじゃう。
そして、私は王子の信者でも何でもない。……これはもう迷惑行為でしかない!!
「俺だってこんなところに来たくて来たわけじゃ」
「は~い。さっきまで蔦でまきまきになっていた人は黙っていましょうね~~」
レイの言葉を遮るように私は言葉を発した。「おい」と懲りずに私の方へと近づくレイに向かって『口を閉じろ』と魔法をかける。
その途端、レイは口を閉ざして、開くことができずにモゴモゴと唇を動かす。
「ん~~、ん! んん~、ん……んん」
「あらぁ」と私は優越感に浸った意地悪な笑みを浮かべた。
散々私に暴言を吐いていたんだから、これぐらいで済んだことに感謝してほしい。……まぁ、もうあなたに言われた悪口なんて忘れちゃったんだけど。
「これで余計なことを言わなくなったね」
私は笑顔でそう言って、フンフンと鼻歌を奏でながら家の中へと戻った。