男はいつだっておもちゃ屋に憧れる
「今時のハンターは骨がない……その認識は大きく改める必要があるな」
帰りのバス。
揺れる車内で親方が戦果を讃える言葉を口にしている。
「あの状況で死者ゼロかつ、魔石の八割を回収したのは……控えめに言ってもよくやったと、褒めてやりたいところだ」
最初の悪印象を覆すべた褒めと言ってもいい。
なぜか、その功労者たちは通路に正座させられているが。
大きな石でも踏んだのか、ガタンとバスが揺れた。
「ヘイヘイ! ならなんで俺らは拳骨喰らって正座しなきゃならないんだよ!」
「―――だが」
抗議してみるも、黙殺される。
一緒に正座しているウィザードが"お前よくこの状況で反抗できるよな”と感心している。頭にできたタンコブはウィザードがたこ焼きなら、ディンゴは鏡餅である。
「味方ごと巻き込む奴があるか、この大バカ者が!」
「なんでだよ全員助かったじゃねぇか!」
「そういう問題ではない!」
噛みつくディンゴとキレる親方。
双方一歩も退かずに睨み合っていたが、やがて根負けしたかのように親方が溜息をついた。
「……もういい、戻れ。クソ、これだからガンマンは……あのクソ狐野郎が目を付けたガキを警戒しない俺が馬鹿だった」
「よっしゃ行こうぜ。正座は足が痺れていけねぇ」
言葉の割にはすっくと立ちあがったディンゴは、脚の痺れに悶絶しているウィザードに手を貸して空いている席に腰かける。
「……お前、案外すんなり退いたな」
「あん?」
「いや、だって……確かに巻き込んだのはアレだけど、誰も死ななかったのはお前の功績だろ?」
あのままゴーレムに突進されていれば少なくない被害が出たのは間違いない。
ディンゴの得意分野かつ向いているクラスだからできたものの、本来ゴーレムとの近接戦闘なんて常軌を逸している行為なのだ。出来るのは盾の扱いに慣れたナイトか、銃剣術に精通したウォーリアぐらいか。
だがまあ……それはそれ、これはこれだ。
「ああ……ま、親方にも立場があるからな。結果良かったからって何でもオールオッケーじゃ色々マジぃだろ。拳骨だけで済んでラッキーさ」
「そういうもんか?」
「そういうもんさ……しょぼくれた顔すんなよボマー。なんだかんだお前のビッグマグナムで助かった奴は多いんだぜ」
痛い思いをしたので素直には感謝できないだろうが、あれで命を救われたということは皆理解していた。最初のやらかしがあった時にはもうハンターを続けるのは難しいかもしれないという段階まで評判を落としていた彼だったが、今や貸しがあると言っていいくらいにはプラスになっているだろう。
「ボマー言うな。俺にはボブって名前があんだよ」
「オーケーだ、ボマー・ボブ」
「だから変な名前つけんなって!」
色々あったが、依頼は無事こなせたし怪我もない。懸念していた実戦も十分以上にこなせた。
大成功と言っていいのではないだろうか。
「弾消費激しいのだけはちょっと誤算だったがなぁ……」
撃ち合いで特殊弾も通常弾もかなり消費してしまった。
ガンマンのディンゴでそうなのだから、他のクラスはもっと酷いのは間違いない。
一番酷いのはナイトだろうか。魔力を通して装備を強固にするスペルを持っているとはいえ、盾や防具の修復をしないわけにはいかない。殿を務めたことも考えれば弾消費が最も激しいのも彼らだ。
赤字になるということはないが、当初予定していたほどの手取りはないといったところか。
事前契約で弾代は自分持ちと明記されているので特別報酬も期待できない。
「ま、全てが順調にとは……いかねぇよな」
魔獣は思っていたよりも賢い。
今回得られた教訓を報酬と前向きに考えよう。
「……あ?」
そうして騒ぐボマー・ボブを適当に流していると、また視線を感じた。
微妙に既視感のあるそれを辿ると、やはりというか距離を置いて並走するバスの屋根から蜘蛛が見ていた。行きと帰りで印象が変わったのは彼女も同じである。
行きと同じ様にとりあえず手を振っておく。
すると今度は反応があった。
片側の脚を二本上げ、左右に振り返してくれたのだ。
「どうしたディンゴ、知り合いか?」
「……まあな。気が利いて頼りになるカワイ子ちゃんだよ」
不思議そうにしているボマーに薄く笑って返してやる。
相変わらずバスの乗り心地は良くないが、不思議と気分は晴れやかであった。
バスから降り、親方から達成報告がギルドへ連絡されればお仕事は完了。
報酬はギルドで受け渡しになるので、ハンターたちは疲れた体を引きずって各々ギルドへ向かう。
中には先に帰って食事を済ませたりシャワーを浴びてから報告する者もいるようだが、ディンゴはその足でギルドへ行く。帰って休んだら動くのが面倒になってしまいそうだからだ。
道中でガンショップに立ち寄り、弾を購入。
特殊弾は手持ちが足りないので断念するしかなかった。先に報告を済ませておけば良かったと今更後悔するが、とりあえず二発残っているので我慢する。
「坊主、スピードローダーは買わないのか?」
髭ダルマオヤジがクマさん柄のエプロンつけて聞いてくるが、首を振ってノーを返す。
「金がねぇ」
「頼りっきりはマズいけどよ、一個くらいは持っとかないといざって時辛いぞー」
「……分かっちゃいるんだがなぁ」
今日まさにそれを実感してきたところだ。
当たり前だがリボルバーはリロードが手間だ。一発一発の弾込めは慣れれば早くはなるが、どこまで行ってもマグチェンジの手軽さには敵わない。レボリューションしても無理なものは無理なのだ。
それを解消してくれるのがスピードローダーだ。六発一度に装填してくれるクリップはリボルバーの弱点を克服してくれるスーパーアイテムである。
あまり複数持つと嵩張るので所持弾数が減ったり、リロードが下手になったりと短所がない訳でもないのだが、いるかいらないかで言えば絶対に欲しい。
なおちゃちな手作りスピードローダーは一回で壊れた。
これがあれば今日もゴーレムとインファイトなどする必要もなかった……かもしれない。
もっと手っ取り早いのは予備の銃を持てばいい。
リロードを挟むより余程早く、不意の銃トラブルにも対応できる。
ディンゴが当初狙っていたのはこの手段だ。
だがスピードローダーの必要性を実感した今となっては考えを変えざるを得ない。予備の銃が買えるようになるのと、スピードローダーを購入するのでは、後者の方が圧倒的に早いからだ。
「……中古でいいのない?」
「ガンマン自体が少ないからなぁ……スピロをわざわざ売りにくる奴もいないしな」
言いながら髭オヤジは在庫を確認しているが、芳しい顔ではない。
と、何か見つけたのかバックヤードからガンケースを取り出してカウンターに置いた。
「銃本体とセットでならあるんだが」
ケースをパカリと開けると、一丁のリボルバーが収められていた。
長めのバレルと黒を基調として所々に嫌味でない程度に金の装飾があしらわれた見事な一品だ。
「バルシン社のスネアVer5。スピードローダー付きで80万でどうだ?」
「……中古?」
聞きながらもディンゴの眼が釘付けになる。
新しい”おもちゃ”に惹かれるのはいくつになっても変わらない男の子の性であった。
触っていいかと目線で問うてから手にし、そのあまりに傷がない銃身に疑問が湧いた。
「新古品。何カ月か前にガンマン選んだ駆け出しがいたんだが、親が小金持ちでな。ちょっと奮発してそれなりの品買ったはいいんだが、そのガキがあっさり死んじまった」
それでモノはいいが、使い手の少ないリボルバーは寂しく倉庫の肥やしになっていたと。
シリンダーをスイングアウトしながら肩を竦め、息子を失って消沈しているだろう親に同情する。
「一応バレルにはスペルリングも刻んであるし、シリンダーの魔力容量もそれなりだぜ。特別な機能はない分、威力と頑丈さは保証するよ」
言われてバレルを見れば、確かに内側に何やら彫ってある。
撃つ弾が同じならどの魔導銃を使っても威力が変わらないかというと、そう単純な話ではない。
魔力による弾の強化は使用者のエングレイブ成長度に依存する。経験を積んでより強い魔獣やハンターを倒せばエングレイブは成長し、シールドの強度や魔弾の威力、スペルの数など様々な恩恵を得られる。俗に言うレベルアップだ。
しかしいくら本人が強くとも魔導銃がショボくてはその魔力を存分に発揮できない。
だからハンターは良い魔導銃を求めるし、作り手もそれに応えるのだ。
話を戻そう。
スペルリングが何なのかというと、魔術の刻まれたバレルのことだ。
本来、弾に込められた魔力は発射されてから徐々に拡散していき、最終的にはなくなる。これが魔弾の射程距離で、それを伸ばすための手段がスペルリングだ。
発射された弾丸がスペルリングを通り、魔力を安定させたり速度を上げる術式を受けることで射程距離を伸ばすことができる。
平たく言うと、スペルリングのある魔導銃の方が威力もあるし長距離飛ぶということだ。
魔導銃には他にもいろいろと部位によって作用があるのだが、ここでは割愛する。
良い魔導銃の方が威力も高くて射程距離も長いけど、エングレイブ成長度以上の魔導銃を持ってもあまり意味がないよ! とだけ覚えてくれればいい。
そういう意味ではこの黒いリボルバーはディンゴの能力以上の品ではあるが、今後の伸びを加味すれば持っていてもいいレベルの魔導銃ということになる。
だがそれ以前に、
「金がねぇって言ってんだろ。スピロ買うために本体買ってちゃ本末転倒だろうがよ……」
「銃が二丁になってスピロも手に入る。一石二鳥だろ」
一石二鳥どころか絵に描いた餅なのだが?
意思を視線に籠めて髭オヤジに向ければ、やれやれとため息をつかれてしまった。
「分かった分かった。どっかの店に残ってないか聞いといてやるよ」
「助かるぜオヤジ。……まあなんだ。"金が溜まったら買いたいものリスト”に入れといてやるよ」
「期待してるぜ。ぶっちゃけ一流が買うにはショボいし、駆け出しが買うには高いしで困ってんだ」
眉を八の字にして唸っている。
ただでさえ少ないガンマンのさらに中堅層をターゲットにした品は確かに捌きにくいだろう。
金が溜まるのがいつになるかは分からないが、先に売れてしまうことを心配する必要はなさそうだ。
用意された弾の代金を払い、ベルトとポーチに詰めて店を後にした。