オレみたいな奴が他にも?
王都に到着してからオレは真っ先にエフィを迎えに行った。
ドキムネさんはまだオレに話したいことがあるらしく、外で待ってもらっている。
オレ一人で宿に行ってノックするけど返事がない。
「エフィ、帰ったぞ」
かすかな音が聞こえるし、この部屋にいるはずなんだけどな。
静かだから、もしかしたら寝ているのかもしれない。
いびきの一つでもかいてくれたら助かるんだけど。
それとも、もうどこかに行ってしまったのか?
これで別の人が泊っていたらちょっと気まずいな。
「もしもーし」
「……ルオン君?」
お、いるみたいだ。
ベッドから降りる音が聞こえて、ドアが開く。
「目が赤いぞ」
「ル、オン、君……?」
オレが顔を見せると、か細い声を出す。
こいつ、泣いているのか?
え、マジで?
いや、そんなつもりじゃ。
「な、なんか悪いことしたかな?」
「う、うぅっ……。どこ、行ってたのぉ……」
「ちょっと知り合いを助けに行ってた」
「んで……」
「ん?」
やばい、マジで泣いてる。
オレがいなくて寂しかったのか?
でもオレはエフィの恋人でもないし家族でもない。
しいて言えば友達、か?
でもオレごときがいなくなったところで、そこまで感情が動くだろうか?
しかもエフィは心の声が聞こえにくい。
口に出した時が思った時みたいな奴だから、喋らない時は何も聞こえない。
ヘッドホンの天敵がいるとしたら、エフィみたいな人間だろうな。
いや、そんなことより尋常じゃないくらい泣いているよ。
これ、どうしたらいいんだ?
「なんで、なんでずっと帰ってこなかったのぉ! わたし、わたじぃ……」
「いや、ちゃんと約束通り帰ってきただろ」
「帰ってこなかったから……。また、いなくなったって……思って……」
「え? また?」
なんかエフィの言葉がやけに胸に刺さる。
基本的に他人とはつかず離れずが理想だと思っているけど、こんな感覚は初めてだ。
サナは間違ってもこんな風に泣いたりしないから、対応ができない。
またいなくなったってどういうことだ?
いつの話だ?
エフィと出会ってからのことを思い出すけど、まったくわからない。
「ま、ま、落ち着け。な?」
「いや……嫌だよぉ……。いなくならないでぇ……」
ヘッドホン、仕事してくれ。
エフィはなんでこんなに泣いている?
出会ったばかりのオレがいなくなったのがそんなに悲しいのか?
音をよく聞いても、ただひたすら悲しんでるとしかわからない。
「なるほど。ルオン、お前は修行が足りないな(はぁ~~~、こいつはマジでガキだな)」
「ドキムネさん。なんで勝手に入ってきてるんですか」
「あまりに遅いから様子を見にきたのだよ。暗殺者に殺されてないか心配になるだろ?」
「そんな物騒なものがいてたまるか」
ドキムネさんはオレとエフィを見比べている。
これで恋人を泣かすなよとか言おうものなら、ぶっ飛ばしてやる。
いや、無理だけどさ。
蓮拳の漢牙の二の舞だろうけどさ。
「ヒソヒソ……おそらくだな、エフィは過去に大切な人間を失っている(間違ってたらごめんな)」
「え、そうなんですか?」
「また、と言ってただろ? つまりエフィはお前を誰かと重ねているんだよ(合ってるよな?)」
「オレみたいなのが身の回りにいたなんて、ちょっと同情するかも」
そんなに自信ないならいっそ言わないでほしい。
ていうかこの人、オレとエフィを初めて見たのによくそこまで話せるな。
これが年の功ってやつか?
というかこの人、普通に最初からいたんじゃないか?
ドキムネさんがかがんで、エフィと目線を合わせた。
「エフィといったな。もう大丈夫だ」
「えぐっ、えっぐ……誰?」
「私はドキムネ。ルオンとはついこの前、知り合った(クッソまた間違えた!)」
「ひどすぎる名前……」
その自己紹介で大丈夫か?
得体の知れないおじさんの域を出ていないぞ。
でもどこか誇らしげだから、あれはあれで自己満足しているんだろうな。
「ルオン。事情はともかく、エフィを安心させてあげられるのは君だけだ(これは決まったな)」
「そうみたいですね」
いちいち台無しなんだよなぁ。
言ってることはごもっともだから、オレもエフィとは真剣に向き合わないといけないか。
変だな。しょせん他人なんだから、くらいに思っていたはずなんだけどな。
人に泣かれるとこんな気持ちになるのか?
これでエフィがオレについてくる理由がなんとなくわかった気がする。
恋だの愛だの、そんなものとは違う。
エフィはオレを大切な誰かと重ねている。
つまり寂しいんだろうな。
「エフィ。今度からは一緒に行こう」
「……ホントに?」
「お前がついてきたいなら好きにさせてやるよ」
「絶対?」
「絶対だよ。約束する」
「じゃあ、ダークガールズバーのエビルチェリーパフェ……」
「人の弱みにつけこむな」
たぶんそれオレ達が入れない店だから諦めろ。
オレなんかと一緒にいても何も楽しくないだろうに。
一体誰とオレを重ねているんだ?
オレみたいなのがこの世に二人もいるなんて、世界にとっての損失だぞ。
増えるべきは勤勉で向上心がある人間だ。
いい組織に入って出世して結婚して家庭を持つ。
そうじゃなきゃ国や世界ってやつは成り立たないんだからな。
「よし! 仲直りしたところでおじさんから二人にプレゼントがある!(ここでサプライズだ! 喜ぶだろうな!)」
「あれ? まだいたんですか?」
「ルオン、君は少し謙虚さを覚えたほうがいいな(いや、これも年頃なのか?)」
「十分謙虚なつもりですよ」
「まぁその前にまずは食事だ! 親睦を深めるにはそれが一番いい!(肉だ! 肉だぁーーー!)」
欲望がだだ漏れている。
自分が飲みたいだけなら勝手にしてほしい。
謙虚といえばあのラークが騎士団でうまくやっているのが意外だった。
あいつが誰かに対して「はいっ!」なんて言って指示に従っている姿を思い出すとちょっと面白い。
バンさんにすら敬語なんて使ったことないのにな。
どうやらよっぽど騎士団でしごかれたに違いない。
田舎の不良少年がいきり散らかしたら根性を叩き直されたってところか。
だとすれば、やっぱりオレには組織ってやつは無理だな。
オレの根性は誰にも叩かせない。
「ねぇ、ルオン君……。あのおじさん、誰?」
「ついこの前、知り合ったおじさんだ」
ほらな、おじさん。
適当な自己紹介をするからこうなるんだぞ。
そろそろ本名くらい名乗ってくれ。
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