無駄なものなんて一つもないという話
「さぁ! 少年少女なら大好きだろう! 焼肉だ! 食らえ食らえ!(この気前のよさ……確実に惚れただろう?)」
ドキムネさんが昼食を奢ってくれるというから一切遠慮なくいただくことにした。
燃え盛る金網の下、焼ける肉、野菜。
なんてワイルドな料理なんだ。まるで野営をしているかのようだ。
昨日、散々化け物熊の肉を食べたのにドキムネさんはもりもりと食べている。
しかも自分で野菜を焼いておきながら一切手をつけないという徹底ぶりだ。
生産者と野菜に謝れ。
「ルオン君! うまそうだねぇ! はい!」
「はい、じゃないんだわ。オレの皿に野菜を移すな」
「だっておいしくないんだもん」
「生産者と野菜に謝れ」
エフィから肉を奪い取って食べてみると、これが何とも言い難いうまさだった。
野生のモンスターの肉とは違った上品な風味、肉汁、噛みやすさ。
柔らかすぎて飲み込んでもいいくらいだ。
そして極めつけにこのタレというやつ、しょっぱさと甘さがせめぎ合っているような味で口の中で肉と絡み合う。
早くのみ込みたくなるけど、もう少し味わっていたい。
そんな悩ましい味わいだ。
エルドア公爵の屋敷でもおいしい料理がたくさんあったけど、こっちは調理されていない肉だから不思議だった。
人の手で育てた家畜の肉がここまでの味になるのか。
なるほど。これはオレの人生プランに加えてもいいかもな。
将来は家畜を育てておいしい肉を食べながら、慎ましく暮らしたい。
「ルオン、エフィ。もちろん私の奢りだから遠慮なく食らえ(気前よすぎだろ、私……)」
「ありがたいですけど、ちゃんと野菜も食べてください」
「焼肉に野菜なんてものはいらないのだよ(油断するとすぐ焦げるから嫌なんだよなぁ)」
「心の底から生産者達に謝ってくださいね」
それからドキムネさんが次々と聞いたことがない肉を頼み始める。
その中でも凄まじいと思ったのがタンとホルモンだ。
タンは家畜の舌らしい。
オレも親父から色々と山暮らしの作法は教わっているが、舌を食べるなんて聞いたことがない。
ましてやホルモンなんて、普通は捨てる部分だ。
オレが訝しがっているとドキムネさんが見透かしたようにオレの皿にタンとかホルモンを乗せてきた。
ちょっと、やめてくださる?
「舌や内臓を食べるなんて驚くだろ? だけど家畜の飼育方法によってはそれすらもおいしく食べられるのだ(あ、一番うまいところを渡してしまった)」
「それはすごいですね。どれ……ん、んー、これは、うまい、かも」
「うまいだろ? 最初にこんなものを食べてみようと考えた奴は強者だよな(あー……失敗したなぁ)」
「モンスターの肉でも、さすがに内臓系は諦めてましたね」
さっきからちょいちょい心が狭そうな声が聞こえてくるのやめてくれない?
それはそれとして、このホルモンってやつはなかなか噛み切れない。
だけどこれがなんか癖になる。
一方でエフィはホルモンが苦手なようで、遠慮なくドキムネさんの皿に戻していた。
このメンタルでよく今まで無事に生きてこられたな。
「このホルモンやタン然り、無駄なものなどない。戦いも同じだ(よし、いい流れで本題に入ったぞ)」
「このカルビとかいう肉もうまっ! え? すみません、もう一回いいですか?」
「……このホルモンやタン然り、無駄なものなどない。戦いも同じだ(クッ!)」
「あ、はい」
あら、やり直したよ。
はい、どうぞ続きをお願いします。
「この前も少し話したが、戦いにおいて重要なのは呼吸だ。もっと深く言えばすべてを無駄にしないこと、だな(まぁクソ難しいのだがな)」
「呼吸一つでネームドモンスターを爆散させられるものなんですか?」
「させられる。ただし言うまでもないが簡単ではない。呼吸というのは体内に酸素を取り込む。取り込まれた酸素によって体は活性化するのだ(本当に難しいがね)」
「もはや魔法ですね」
呼吸一つで人外にまで到達できるのか?
呼吸一つで人間の体がネームドモンスターに勝るのか?
それならまだ魔力だの魔法だの言われたほうがまだ納得できる。
「呼吸で体を活性化させることによって、体を常に最高の状態に保てる。そう、常にだ。レイトルは君にそこまで教えていなかったようだな(あの色ボケチャラ男が)」
「はい。でも動きについては指導してもらいましたよ」
「そこで終わっているからあいつは弱いのだ。動きだけではなく呼吸や瞬きに至るまで、常に意識せねばいかん(戻ったらあいつは鍛え直しだな)」
「レイトルさんが弱いってマジで?」
レイトルさんにすっごい飛び火した気がするけどオレのせいじゃないからね。
ドキムネさんによれば、常に自分の体全体を意識しなきゃいけないということらしい。
常時戦闘態勢ってところか?
そんなもんできるかと言いたいけど、普通の人間ができないことをやっているからこその人外だ。
誰でもできることをやっていたら、凡人止まりなのは当たり前か。
うん。オレは程々でいい。
オレにそんな素質がないのは自分でよくわかっている。
そういうのはドキムネさん達、人外枠に任せておけばいい。
「要するに人間もこのタンやホルモンと同じだ。呼吸にしろ、己が持つものをいかに無駄にしないかが重要なのだ(そろそろカルビの十皿目を追加しようかな?)」
「そうでもしないと人間がモンスターに勝つなんて無理ってことですね」
「この世でもっとも優れた体を持つのは人間だと思っている。単純な身体能力の強弱だけ見れば人間はモンスターに劣るが、生物としてこの世でもっともバランスがいい体だろうな」
「あー……確かに。視力が極端に高いけど聴力が弱いモンスターはちょっと気の毒かなって思わなくもないです」
もうすでにテーブルが皿で埋め尽くされているんだが。
あれだけ化け物熊の肉を食べて、今日はこの量か。
この人の理屈で言うなら、食べたものも一切無駄にせず体を活性化させる力にしているんだろうな。
話を聞いた後にドキムネさんの体を見ると、心なしか少しだけ筋肉が膨らんでる気がする。
呼吸といい、食べている時すら何も無駄にしないわけか。
「さてと、せっかくだから腹ごなしに少しだけ呼吸のコツを教えてやろう(これこそが最高のサプライズだ)」
「痛くしないでくださいね」
ドキムネさんが立つと、改めて大きいと感じる。
座った状態で見上げると巨人だな。
相変わらず名前はひどいけど、この人は紛れもなく国内で最強なんだろう。
散々食った後で寝息を立てている奴を起こして、会計に移った。
ドキムネさんの奢りというから、ここは安心して待とう。
そう思ったんだけど、会計時のドキムネさんの顔色がよくない。
おい、まさかの事態はやめてくれよ?
なんでちょっと泣きそうになりながらこっちを見るんだよ?
こっち来んな。
「ル、ルオンにエフィ。足りない……(この店、こんなに高かったか!?)」
「聞こえないですね」
「一生のお願いの一つだ! 頼む! 力を貸してくれ!(せっかく積み上げてきた私のイメージが!)」
「どのくらい足りないんですか?」
「……う」
「え? なんて?」
おい、モジモジするな。
泣きそうになるな。
店員が心の中で、足りなかったら皿洗いをやってもらうとか言ってるんだが?
「半分、以上……(ダークガールズバーで使いすぎたか?)」
「店員さん、この人が皿洗いやりたいって言ってます」
「おおおああぁーーーーーーー!」
オレがエルドア公爵に大金をもらってなかったらマジで皿洗いコースだったぞ。
結局、半分以上の支払いを済ませて店を出た。
さっきまであんなに粋がっていたドキムネさんが意気消沈してすごい無口になっちゃった。
呼吸法を教えてもらわないとマジで割に合わないから、とっとと元気出してくれ。
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