サナはめげない
私、サナは騎士団の後方支援部隊の衛生班に所属している。
私が授かったスキル【回復】は魔力を使わずに傷をいやすことができるから、神官に気に入られた。
スキルのおかげで要職に就いた人が数多くいると聞いて最初は喜んだ。
そうじゃなかったらド田舎の村で生まれた私の将来なんて考えるまでもない。
村の男と結婚して畑を耕して、夫のために生きる。
想像しただけでもうんざりする。
そんな中で私の結婚候補は幼馴染のラークとルオンだ。
自慢じゃないけど、物心がついた時から私は大人達を見て自分の人生について考えていた。
だからラークとルオンもただの幼馴染としてじゃなく、将来の伴侶という前提で見ていたわけ。
ほんの最初はラークに惹かれた。
快活で年下の子ども達の先頭に立っていて、面倒見もまぁまぁいい。
だけど成長するにつれて、その粗暴さが見えてきた。
あいつは事あるごとにルオンに突っかかっていたからね。
確かにルオンはラークと違って大人しいし、何を考えているのかわからないところがある。
でもラークのルオンに対する当たりを見ているうちに、ないなーって思った。
私の結婚相手として、ね。
だったら大人しくて逆らわなそうなルオンのほうが色々と都合がいいじゃない?
そう思ったけどあいつ、よりにもよってヘッドホンなんて神器を授かっていた。
あの時点でキープしていたのが無駄だとわかっちゃったもの。
「ほれ! グズグズしていたら日が落ちても終わらないよ!」
「うるさいわねぇ」
今日もお局こと衛生班の隊長ラーマにガミガミ怒鳴られている。
今は薬品の保存庫の整理をしているんだけど、このババアが本当に口うるさい。
大体、なんでこいつはこんなに偉そうなのよ?
あんたはたまたま先に生まれてここの班長をやってるってだけ。
私みたいなうら若き美少女とは格が違う。
養豚場の豚みたいな体型でノシノシと歩いて、見ているだけであんな風になりたくないと思えてくる。
こんな人は女を諦めているも同然よ。
ろくに美を磨かずにただただ女として死んでいく。
結婚しているみたいだけど、つくづく夫が気の毒に思えた。
「なんだって! もういっぺん言ってみな!」
「な、なんでもありませーん!」
このババア、本気で怒らせると怖い。
いっそ戦闘部隊にでも行けばいいじゃないってくらい。
旦那が確か第三部隊の隊長らしいけど、この分じゃ絶対に尻に敷かれている。
豚の悪魔みたいなのが大股でノシノシと歩いていなくなった。
大量の薬品や応急処置用の道具を仕分けしながら、私は先輩達とヒソヒソと話す。
この部隊は隊長のババアを含めて、全員が女だ。
「サナちゃん。あの人、怖いでしょ?」
「私の故郷にもあんなのいませんでした……」
「でも悪い人じゃないから、気を悪くしないでね。後方支援部隊って軽く見られがちだけど、騎士団にとっては生命線だから……」
「それにしてもこんな地味な仕事ばかり……」
後方支援部隊はよほど大きな任務じゃないと動かない。
例えば戦争だとか大規模なモンスター討伐とか、そんなの。
第四部隊のリザードマン討伐の時は別の後方支援部隊が派遣されたし、ここに来てからずっと倉庫整理なんかの雑用ばかり。
一応、スキルを磨くために訓練なんかはしているけど成長の兆しはない。
成長すれば踊っただけで周囲を癒せるようになるとか言った神官、出てきなさいよ。
こんなことなら私もラークのエクスカリバーみたいなのがよかった。
間違ってもルオンのヘッドホンはいらないけど。
ここはあのババア隊長以外はまともな人が多い。
私みたいなのを優しく受け入れてくれたのはさすが年長者ってところかしら?
「ラーマ班長もサナちゃんのスキルを計りかねているところはあるわね。私なんて道具の効果がほんの少し上がるだけのスキルだし……」
「あら、あなたはまだいいわよ。私なんて痒みをほんの少し和らげるスキルよ」
「私もほんの少し痛みを和らげるってだけ……」
ここに来て気づいたけど、この人達のスキル自体は大したことがない。
だけど救護の手際とか部隊での動き方は熟知してるって感じ。
これじゃ私の回復スキルが重宝されるのもわかる気がした。
治癒方面のスキルが貴重というのは大袈裟でも何でもない。
だからこそ私の出番じゃない?
そう思うけど、ぜんっぜん成長の兆しがない!
「はぁ……。どこかにいい相手がいないかな? 誰かお嫁さんにもらってくれたら楽できるのに……」
「それはこっちのセリフよ。サナちゃんにはいい相手がいるじゃない。ほら、第三部隊の……」
「ラークのことですか? この前の調査で帰還が遅れたみたいだし、ダメですよ。出世の見込みでいったらねー」
「出世の見込みねぇ」
ラークはエクスカリバーなんてものがありながら、たかが調査で手間取る程度の男よ。
調査くらい颯爽と帰還しなさいよ。
ホント、あれを聞いてガッカリしたわ。
結局、私の周りにはろくな男がいない。
「でもサナちゃんの言う通り、やっぱり男は金と地位よねー」
「そうそう。最近じゃ第四部隊のリザードマン討伐に貢献したっていう冒険者なんか出世しそうよね」
「それ知ってる! 近所でも噂になっていたもの!」
先輩達が妙な話を始めた。
冒険者が出世? 何を言ってるの?
私の中で冒険者が一番ないんだけど?
冒険者なんて他に仕事がなくて仕方なくやるようなものでしょ。
でもだからこそ、少し気になった。
「先輩。冒険者がどうとか、何の話ですか?」
「あら、知らないの?」
先輩達から話を聞いたところによると、第四部隊を手助けした冒険者というのが変な兜を被った男の子らしい。
名前まではわからないみたいだけど、年齢は私達とそう変わらないという噂だ。
変な兜で私達と同じくらいの年齢といったら、嫌でもあいつを思い出す。
まさか? まさか、よ。
あのルオンが冒険者なんてやるわけがない。
今も田舎の村であの下品なお父さんと一緒に畑を耕しているはず。
私が話題に追いつかないでいると、先輩達がはしゃぎ始めた。
「冒険者も最近はバカにならないのよねー。ゴトラント商会の会長なんか、冒険者からの叩き上げの出世って言うじゃない」
「公爵家の専属護衛をやっている烈剣のファルバーンも元冒険者でしょ?」
「狙っちゃえないかしら?」
「ダメダメ。住む世界が違うわ。あーあ、それに比べてホンット騎士団にはろくな男いないのよねー」
あのルオンなわけないじゃない。
冒険者なんてたくさんいるし、私達と同じ年齢なんて珍しくない。
そう、人違いよ。
でもルオンじゃなかったとしても、よ。
それって十分、結婚相手の候補になるんじゃない?
先輩達の言う通り、冒険者の中には出世する人が割といる。
ラークはエクスカリバーだけの男だし、とても出世の見込みはない。
うん、探ってみる価値はある。
「あ、あの。その冒険者の情報ってないですか?」
「あら? やっぱり気になるの? ご近所さんが言ってたんだけどね、どうも王都の冒険者ギルドによく顔を出すそうよ」
「ほ、他には?」
「王都の宿『安らぎ亭』から出てくるのを見たって、隣の奥さんが言ってたわね。あ、でもダメよ、サナちゃん。思い出したんだけど、確かその冒険者、ピンク髪で大きな本を持った女の子と一緒だったって話よ」
「女の子?」
「たぶん恋人じゃないかしら? お相手がいるならダメねー」
おばさんネットワーク恐るべし!
私の村でも噂はすぐ広まるけど、ここは王都よ?
下手な情報屋より頼りになりそう。
でもこれは絶対にルオンじゃない。
私にもなびかなかったあいつが他の女の子と一緒にいるわけないじゃない。
あの性格で女の子が寄り付くと考えるほうがおかしい。
でも、ルオンじゃないのはいいとして。
もしその女の子が恋人だとしたら私の出る幕はない。
違う。サナ、何を言ってるの?
あなたは自分の美貌を見誤っている。
私という美少女がいながらなびかない男の子なんてラークとルオンくらいよ。
サナ、やるのよ。
あなたなら奪える。
「そうですよね。恋人がいるなら邪魔しちゃ悪いか」
「そうそう、サナちゃんにはもっといい相手がいるはずよ」
略奪愛なんてそれこそ燃えるじゃない。
恋というのはね、障害が多いほど燃えるのよ。
ましてや相手が出世頭なら尚更ってもの。
行くわよ、サナ。
いつまでもこんな行き遅れたおばさん達の巣窟にいるべきじゃない。
この際、ルオンでもいいわ。
あんなのでも冒険者として出世しているなら私の結婚相手として相応しい。
光栄に思いなさい、ルオン。私が会いにいってあげるわ。
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