よりによってこんなエルフか
さて、思わぬ邪魔が入ったけどこれからオレ達は仕事の話をしなきゃいけない。
依頼主はエルフのノエーテ、王都内に住む女の子とのこと。
なんでも魔道具に使う素材採取を頼みたいらしく、家まで来てほしいとのことだった。
依頼書に書かれている住所を頼りに王都の西区に行く。
西区は比較的、裕福な人達が暮らす場所だ。
道行く人達の服装からどことなく品が漂う中、オレ達は目的の場所についた。
そこはオレのイメージとはかけ離れた築年数が相当経過してそうな集合住宅だ。
床がきしんで、壁の塗装が所々剥げている。
そっか。全員が金持ちってわけでもないんだな。
それでも前の町でオレが泊った宿よりマシに思えるから、さすが王都だ。
家賃はいくらなんだろうな。
「ここがノエーテの部屋か。もしもし?」
ノエーテの部屋である203号室のドアをノックをしても返事がない。
依頼書を確認したけど、建物と部屋番号に間違いはないはずだ。
留守かもしれないから日を改めるか?
「しょうがない。また今度……」
(あうあうふぁぁ~~~~)
いや、なんか聞こえてきたわ。
留守じゃないらしいけど、出直そうか?
どういう状況にいたらこんな心の声になるんだよ。
「ルオン君、もう一度ノックしてみれば?」
「そうだな。もしもーし。冒険者ギルドから来ましたー」
強めにノックするとしばらくして、のそのそと動き出す音が聞こえた。
これは確実に寝起きだな。
昼間からずいぶんとのんびりしているようだ。
やがてドアが開くと、クッソ眠そうな目をした金髪の女の子が立っていた。
小柄でとんがり耳、髪はボッサボサで服装はシャツと短パン。
それより驚いたのは音だ。
この女の子から聞こえる音がなんかこう心地よくない。
脈打つ心臓の音や息遣い、すべてが弱々しい。
例えるなら排水管が詰まった音みたいな不快感がある。
こんな音は初めて聞いた。
見た目の年齢だけなら15くらいなのに、まるで病人みたいな音だ。
このノエーテがどうとかって話だけじゃない。
以前はこんな細かい音でここまでの情報なんて拾えなかったはずだ。
エルドア公爵のところで修行をして、トカゲ野郎との戦いを経てオレも成長しているんだな。
現にエフィなんかうるさいくらい活気のある音を聞かせてくれる。
「あれぇ? ぼーけんしゃぎるどぉ?(あれ、そういえば履いてたっけ? 履いてた)」
「この採取依頼だよ。ほれ」
「あーーー、やっときたんだぁ。報酬けちりまくったからこないかなーって思ってた(これで来るならもっとケチればよかったなぁ)」
「確かにオレがいなかったら一生放置されていたかもな」
割と危険な場所での採取なのに、一食分の報酬なのはふざけてるとしか思えない。
エルフに用がなかったらスルーしていたクソ依頼だ。
ノエーテは目をこすりながら、ふらふらと部屋の中に入っていく。
「上がっていいよ。散らかってるけど頑張って足の踏み場を探して歩いてねー(足一つ分は確保してるから余裕でしょ)」
「じゃあ、遠慮なく……」
部屋の中に入って思わず絶句した。
床が見えないほど物で溢れていて、足の踏み場がほとんどない。
訳のわからない何かの本や部品が散らばり、ゴミ袋が積み上がっていて部屋の壁がほとんど見えないほどだ。
人が住んでいる場所のはずなのに、こんな個性的な臭いを放つ意味がわからない。
「なにこれ! 遊び場?」
「エフィ、たぶん失礼だぞ」
こんな遊び場があってたまるか。
壁に黒い虫が這ってるんだぞ。どう見ても家主の許可なく同居してる奴だろ。
追い出すか駆除しろよ。
親父なんか素手で掴んでオレに投げつけて処分を任せてきたんだぞ。
「えーと、どこかその辺に適当に座ってね(お尻一つ分の場所は確保しているから余裕でしょ)」
「変な粉が散乱していて座りたくないんだけど」
「あー、それメギドウムだ。触ったら烈火のごとく熱くなるやつ(あちゃー)」
「お前、オレにダメージを与えようとした自覚あるか?」
あちゃーじゃねえんだよ。
オレ、なんでこいつの依頼を引き受けたんだっけ?
依頼なんてのは建前で、森に詳しい他のエルフとお近づきになるためだ。
この分だとそれが出来るかすら怪しくなってきたぞ。
どう見ても顔が広そうなタイプに見えないし、誰だってこんな汚部屋に住んでいる奴となんか関わりたくないだろ。
プランを変更するにしても、依頼は引き受けてしまったからな。
仕方ない。話だけ聞いてとっとと仕事を終わらせるか。
「何か飲むー?(あれ、コーヒー豆だと思ったら黒い虫だった)」
「いや、全力で遠慮する。それより一秒でも早くここを出たいから、仕事の話をしてくれ」
「仕事? あー、そう。絶対に採取してほしいものがあるんだよね(こんな大人しそうな子が依頼を引き受けたのかぁ)」
「このアブリナの花を採取してくればいいんだろ?」
ノエーテが自分で淹れたコーヒーをすすっている。
よくそんなもん飲めるな。
山暮らしのオレでも引くわ。
「そう、アブリナの花ね。これねー、魔道具に使いたいから採取してほしいんだけど似たような花があって紛らわしいんだよね。おたく、そういうの詳しい?(なんとなく詳しそう)」
「一応、薬草の種類なんかは心得ているけどアブリナの花ってのは初めて聞くな」
「やっぱりそうか。こういう花なんだけどね(サンプルの絵が描かれた本ってどこにやったっけ?)」
ノエーテがゴソゴソと物の山を漁って本を取り出した。
そこに書かれていたのは取り立てて特徴がない花だ。
見たことがあるといえばあるけど、似たような花と間違える自信がある。
それくらい他と紛らわしい。
「これを煎じて取り出せる油があれば、今作ってる魔道具が完成するの(採取とかだるすぎだから頼んでみたけど、詳しくないならまずいかな)」
「どんな魔道具なんだ?」
「これこれ、名付けて多目的変形魔道具ゾビランテ君。ある時はベッド、ある時は机やテーブル、ある時はトイレ。ある時は風呂。これ一つで一歩も動かずに生活できる魔道具だよ(神だよねー)」
「名前が邪悪じゃん」
「関節の可動部分にはアブリナの花から取り出した良質な油が必要不可欠なの。だから採取してきてほしいんだけどー……(いやー……こいつらで平気?)」
ノエーテは口を尖らせて不満そうにオレ達を見た。
わかる、言いたいことはわかるよ。
お前らで大丈夫なのかって音をヒシヒシと感じる。
オレはこれからこの依頼を達成してノエーテと親交を深めるわけか。
まずはこの依頼を達成して親交を深める必要がある。
だけど、このノエーテは謎だ。
心地よくない音の正体は間違いなく不健康からくるものだ。
こいつ、こんな部屋でずっと暮らしているのか?
村を出てからそれなりにいろんな人間と関わったけど、ノエーテはオレが初めて出会うタイプだ。
人の生き方に口出しをするつもりはないけど、この様子だとまともな生活をしてないな。
「あぁ~~~……。このエルフをダメにするクッションさいこぉー……(あうあうふぁぁ~)」
「いや、話の途中だろ」
これと親交を深めると思うこと自体が間違いな気がしてきた。
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