自立して食べるメシのほうがうまいぞ
「私ねぇ、一生働かないで暮らすのが夢なの(労働する意味がわからない)」
その一言がノエーテの惨状を物語っていた。
話によるとノエーテはエルフの里にいる親元から離れて暮らしている。
前は実家で今みたいに悲惨な生活をしていたけど、親が許すはずがない。
ある日、親に激怒されたノエーテは渋々家を出ることにした。
王都で一人暮らしをして自立させるというのが親の目論見だったみたいだ。
だけどそれでうまくいけばとっくにこの世からこんな人間は消えてなくなってる。
ノエーテは親からわずかな仕送りをもらって生活している。
いきなり一人で暮らすのは難しいから、仕送りがほしいと泣きついたそうだ。
それで今はその仕送りをケチりながら、魔道具を作ったり怠けて生活しているらしい。
オレは他人の人生に口出しをする気はない。
すべての人達が働く必要なんてないと思っている。
別に働いてなくても、法に触れるようなことをしてないんだから非難される筋合いはないはずだ。
ましてやどこかに所属して出世したり、結婚して家庭を持つのが人生のすべてじゃないと思っている。
ストレスを感じながら世間の常識に従う必要なんてない。
それぞれ自分の生き方を見つければいい。
ただしノエーテみたいに親の世話になりっぱなしなのはどうかと思う。
オレ自身、自立すらしないで生き続けるのは耐えられないからな。
まぁこういう思考になれたのもあの親父のおかげだ。
そう考えるとノエーテの親はどんな人物なんだろうな?
子どもがこんなことになるような生き方をしたのか?
「このゾビランテ君だってそれはもう苦労して開発したんだよ。あと少しで完成するんだぁ(あと少しで夢の無職生活ができるぅ)」
「お前さ、そんなすごいものを作れるのに働こうとしないのか?」
「だって働いたって変な奴らにいびられてストレス受けまくりでいいことないでしょ(世の中の労働者はご苦労だよ)」
「それについては同感だよ」
「わっかるー!?(話が通じるぅ!)」
なんかハイタッチを求められてしまった。
確かに世の中、甘くない。
甘くないからこそ、世の中の流れを少しでも避けるように生きるべきだ。
オレも大概、褒められたような人間じゃないけど人に迷惑をかける生き方はしたくない。
人に褒められる生き方をするつもりもないけどな。
「とにかくアブリナの花を採取してくればいいんだな。念のため、資料を貸してくれないか?」
「どうして?」
「間違いのないように資料を見ないといけないからな」
「そういうことならどうぞ(あっちゃー、変な汁ついてるけど黙っとこ)」
これはもうプラン変更不可避だ。
こいつと親交を深めるより、エルフの里に出向いたほうがまだやりやすい。
手についたじゃねえか。
何の汁だよ、これ。
「はぁ……。しょうがない、じゃあさっそく」
「ノエーテ!」
オレが部屋を出ようとした時、ドアが激しくノックされた。
なんだ? 借金取りか?
面倒ごとなら喜んで関わらんぞ。
「おい、開けなくていいのか?」
「ス、ストーカーだからいいの(この声はまさか、お、お父さん?)」
実の父親の訪問だってのにストーカーか。
いや、あのクソ親父を持つオレが言えた口じゃないな。
まさかの父親登場とは。
仕送りの件もあるし、これは確実に穏やかに済まないぞ。
普通の神経をしていたら、自分の仕送りがこんな生活に使われてるなんて知ったら激怒するに決まってる。
それがあるからノエーテは居留守を使う気だ。
オレとしてはどうでもいいんだけど、いつまでもここにいるつもりはない。
当たり前だけどドアを開けないと部屋を出られないんだよ。
「ノエーテ! 開けろッ! いるのはわかってるんだぞ!(バカ娘が、居留守を使うとはいい度胸だな!)」
「逃げられると思ってるの!(もう容赦しないわ!)」
実の父親の訪問とは思えない罵声を浴びせられているぞ。
マジで借金取りなんじゃないの?
ていうか父親だけじゃなくて母親もいないか?
うん? これってもしかしてチャンスでは?
ノエーテが話にならなくても、両親がまともな可能性は十分ある。
両親にいい顔をしてお近づきになれば、エルフとの距離がグッと縮まるはずだ。
後はノエーテの両親が帰化していないことを願う。
エルフの里から遥々とやってきたと思うから、それはないと思うけど。
「ね、ねぇ! 窓から逃げて!(この部屋だけならまだしも、男と一緒にいるなんて知られたら……)」
「なんでオレが決死の脱出を試みなきゃいけないんだよ」
「お父……ストーカーはすごく厳しいのよ!(言いかけたけどバレてないよね?)」
「厳しくないストーカーなんていないだろ」
オレはそのストーカーに用があるから、開けない理由はない。
容赦なくドアへ向かうと、ノエーテが抱きすがってきた。
「ダメだってぇ……! 報酬を倍にしてあげるから!(こうなったら金で黙らせるしか!)」
「この際だから言うけど、倍になっても割に合わんぞ」
「ウソォ!?」
「場所が場所だからな。最低でも銀貨二枚以上だな」
「ねぇーーーー! お願いだってぇーーーー! 何でもするからぁーー!(ああうあうあううあうわぁーーー!)」
今、何でもするって言った?
ていうかこの絶叫のせいで完全にバレてるだろ。
と思った直後、がちゃりとドアが開く音がした。
入ってきたのは白い肌をしたエルフの女性と浅黒い肌の筋肉もりもりの男エルフだ。
母親のほうはかなり上品そうに見えるけど、父親はドアをくぐって入ってくるほど大きい。
どう見ても魔法を使うより普通に殴ったほうが強いだろ。
ていうかノエーテ、鍵をかけたはずだけどな。
どうやって開けた?
「いつまでもあんな鍵で籠城できると思うなよ。開錠の魔法くらい心得ている(なんだ、この部屋は!?)」
「ノエーテ、久しぶりね。仕事のほうはどうかしら?(返答次第では……どうしちゃおうかしら? ウフフ……)」
あ、はい。魔法は便利だね。
でもお父さん、あなたはドアなんて殴り壊したほうが早いと思いますよ。
なんて言える雰囲気じゃないね、これ。
「パ、パパ、ママ……(終わった、終わったよ……)」
「ノエーテ、この部屋はなんだ? お前、何をやっている?(まさか仕送りを下らんことに使ってはいまいな?)」
そう言って、ノエーテの父親はオレをジロリと睨んだ。
なんかオレもただでは済まなそうな雰囲気?
お父さん、誤解です。
オレとノエーテは行きずりの関係なんですよ。
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