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愚かな王太子に捨てられた私を、兄王陛下が離してくれません ~私を手放す意味、本当に理解していらして?~ - 【4】私のすてきな旦那様《Epilogue②》
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愚かな王太子に捨てられた私を、兄王陛下が離してくれません ~私を手放す意味、本当に理解していらして?~  作者: 越智屋ノマ@夜逃げ聖女【重版】1巻2巻
第6章:幸せな休暇

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【4】私のすてきな旦那様《Epilogue②》

チェス大会の決戦――頂点を競い合うのはグラディウス様と私だ。

周囲の熱気と歓声の中、私たちは対局している。

――いつの間にか互いの駒が少なくなり、戦いは終盤に差し掛かっていた。


グラディウス様の指が、クイーンの駒に触れた。

(――来る)

私は、彼の攻め方を読めていた。

これまで何度も、彼と対局してきたから。この酒場で初めてチェスをした夜も、ご褒美で朝から晩まで楽しんだ日も。

彼の細やかな駒の運びも、密やかなのに大胆な戦略も、たくさん見てきてよく知っている。


立ち向かおうと、ナイトを敵陣へと躍らせた。

「……そう来たか」

感心するように、グラディウス様が呟いていた。


三十三手目。

グラディウス様が斜め後方に王を逃がし、私はその退路を塞ごうとする――けれど、まだ追いつめ切れてはいない。

そして――。


「…………」

ふと、グラディウス様の手が止まった。

私も、同時に静止していた。

二人とも盤面を見つめて沈黙――やがて、お互いの顔を見合わせた。

(もう、動かせる駒がない。これって――)


引き分け(ステイルメイト)だ!」

観客の誰かが、ぽつんと呟いた。

一瞬酒場が静まり返り――次の瞬間、どっと歓声が湧いた。


「おおおおおおお――!」

「夫婦で引き分け!? 最後まで互角じゃねえか!」


張り詰めていた糸が切れて、椅子の背もたれに寄りかかった。

――ふぅ。と、長い息を吐く。

胸がいっぱいで、顔が勝手に笑っていた。

ふと対面を見れば、グラディウス様も肩の力を抜いて息を吐いていた。

「エヴァ、ありがとう。楽しかった」

噛みしめるようにそう言って、笑っていた。



「引き分けってことは、今日の優勝はこの二人だな!」

「乾杯しよう! 旦那とエヴァちゃんに乾杯!!」

祝賀ムードの中、手に手にグラスを掲げて乾杯した。

グラディウス様と私は輪の真ん中で、皆の笑顔に囲まれている。


「エヴァちゃん、見惚れちまったよ」

「ディーの旦那をやりこめるなんて、さすがだなぁ」

気取らない笑顔を浮かべて、みんなが褒めてくれていて。……なんだか、くすぐったい。


「あの十四手目の技! 今度オレにも教えてくれよ」

「いえ、そんな大したものでは……」

ふと、私の腰に腕が回された。グラディウス様の腕だ。


「……私の妻は人気者だね」

ニコニコしながら、反対の手に持ったグラスを口に運んでいる。笑っているのに、なぜかグラスを握る指先に力が籠っているのは、もしかして……


(拗ねてるの?)

まさか、こんなことで? でももしそうなら……ちょっとかわいい。

私はクスっと笑ってグラディウス様を見つめた。


「あの。私よりも、ディーのほうがすごかったですよ?」

「ん?」

「引き分けとはいえ、実力はディーが上でした。なので皆さん、私ばかりじゃなくて……その。ディーのことも褒めていただけたら……」


彼は一瞬、きょとんとした。

それから、耐えきれないように小さく噴き出す。

「君は、意外と鈍いな」

「え?」

「私は勝ち負けの話をしてるんじゃない」


次の瞬間、腰を引き寄せられた。

逃がさないとでもいうように、しっかり掴まえられてしまう。

「皆が君に近づきすぎだ」

耳元に、低い声が落ちてきた。

「……私の妻だぞ?」

私の頭に軽くあごを乗せ、そんなことを言ってきた。


(……そっち!?)

頬が一気に熱くなる。


「おいおい。旦那が本気だぞ!」

「今日の旦那は怖ぇなあ!!」

腕の中に閉じ込められたまま、私は目を白黒させていた……。


   *


――どれほどの時間が流れただろう?

酒場の熱狂が一段落して、客たちがそれぞれの席に戻り始めたころ。

「では、我々はこのあたりで」

と、すぐそばで飲んでいたペールマン卿が静かに声をかけてきた。


「帰るのか?」

グラディウス様が尋ねると、他の二人も頷いている。

「ええ。明日の仕事がありますからね」

「これ以上はさすがに野暮ってもんだろう?」

それじゃあ、ごゆっくり。と、礼をすると三宰相は帰っていった。


「――カウンターに行こう」

グラディウス様は私の手を取って、カウンター席に移動した。並んで座り、二人分のお酒をオーダーしてくれた。

店の奥ではまだ笑い声が続いているけれど、こちらには他の人もおらずしっとりとした余韻に包まれている。


「お祭り騒ぎでしたね」

「君が人気者すぎるから」

バーテンダーが、お酒を私たちの前に置いた。

「…………さっき、本当に妬いていたんですか?」

「そうだよ。君を取られたら困る」

「またそんなこと言って」

ふふ。と笑ってしまう。

「取られる訳ないでしょう? 私はディーの『奥さん』なのに」


そっと彼の瞳を覗き込むと、照明の灯りを受けて優しい色に揺れていた。

「――そうだね」


かちん、とグラスを合わせて乾杯する。


「……毎日幸せです」

柔らかい沈黙の中、私はぽつりと言った。


「私もだよ」

「でも、もうすぐ休暇が終わってしまいますね」

「ああ。新しい日々の始まりだ」

グラディウス様の声は、とても明るい。

彼は時の流れを惜しまずに、前へと進む人なのだ。


「やっぱり強いですね、あなたは」

「君のおかげだよ。朝が来るのがこんなに楽しみなのは、初めてなんだ」

彼の指が、そっと私の指へと絡む。


「楽しみは、これからも増えていく。エヴァと一緒なら」

私はうなずいて、彼に身を寄せた。

温もりが、じわりと頬に伝わってくる――私の大好きな、この人の香り。


「ずっと、一緒です」


他の誰にも聞こえないよう、少し背伸びして彼の耳元に唇を寄せた。



「大好きです。――私のすてきな旦那様」


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました……!結婚式や幸せいっぱいの新生活、書きたいことがたくさんあるのですが、ひとまずここで一区切りとさせていただきます。ご感想などありましたらお気軽にお寄せください。


次の長編も今春公開予定です。またお会いできたら嬉しいです^^

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― 新着の感想 ―
甘かった。…実に甘かった……(現実でも甘いクッキーを食べていたので、口内&お話が倍程甘く感じた:笑)。 5章の終わりの「うわぁぁぁ」って感じではなく、二人の幸せはこれからも続くだろう事を予感させる幕…
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