休息の地 アイとゲームマスター
「ごめんね~待たせちゃった」
「さっき来たところだから大丈夫だよ。それに、ミカは女の子だから」
「なっ・・・あたしレンにも言われたことないよ! 男っぽいとか女に見えねぇとかそればっかだよ!?」
「でも、ミカは女の子だよ」
「もーやめてよ!」
少し顔を赤くしながらも抵抗するミカが可愛いと思ってしまった。
この談話室は他に声が聞こえないようになっているため、誰かに聞かれることはない。
だからこそ、ここで話すことを決めた。
話すなら早い方が良いとそう思ったからだ。
「あのさ、アイさんのことなんだけど・・・」
アイの名前に大きく肩を震わすミカに申し訳なさを感じるも、これは伝えた方がいいかもしれないと思ったのだ。
「職業選択の時に、あの中でのことを僕は覚えてるって言ったでしょ?」
「うん」
「あの時2人に伝えたこと以外にも言っていないことがあったんだ」
「伝えてないことって?」
「どうして死んだのかゲームマスターに聞いたんだ」
「答えてくれたの・・・?」
「うん・・・」
間を置く僕にミカは深呼吸をする。
きっと、受け入れようと、きちんと聞こうと、取り乱さないために自分を落ち着かせているのだろう。
「ゲームマスターの答えは不必要だと判断したから。そう言ったんだ。その言葉を聞いたときに僕は殺意が湧いたんだ。人の命を簡単に踏みにじるその考えに。でもその殺意が逆にゲームマスターを楽しませてしまった。それで、ログアウトのことを教えてもらって僕はあの中から放り出されたんだ。僕は必ずあのゲームマスターの正体を暴く。必ず倒す」
アイは顔を下に向け方を震わす。
ゲームマスターの残酷な答えに怒りと悲しみが込み上げているのだろう。
「あの時言えなかったのは、その事を伝えたら2人はまた扉に入ってしまうと思ったからなんだ。あの扉をもう1度入ったものは破滅する。つまり死ぬと言われたんだ」
「・・・っ。ユウマ・・・ありがとうっ。あたしあの時に聞いてたら扉に入ってたっ」
泣くのを堪えながら必死に言葉を繋げるミカに、僕は何も言えなかった。
「ユウマぁ、アイとは会ったことないのに、ありがとう。信じてくれて、あたし達を守ってくれてありがとっ」
「ミカ、僕は守れてないよ。僕はまだ、何にもできてないよ。そう見えるとしたらそれは、ミカとレンのおかげなんだ」
「そんなこと・・・」
「そんなこと、あるんだよ」
それからミカは何かが切れたかのように声を出して泣いた。
僕は何もすることができず、ミカに一言だけ飲み物取ってくると伝えて部屋を出る。
「これ飲んで。暖かいココア売ってたから」
「ユウマ、あたしもゲームマスターを許せない。足引っ張ると思う。それでも、一緒に戦わせて」
「うん」
「ホットココア、よくアイが作ってくれたの」
「そうなんだ。アイさんが作ってくれたものよりは美味しくないと思うけど」
「そんなことないよ。ユウマがあたしを心配して買ってくれたんだもん。美味しいよ」
「良かったよ」
「レンには、あたしから話すね」
「分かった。この世界に来てから時間ができたら話そうと思ってたんだけど・・・」
「レンも多分今頃泣いてると思う。あたしに任せて。もう大丈夫だから。でも、もしまたダメになりそうだったらユウマ、傍にいてくれる?」
そんな答えの決まっている当たり前の質問を不安そうな顔で投げかけてくる。
「いるよ。ミカが笑顔になれるまで」
「ありがとうユウマ」
「僕にできることがあれば何でも言っていいから」
「あたしから言っといてなんだけど、ちょっと照れるね」
目元を赤く染めながらも照れて笑うミカにどこか目が離せなかった。
この子を守らなきゃと、なぜかそう思えた。
「えーっと、今日は本当に色々あったね。買い物は皆で明日行こっか」
「そうだね。今日はもうゆっくり休んで」
「ユウマも・・・ね。それじゃあ、アイのこと教えてくれてありがとう。おやすみ」
「おやすみ」
談話室を出ていくミカを見送ってからも、しばらく僕はその場から動けなかった。