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先輩と後輩シリーズ - 第97話 [双子11]彼と彼女の傷
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第97話 [双子11]彼と彼女の傷

 キャンプ場につくと、栄治さんが木造の事務所に、チェックインをしに行った。

 私達三人は、その辺を歩いて自然の力を体に吸収していた。


「おーい、荷物運ぶの手伝ってくれー」


 栄治さんが戻って来ると、みんなで車から持ってきたキャンプ用品と、事務所で貸してくれたキャンプ道具をいくつか運んで今日の寝床に向かった。


「あれ? テント二つ借りたんですか?」

「うん、俺はいいけど、流石に分けないとまずいかなって思ってね」


 まぁ、確かに別に知ってる仲だし警戒することもないけど、妹の女友達と同じテントで寝るのは気まずいものがあるのかもしれない。


 ミーくんは夕ご飯にするバーベキューのコンロを運んでいる。

 肉や野菜は近くのスーパーで買い、炭やコンロはここで貸し出しているのを借りた。


 お昼は高速のサービスエリアで食べた。

 なので、最初にみんなでテントを立てると、私と小町ちゃんは川遊びをしたり、ミーくんと栄治さんはこれまた貸し出していた釣り竿で川釣りを楽しんでいたり時間を贅沢に使った。

 少し離れた岩場で釣りをしているミーくんの横顔が目に入る。

 そして、私は自分の唇を少しなぞる。


 最近はそればかりだ。楽しんでいる間にもところどころでミーくんの顔を見ると、あの時のキスを思い出して悶々としている。

 

 答えが欲しい。

 



 夕ご飯のバーベキューの火起こしにミーくんが手間取っている表情が少し珍しくって笑ってしまった。

 そして、自然の中で食べるお肉は少し焦がしたりもしたけど、とっても美味しかった。

 あらかた、食べ終わると、その話題は小町ちゃんから始まった。


「じゃあ、場所決めしよっか」

「場所決め? 何の?」

「ん? テントの寝る場所に決まってるじゃん?」


 小町ちゃんは当然のようにそう言い切った。

 栄治さんが「おいおい」と言って止めに入る。


「男同士と女子同士でいいだろ」

「何つまんないこと言ってんの、クジで決めた方が盛り上がるでしょ」

「お前、家族同士ならまだいいけど、最悪俺と恵ちゃんとかなると気まずいだろ」

「そん時はそん時だって、三分の一だよ?」


 私はここにきてやっと小町ちゃんの企みが読めた。

 小町ちゃん、栄治さんと寝たいんだ。

 いくら兄妹とはいえ、家では別々に寝るのは当然。

 こんな時ぐらいじゃないと、チャンスはない。

 それも栄治さんが気を使ってテントを二つに分けた。

 なら、本当の意味で二人きりで寝れる。


 二人きりの空間。


 私はあのキスの日以来どこかミーくんが私を避けている様な気がした。

 お互いさまかもしれないけど、これはいい機会かもしれない。

 二人きりになれば、私はあの時のキスについて聞く勇気が湧くかもしれない。


「こっ、小町ちゃん、それはいいアイデアかもしれないね」

「でしょー、流石めぐっち、分かってるねー」


 私が賛成派に回ったことで、立場の弱くなった栄治さんがミーくんに助けを求める。


「稔は流石に嫌だよな?」

「……いや、俺はどっちでも」

「はい、決まりー、賛成二票と反対一票に中立ね」


 小町ちゃんはそう言うと、勢いで押し切りたいのか、あらかじめ用意していたらしい割り箸を四本取り出した。そして、その先を手の平で隠し、みんなの前に突き出す。


「二本だけ先にマジックで黒く塗ってあるからね」

「もう、どうなっても知らないぞ」


 小町ちゃんが私にアイコンタクトを送る。

 流石、小町ちゃん、何か不正があるんだね。

 小町ちゃんの思考が読めるとしたら、親友の私しかいない。

 つまり私に引かせたい一本を用意してるってことだ。


 よく見ると、一本だけ先に傷が入っている。

 これだね!


「俺、これでいいや」


 そう言うと、私の手よりも先にその不正した割り箸を引いてしまったものがいた。


「黒か」


 ミーくんだった。

 小町ちゃんが完全に計算違いな顔をしている。

 私もパニックになり、残り三本の割り箸を睨みつける。


 三分の一だ。


 それを引き当てるだけでしょ。


「えいや!」


 私は声だけは必死にその割り箸を引いた。


 天に掲げたその割り箸の先には何も色はついていなかった。


 つまり、私がミーくんと寝ることはない事だけが確定した。


「……最後は俺か、じゃあこっちで」


 栄治さんが引いた割り箸には色が付いていなかった。

 栄治さんは気まずそうに私の方を見ると、恐れていた結果になったことに謝った。


「……あー、ごめんね恵ちゃん」

「いえ、別にいいですよ。私に気にならないですよ」

「えー、じゃあ私がミーくんとか」

「小町、お前は少し反省しろ」


 ギャンブル依存症の人達は、冷静になればとてつもく低い確率でも勝負に熱中している時は、何故か根拠もなく勝てると妄信するらしい。

 私とミーくんが一緒に寝られる確率なんて不正ナシなら三十パーセントぐらいしかなかったね。


 その後はどこか流れている妙な空気を皆が皆で気にしないふりをするために、どこかぎこちないけれどはしゃぎながら片方のテントに集まってトランプやウノをした。


「そろそろ寝る時間だね」

「あー、そうだな」

「じゃあ、私とミーくんは向こうのテントに移るね」

「おう、そうだな」


 そう言って、小町ちゃんとミーくんはテントから消えた。

 私と栄治さんは会話少なめですぐに明かりを消して、シュラフに入った。

 明かりを消す前に栄治さんがもう一度だけ「こんなことになって本当にごめんね」と謝ってくれた。


「もう、謝り過ぎですよ、私変なことされるなんて思ってないですから」

「うん、ありがと」


 私は暗闇の中一時間程、中々寝付けず天井を眺めていた。

 向こうのテントはまたお笑い芸人とかアニメの話で盛り上がってるのかな。

 私はミーくんと小町ちゃんの方のテントを思った。


「……寝付けない」


 私は栄治さんを起こさないようゆっくりと起き上がって、靴を履いた。

 

「少しだけ散歩しよう」


 そう口に出すことで自分に言い訳して隣のテントの様子を通り過ぎるときに確認しようとした。

 流石に、もう寝てるかな。


 隣のテントまで二十メートルほどしかない。

 それでもその二十メートルさきが気になるの。


 テントを出ると、ミーくんたちのテントの灯りはもうついていなかった。

 やっぱり寝ちゃったか。


 仕方ないので、本当に散歩しようと、一歩一歩こけないようにゆっくり歩いた。

 その一歩一歩はミーくんたちのテントまでの距離を短くしていく。


『はぁ、はぁ』


 夜の静かなキャンプ場の静かな漏れ出る息遣い。


『んっ』


 それは声を少しでも抑えようとするのを感じる本当に小さな息遣いだった。


『あっ』


 その声はよく聞いた二人の声が混じっていた。

 テントの前で私は立ち尽くすしかなかった。

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