【十人目】 幼馴染みの好きなモノを俺が嫌いになるのは彼女の好きなモノが俺じゃないから
「最近、好きなモノが変わったの」
俺の幼馴染みは当たり前のように言った。
彼女はコロコロと好きなモノが変わるんだ。
「次は何?」
「それはね、ネコちゃん」
「この前はクマのぬいぐるみが好きだったよね?」
「うん。クマのぬいぐるみの前はミルクティーでその前は可愛いシュシュでその前は、、、」
「もう、分かったよ」
俺は彼女が今までの好きなモノを全部、言いそうで言葉を遮って止めた。
「今度こそ、あなたに好きになってもらうんだからね」
「今回も嫌いになると思うよ」
「ダメよ。ネコちゃんは絶対に好きになってもらうからね」
「君が毎日、俺に好きなモノばかりを勧めるから、嫌になるんだよ」
「それなら今回は少しずつ勧めるわ」
「それなら今回は俺も好きになれるかもしれないな」
俺はそう言って彼女の頭を撫でた。
「分かってるの? 今回はいつもと違うのよ。絶対に好きになってもらうんだからね」
「うん」
俺は分かってると言うように彼女の頭を撫でた。
彼女はもう! と言いながら頭を撫でられるのを嫌がらない。
◇
彼女がネコが好きと言ってから一週間が過ぎた。
いつもなら、もう俺は彼女の好きなモノを好きになり、そして彼女に勧められ過ぎて嫌いになりかけているところだが、今回はまだ好きにもなっていない。
「ねえ、あなたにこれをあげるわ」
「何?」
「ネコちゃんのシールよ」
「えっ」
「本物のネコちゃんをオススメはできないから、先ずはネコちゃんグッズをあなたにあげるわ」
「それでネコを好きになれっていうのか?」
「うん。少しずつよ」
「だけど俺には、ネコグッズの使い道が分からないんだけど?」
「それなら、このシールをあなたのノートに貼ってあげるわ」
彼女はそう言って俺のノートにネコの可愛い顔のシールを貼った。
「可愛い」
彼女はネコのシールを見て笑顔で言った。
俺は、君の方が可愛いよって言いたくなった。
彼女は可愛い。
そんな彼女を俺は好きなんだ。
◇◇
そしてシールを貰った二日後に、彼女はまた俺にネコグッズをくれた。
「はい。今日はこれよ」
「何だよこれ?」
「ネコちゃんの下敷きだよ」
「何処がネコなんだ?」
「よく見てよ。ネコちゃんが隠れてるのよ」
俺はドット柄の下敷きを穴が開くほど見たが、猫の姿なんてどこにもない。
「分からないよ」
「当たり前よ。見方が違うもの」
彼女はそう言って下敷きを太陽に向けた。
するとドット柄のところにネコの顔が透けて見えた。
ネコの足跡も見える。
「何これ? すごい」
「でしょう? 私のお気に入りなんだよ」
「君のお気に入りなら君が持ってる方がいいんじゃないのか?」
「私のお気に入りだからあなたが持っていてほしいのよ」
「どういう意味だよ?」
「あなたには、絶対にネコちゃんを好きになってもらいたいからね」
彼女はそう言って、今日も可愛い笑顔を俺に見せてくれた。
◇◇◇
それから次は三日が経った日。
彼女がまた嬉しそうにしながら、俺の元にやってきた。
「今日は何だよ?」
「まだ何も言っていないのに、私の言いたいことが分かるの?」
「君がニコニコしながら俺の所に来るのは、ネコグッズを渡しに来たんだろう?」
「そうだよ。今日はなんと、猫耳だよ」
彼女は猫耳がついたカチューシャを、俺の目の前に出した。
そんな物をつけられる訳がない。
「それを俺がしたら、変な人だよ」
「今日がハロウィンだったらよかったね」
「ハロウィンでも俺はしないよ」
「そうなの? 可愛いのに」
彼女はそう言って猫耳を自分の頭につけた。
彼女が猫耳をつけると、違和感がない。
彼女には元々ついているように見える。
そして何より可愛い。
ずっと見ていたいと思ってしまった。
こんなに可愛い彼女を見られるのなら、毎日のようにネコグッズを、勧められてもいいとさえ思ってしまった。
しかし次は何を持って来るのだろう?
ネコグッズといえば、色々ある。
ネコのキャラクターも色々ある。
考えても答えは分からないだろうから、次を楽しみにしておこう。
彼女が俺を思い出しながら、ネコグッズを選んでいると思うと嬉しかった。
彼女はどんな顔で、ネコグッズを選んでいるんだろう?
そんなことを思っていると、顔がニヤけそうになる。
「何よ、その顔は?」
彼女は怪訝な顔で俺を見て言った。
「君の猫耳がお似合いで可愛いからだよ」
「それって私をバカにしているわよね? 高校生がネコになろうなんて思っているからって」
「君はネコになりたいの?」
「だって好きなんだもん。女子が好きな人のシャーペンと同じ物を持つのと同じよ」
「そういうことにしておくよ」
「何よ。やっぱり私をバカにしているわね?」
彼女はプンプンと怒っている。
可愛い彼女の頭を撫でて、俺は彼女を落ち着かせる。
「君がネコを好きなのは分かっているからね」
俺は彼女にそう言った。
彼女のネコへの情熱は分かるからだ。
彼女は俺の言葉を聞いて、それならいいのと言って、大人しく頭を撫でられている。
◇◇◇◇
そして次の日、彼女は焦ったように、俺に色んなネコグッズを渡してきた。
「お願い。もう時間がないの」
「何? どうしたんだよ」
「これはネコちゃんのノートで、これはネコちゃんのペンで、これはネコちゃんの消しゴムで、これは、、、」
「一つずつちゃんと聞くからもっとゆっくり教えてくれよ」
俺は彼女の腕を掴んで彼女の言葉を遮った。
「でも、もう時間がないの。明日には、、、」
彼女は泣いてしまった。
「なっ何? どうしたんだよ?」
「私が勘違いをしていたの」
「勘違い?」
「あの子がいいのに」
「あの子?」
「あなたには、こんなにたくさんのネコちゃんグッズを、一度にあげたけど嫌いにならないで。私が勧めるのは最後にするから。お願いだからネコちゃんだけは嫌いにならないで」
彼女は涙目で俺に言った。
「俺が毎回、君の好きなモノを嫌いになるのは、君が俺よりも好きなモノを好きだからだよ」
「好き?」
「俺は君が好きなのに、君は俺じゃなくて好きなモノに夢中だから、嫉妬して嫌いになっていたんだよ」
「それならネコちゃんは?」
「ネコのことを答える前に、どうして君は泣いていたの?」
「これを言ったら、あなたは絶対にネコちゃんが好きだって言うから言わない」
「でも、時間がないんだろう?」
「でも、あなたにはちゃんと、ネコちゃんを好きになってほしいの」
「それなら心配いらないよ」
「えっ」
彼女は首を傾げた。
「俺はネコが好きだよ。昔からね」
「昔から? 私はそんなの聞いたことないよ?」
「言ってないからね。それに俺の知ってるネコは、好きなモノがコロコロ変わる、自由気ままに生きてる子だからね」
「えっ」
「俺はネコみたいな君が好きだよ」
「嘘」
「嘘って言ったら、俺はネコが嫌いってことになるけどいいかな?」
「ダメ」
「ねえ、どうして泣いていたの?」
「ネコちゃんが、、、」
俺はその後、彼女から泣いた理由を聞いた。
◇◇◇◇◇
次の日、俺は保健所へ親と向かった。
彼女が泣いた理由は、お気に入りのネコが保健所で、処分されそうになっていたからだった。
彼女の親は、動物の毛にアレルギーがある為に飼えないみたいで、俺の親にネコを飼ってほしいと頼んだみたいだ。
俺の親は、俺が飼うと言えばいいと言ったみたいで、彼女は俺が嫌いにならないようにネコを少しずつ勧めたんだ。
でも彼女は、ネコが処分される日を間違えていたみたいで、きのう泣いていたんだ。
俺はネコを飼うことを決めた。
そしてネコを保健所へ迎えにきたんだ。
ネコを抱いて歩いていると、ネコが俺の腕から抜け出し走り出した。
「ちょっ、待って」
ネコは俺の家の玄関へと向かっている。
「きゃっ」
俺はドアの前でネコを抱き締める彼女を見つけた。
玄関のドアの前でネコを待っていた彼女。
そんな彼女の元へネコは走って行ったのだ。
そんなことを知らない彼女は、驚いて声をあげたみたいだ。
「良かったな」
俺はそう言って彼女の頭を撫でた。
彼女は嬉しそうに俺を見上げて笑顔を見せてくれた。
その後、ネコと彼女は俺の部屋にきた。
ネコは彼女にじゃれている。
そんなネコを見て彼女は笑っている。
こんな風景を、好きなだけ見られるなんて幸せだ。
「ねえ、この子の名前は何にするの?」
「君が決めていいよ」
「保健所ではぶち模様だから、ぶちって呼ばれてたけど、私は違う名前で呼んでたんだ」
「何て呼んでたの?」
「たくさん名前を呼んだの。その中で一番、反応が良かったのがネコなの」
彼女がネコの名前を言うとネコは鳴いた。
「ネコ」
俺がそう呼ぶとネコは彼女の顔を見た。
まるで “あいつに呼ばれて返事をしていいのか?” と彼女に聞いているみたいだ。
「ネコ。彼は私の大好きな人だから返事をしてあげてね。私とあなたの大好きな人になるからね」
するとネコは俺を見て、返事をするように鳴いた。
◇◇◇◇◇◇
ネコが家に来てもうすぐ六年になる。
「ネコ」
俺がネコを呼ぶとネコは俺の元にくる。
そして彼女も俺の元にくる。
「君は呼んでいないんだけどなあ?」
「だっていつもネコばかり呼ぶからよ」
「君が忙しいのに、ネコが君から離れないから、俺が呼んでいるんだよ」
「今日は忙しくないもん」
「忙しいだろう? 早く書かないと提出できないだろう?」
「すぐ書けるから今はあなたの隣にいたいの」
「ダメ。俺は早く君と同じ名字になりたいんだよ」
「もう! 分かったわよ」
そして彼女は紙に名前を書いて印を押す。
俺達は明日、ネコが家に来た日に結婚をする。
だから明日からはネコと彼女と俺との生活になる。
どんな毎日になるんだろう?
「書いた?」
「うん。書いたよ。だからご褒美を頂戴よ」
「ご褒美ってなんだよ」
「分かるでしょう?」
「そうだな」
そして俺はネコを抱きかかえ、彼女の頬にネコの鼻を当てた。
「嬉しいけど違うよ」
「分かってるよ」
俺はそう言って彼女にキスをした。
キスをした後、二人で笑っていたら、ネコが俺達を見上げて首を傾げていた。
そんな可愛いネコを彼女は抱き締める。
その彼女を俺が抱き締めた。
俺はこんな生活を毎日、過ごせると思ったら楽しみで仕方なくなった。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
ブックマーク登録や評価など、ありがとうございます。
次のお話は、可愛い後輩が大人へとなる日に告白をしようと決断する彼の物語です。
しかし彼女はそんなことも知らず、彼とお祝いするはずだったのに約束の時間になっても現れない。