【十一人目】 大人の階段を彼女が上る時、彼女の隣にいたい俺
明日は可愛い後輩の誕生日だ。
俺は彼女の誕生日に決めていることがある。
彼女に告白をしようと思っている。
彼女が大人になる明日、俺は彼女の隣で大人になる彼女を見たいんだ。
俺が明日をどれだけ心待ちにしていたか。
彼女は何も知らないだろう。
彼女はどう思うだろう?
彼女はちゃんと受け止めてくれるだろうか?
「先輩。明日は先輩がお祝いしてくれるんですよね?」
可愛い後輩が俺の元に駆け寄って言った。
「そうだよ」
「毎年、先輩がお祝いしてくれるから毎回、楽しみなんです」
「君に恋人がいれば俺は必要ないんだけどね」
「え~、恋人がいても先輩からお祝いしてもらわなきゃ、私の新しい一年が始まらないですよ」
「恋人ができたらそんなこと思わないよ」
「私には恋人はできません。先輩にもできないでしょう?」
「決めつけるなよな」
「先輩は恋人ができたら私を祝ってくれないんですか?」
「恋人はできない」
「やっぱり先輩も私と一緒ですね」
「まあ、二人とも恋人ができるまで、君の誕生日を祝うよ」
「ありがとうございます。今回のプレゼントは何かな?」
彼女は嬉しそうに言った。
俺が毎年、彼女の誕生日を祝うのには理由がある。
それは彼女と俺の出会った日に理由がある。
◇
彼女と出会ったのは四年前。
「寒っ」
俺は成人式が終わり友達とタイムカプセルを掘り起こす為に自分が通っていた高校へと来ていた。
友達はまだいないみたいだ。
「あっ、卒業生ですか?」
俺は可愛い女子高生に声をかけられた。
「うん。この学校は何も変わっていないね。もしかしてペンギン先生がいたりするかな?」
「いますよ。ペンギン先生、可愛いですよね」
「ペンギンみたいな歩き方をする先生だからね」
「そうなんです。そんな先生は去年、結婚したんですよ?」
「歩き方は変だけど顔はイケメンだからね」
「そうですよね」
「もしかして好きだった?」
「えっ、そんなことはないです」
彼女はうつむいて俺に顔を見せてくれない。
隠しているのはバレバレだ。
「何で隠すの?」
「だって結婚してる人で、先生ですよ?」
「いいじゃん。好きになるのは悪いことじゃないよ」
「迷惑ですよね?」
「迷惑でもないよ。人に好かれることは嬉しいよ。君は先生と幸せにはなれないけど、この恋は大人の階段の一段目だよ」
「大人の階段?」
「そう。君は一段ずつ大人になっていくんだよ」
「そうなんですね」
「あっ、そうだ。大人の階段を一段上った君にこれをあげるよ」
俺はタイムカプセルから出した一枚のカードを渡した。
「バースデーカードですか?」
「何かプレゼントをあげたいんだけど、今はこれしかなくて」
「タイムカプセルにバースデーカードを入れていたんですか?」
「うん」
「どうしてですか?」
「今日が誕生日だから」
「えっ、私もです」
「一緒なんだね? それならこのバースデーカードはちょうどよかったね」
「嬉しいです」
「誕生日おめでとう」
「先輩もお誕生日おめでとうございます」
彼女は笑って言ってくれた。
彼女とはこれが最初で最後だと思っていた。
しかし、彼女ともう一度、会うことになる。
◇◇
彼女と二度目の出会いは初めての出会いから二年後だった。
彼女と出会った場所は俺の通っている大学だった。
その日はオープンキャンパスでたくさんの人で賑やかだった。
そんな人混みで彼女と出会ったんだ。
俺はオープンキャンパスなんて面倒で、適当に過ごしていた。
サークルの仲間に色々と指示をされて、言われた通りにしていた。
買い物を頼まれ、人混みの中を歩き、大学を出ようとしていた。
その時、何かに引っ張られ俺の動きは止まった。
「いたっ」
痛がる女の子の声が聞こえた。
その声を出した女の子を俺は見る。
可愛らしい女子高生だ。
女子高生の長く黒い綺麗な髪が俺の袖のボタンに引っ掛かっていた。
俺は取ろうとしたが、取れない。
人混みの中で立ち止まると迷惑だから、女子高生と一緒に人混みのない中庭に向かった。
女子高生の髪を引っ張らないように、腕を彼女の髪の毛に近付けた。
腕を近付けるだけで、女子高生との距離は近付き過ぎないようにした。
女子高生が嫌がると思ったからだ。
中庭のベンチに座り俺は一生懸命、ボタンから女子高生の髪の毛を取ろうと頑張った。
それなのに、全然取れない。
「髪の毛を切りましょうか?」
「そんなの君の髪の毛がもったいないよ。こんなに綺麗で、サラサラなのに俺のボタンなんかに絡まってしまって。ごめんね」
「あなたは悪くないですよ。これは運命だと思うんです」
この女子高生の優しさは分かったよ。
俺を責めたりしていないと言いたいのだろう。
「そうだね、運命だね」
「どうしてそんな、適当に言うんですか?」
「だって俺は運命よりも、この綺麗な髪の毛をどう守ろうか考えているからだよ」
「それなら私をちゃんと見て下さい」
女子高生はそう言って、俺の両頬を両手で挟み俺の目線を女子高生の顔に向けた。
女子高生は少し怒っているようだ。
「えっと、どうして怒っているのかな?」
「分からないんですか?」
「何をかな?」
「忘れたんですか? 同じ誕生日なのに、、、」
彼女の言葉で二年前のことを思い出す。
「えっ、ペンギン先生が好きだった女の子?」
「そんな呼び方やめて下さいよ。ペンギン先生のことはちゃんと諦めましたから」
「あっ、それはごめん」
「いいですよ。その代わり、私にこの大学のことを教えて下さいよ」
「この大学に通うつもりなの?」
「はい。この大学に通うことが、私の夢に近付く第一歩なんです」
「そうなんだね。それじゃあ、このボタンを取ったら大学を案内するよ」
「ボタンじゃなくて髪の毛ですよね?」
「ボタンだよ。ボタンを取れば、君の髪の毛は切らなくても、絡まりは取れると思うからね」
彼女の髪の毛はボタンを取るとすぐに取れた。
サラサラで綺麗な髪を俺は手櫛で整えてあげた。
彼女は嬉しそうに、お礼を言った。
それから彼女は俺が大学を卒業してから、俺と同じ大学に入学した。
彼女は大学生で俺は社会人だが、何かあれば連絡をして、会って話をしたりした。
先輩後輩ではなく、友達のような関係だった。
◇◇◇
それから今に至る。
俺はもう社会人だが、彼女はまだ大学生の未成年だ。
しかし、それも今日で終わりだ。
彼女は明日、やっとなりたかった大人になるのだ。
俺もやっと彼女に言える。
好きだって。
次の日になり、彼女は成人式で忙しそうだ。
夜にお祝いをすると伝えているから、昼間は友達と楽しくやっていると思う。
約束の時間は夜の七時だ。
レストランを予約していたが彼女から連絡はこない。
忘れているのだろうか?
連絡をしても出ない。
俺はレストランで待った。
夜の九時になっても彼女から連絡はこない。
俺はレストランを出て家へと帰った。
俺は彼女のことを考えていた。
もしかしたら同級生に会って、大人になった同級生を好きになったりしたのかもしれない。
彼女に俺は必要じゃなくなったのかもしれない。
彼女の心に、俺の入る隙間さえなくなったのかもしれない。
そう思っていたら電話が鳴った。
「もしもし」
「ごめんなさい。遅くなっちゃった」
「いいよ。楽しいならそっちで楽しみなよ」
「ダメですよ。先輩は今、何処ですか?」
「家だよ」
「今から行きます」
「ダメ」
「どうしてですか?」
「君が俺の家に来たら俺は君に何をするか分からないから」
「どういう意味ですか?」
「大人の君なら分かるでしょう?」
「そういうことですか。分かりました。それじゃぁ」
彼女はそう言って電話を切った。
彼女に嫌われたみたいだ。
告白をする前に嫌われるなんて最悪な誕生日だ。
『ピンポーン』
家のインターホンが鳴る。
俺はドアを開けて固まった。
「先輩?」
俺の目の前には振袖姿の彼女がいた。
「何でいるの?」
「誕生日をお祝いに来たんです」
「でも、、、」
「早くお祝いしましょう」
彼女は俺の言葉を遮って家へと入ってきた。
「先輩。お誕生日おめでとうございます」
彼女はそう言って俺にプレゼントをくれた。
俺は包装紙を破って中を見た。
「バースデーカード?」
「はい。開いて読んで下さい」
俺はバースデーカードを読んだ。
バースデーカードには彼女の思いが詰まっていた。
「ありがとう。それじゃあ次は俺からだね。誕生日おめでとう」
俺も彼女にプレゼントをあげる。
「先輩もバースデーカードなんですか?」
「うん。読んで」
彼女は目に涙を溜めてバースデーカードを読んでいる。
「先輩? “最後に” の後に何も書いていないですよ?」
「うん。その後は今から言うから」
「えっ」
「最後に。俺は君と結婚がしたい。だから」
俺はそう言って彼女の前に座り、片足だけ膝をつく。
そして指輪を出す。
「俺と結婚して下さい」
「えっ、えっ、先輩。私達はまだお付き合いもしていないのに結婚ですか?」
「結婚は君が大学を卒業してからしようと思っているよ?」
「それならまだ結婚はしないんですね」
彼女はホッとした顔をしている。
「そんなに結婚が嫌?」
「違いますよ。結婚したら子供はまだかなんて言われるでしょう? 子供はいつかは欲しいですけど今は二人を楽しみたくて」
「君ってそんなことを考えてたんだ? 嬉しいことを言ってくれるね」
「えっ、そうですか?」
「俺と二人でイチャイチャしたいってことでしょう?」
「あっ、先輩ったら変なこと考えました?」
彼女は顔を赤くしながら言った。
「えっ、君がここに来たってことはそういうことでしょう?」
「なっ何か恥ずかしくなってきました」
「最初はみんなそうだよ」
「先輩も?」
「うん。ほらっ」
俺は彼女の耳を俺の胸に当てた。
「本当だ。心臓の音がすごく速いですね」
「君は少し震えてる? もしかして怖い?」
「少しだけ怖いです。でも先輩だから大丈夫です」
彼女はそう言って俺の胸から耳を離して見上げた。
「可愛い。今日は帰さないよ」
「分かってます。だから今日はお泊まり道具を持ってきました」
「えっ。準備いいね。何を持ってきたの?」
「暇にならないようにトランプとかそれにクイズの本とかも持ってきました」
そんな可愛いことを言う彼女に笑ってしまった。
「君はまだそのままでいいよ」
「私は今日、先輩のモノになるために来たんですよ?」
「えっ」
彼女の言葉に俺はドキドキしてしまった。
彼女は俺を惑わす小悪魔なのかもしれない。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
本日は成人の日なので成人となった皆様、おめでとうございます。
次のお話は、幼馴染みに言われた最後の言葉が、誰もが嫌がる言葉だった彼の物語です。
彼女が何故、そんな言葉を言ったのか分からないまま大人になった彼。