【百人目】 リボンが蝶へ変わる時、美少女の君は俺を助けてくれるんだ
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
今日もいつも通りの朝がきた。
制服に着替えて準備をして家を出る。
駅まで歩く途中、俺は転びそうになる。
これも、いつものこと。
「また取れたのか」
俺はそう言って足元を見る。
すると、靴ヒモがほどけている。
俺はいつものように靴ヒモを結ぶ、、、。
いいや、違う。
俺は靴ヒモを結べない。
だから、いつも靴の中に靴ヒモを入れる。
靴の中に靴ヒモを入れると少し違和感があるが、そんなことすぐに気にならなくなる。
だから最初の違和感も我慢をする。
学校に着いてそのまま靴箱へ収納する。
学校が終わり、靴を履く時に靴ヒモを中に入れて家へ帰る。
家へ帰り靴ヒモをそのままにしていると妹が、まだ自分で結べないのと文句を言いながら結んでくれる。
それが俺の日常なんだ。
「あれ?」
しかし、今日は違った。
学校で靴を履き、靴ヒモを靴の中に入れようと靴ヒモを探したがないんだ。
靴ヒモはない訳ではなく、あるのだが靴の中に入れる分の靴ヒモがない。
そう。
靴ヒモがちゃんと結ばれているんだ。
不思議には思ったが、妹がしてくれたんだと思って気にはしなかった。
妹も同じ高校だから気がついて結んでくれたんだと思った。
そんな日が何日も続いた。
毎日のように学校で結んでくれる妹に感謝をしなければいけない。
妹は家へ帰ってきて、いつも真っ先に俺の靴ヒモを見て、文句を言いながら結んでくれるのに、最近は文句を聞いていない。
「ただいま」
俺が家へ帰ったら、今日は珍しく妹が先に帰ってきていた。
「おかえり。お兄ちゃんは、どうやって靴ヒモを結べるようになったの?」
「えっ」
「だから、どうやって靴ヒモを結べるようになったの? 誰かに教えてもらったの?」
妹の言葉に俺は意味が分からず、答えに困った。
「お兄ちゃん? どうしたの?」
「えっ、靴ヒモ? そんなの結べないけど?」
「でも最近は私が結ばなくても結べてるでしょう?」
「それはお前が結んでくれているんじゃないのかよ?」
「私が? 私は最近、結んでないわよ?」
「えっ、それなら誰が?」
「知らないよ」
妹が嘘をついているようには見えない。
本当に知らないようだ。
「えっ、勝手に靴ヒモが動いているのか?」
「バカじゃないの? そんなことがあるわけがないでしょう?」
「兄に向かってバカはないだろう?」
「そうね。バカじゃなくて子供ね」
「子供?」
「だって、靴ヒモくらい結べないなんて、子供でしょう? 勝手に動くという考えも子供よ」
妹は呆れたように言った。
「それならなんで勝手に結ばれているんだよ?」
「知らないわよ。私と同じで靴ヒモがほどけていると気になる人がいるのよ」
「それならその人にお礼を言わなければいけないな」
「そうね。その相手が分かればいいけどね」
「まずはその相手を見つけるよ」
「それなら、見つけたら私からのお礼も言っててよ」
「分かった」
俺は明日、学校へ行ったら、靴箱を休み時間の度に確認しようと思った。
必ず見つけてお礼を言うぞ。
次の日、休み時間の度に靴箱を確認したが靴ヒモは結ばれていない。
そして放課後になった。
俺は帰ろうと靴を取ろうとして驚く。
靴ヒモが結ばれていた。
いつの間に結んだのだろう?
もしかして生徒じゃなくて先生なのか?
結んでくれる相手が誰なのか気になって仕方がない。
それに、この結び目はとても綺麗だ。
適当に結ぶ妹の形とは違う。
丁寧に結ばれている。
俺は相手が気になり、手紙を置くことにした。
靴の上にノートの切れ端の手紙を置く。
『いつも靴ヒモを結んでくれてありがとう。直接お礼が言いたいので放課後、屋上へ来てください』
その手紙を置いて俺は屋上へ行く。
しかし、どれだけ待っても相手は来なかった。
手紙に気付かなかったのかと思い、靴箱を見ると手紙はなくなっていた。
相手は会いたくないのかもしれない。
本当は面倒だと思いながらも妹のように、気になって結んでいるだけかもしれない。
それから俺は、靴ヒモを結んでくれている相手に、感謝をしながら言葉にすることはなかった。
相手がお礼を望んでいないのだから仕方がない。
「お兄ちゃん。靴ヒモを結んでくれている人に、お礼は言ったの?」
ある日、靴ヒモを結んでくれている相手に、お礼を伝えるということを諦めて忘れかけていた俺に妹が聞いてきた。
「あっ、そういえば、そんなこと言ってたよな」
「えっ、もしかして忘れてたの?」
「伝えようとして手紙も置いたんだが返事さえ来ないんだ。だから相手はお礼なんていらないと思ったんだよ」
「そうなのかな? 靴ヒモを結ぶなんて私だったらしたくないけどなぁ。汚いもん」
「俺のこともそう思っているのか?」
「お兄ちゃんのも汚いけど私はお兄ちゃんだからできるの」
「それは喜んでいいのか?」
「お兄ちゃんは喜んでいいのよ。お兄ちゃんの為にしてくれている人がいるんだからね」
俺の為にしてくれている人がいるのは嬉しいことだが、妹は俺の靴が汚いと言った。
そうだよな。
長く履いている靴だからな。
新しく買おう。
俺のお礼が伝えられないのなら相手が少しでもやり易いようにしてあげよう。
それで俺のお礼が伝わればいいだろう。
それから俺は新しい靴を買った。
靴ヒモが結べない俺は妹に頼む。
「靴ヒモを結んでくれ」
「お兄ちゃん。どうして結ぶのが難しい靴ヒモを選んだの?」
「難しい?」
「そうだよ。表は字が書いてあって裏には何も書いてない靴ヒモよ」
「それの何が悪いんだ?」
「蝶結びじゃ見た目が悪くなるの」
妹はそう言っていつものように結んでくれた。
しかし、靴ヒモの裏がでてきて変な結び目になっていた。
「何で裏が見えてるんだ?」
「蝶結びじゃそうなるの。だからこの靴ヒモは少し面倒だけどリボン結びにしなきゃいけないの」
妹はそう言って蝶結びをほどいてリボン結びをした。
今度はキレイに字が書いてある表が見えている。
「ちゃんと字が見えてるじゃん」
「そうだけど蝶結びより複雑で面倒なの。それに、いつも結んでくれている相手が、ちゃんとリボン結びをしてくれるかなぁ?」
「結べばどっちでもいいじゃん」
「そうなんだけど、せっかくなら、ちゃんとキレイに見せたいでしょう?」
「何でそんなに、結び方が気になるわけ?」
「私は毎年、家族みんなにあげる誕生日プレゼントを自分でラッピングしているから知ってるの。見映えって大切よ」
「ふ~ん」
俺は妹の気持ちが分からない。
だって、どうせ俺が靴を履くと靴ヒモはすぐにほどけるのだから。
俺は靴ヒモを結ぶ必要なんてないと思っているくらいだ。
今日は新しい靴で学校へ行く。
全てがいつも通り。
しかし、一つだけ違った。
靴ヒモがほどけないんだ。
だから靴ヒモを結んでもらう必要がない。
何でだ?
靴が新しいからなのか?
気になるから妹に聞いた。
「それはリボン結びだからかもね」
「結び方でほどけなくなるのか?」
「そうね。リボン結びは蝶結びより複雑だからほどけにくいのかもね」
「へぇ~」
「もう、結んでもらわなくてもいいかもね」
「ほどけないなら、そうなるな」
「良かったじゃない。結んでくれていた相手もホッとしてるわよ」
「そうだな」
これで結んでくれていた相手に迷惑をかけないな。
このまま相手が誰なのか分からないままか。
本当にお礼を直接、言わなくていいのか?
靴ヒモがほどけなくなって何日か経った。
いつもは靴ヒモを結んでくれているのか、楽しみに靴箱を見ていたのに、今はそんなのが一切ない。
いつの間にか日課になっていた靴ヒモの確認をしなくてよくなった。
何か大事なモノを失くした気持ちになった。
このままじゃダメだ。
靴ヒモを、また結んでもらう方法はないのか?
その相手と会って、ちゃんとお礼を言いたいし。
「お兄ちゃん。靴ヒモはほどけてる?」
「あれから一度もほどけてないんだ」
「これで誰にも迷惑なんてかけないわね?」
「でも靴ヒモが絶対にほどけないなんてことはないだろう?」
「そうね。絶対ではないわね」
「それなら靴ヒモの結び方を教えてくれないか?」
「お兄ちゃんが結ぶの? とっても不器用なお兄ちゃんが?」
「お前にも迷惑をかけないように自分で結ぶんだよ」
「やっと、お兄ちゃんも分かってくれたんだね」
「そうだよ。ほらっ、教えてくれ」
「うん。まずは蝶結びからね」
それから俺は妹から蝶結びを教わったが難しい。
俺の指は思うように動いてはくれない。
これは覚えるのに時間がかかると思う。
「今日の朝は、お兄ちゃんの蝶結びで靴を履こうよ」
「俺のはまだ不恰好だし、すぐにほどけるよ」
「いいの。ほどけたら、また結べばいいのよ」
「慣れろと言うことか?」
「そうだよ」
それから俺は家を出る。
俺の結んだ靴ヒモの蝶結びは駅に着くと、ほどけてしまった。
すぐに結び直すが不恰好で何度も結び直した。
「家ではもっとちゃんと出来たのに」
「結べないですか?」
俺はイライラしながら靴ヒモを結び直していると、後ろから声をかけられた。
「あっ、大丈夫です」
俺はイライラしていたから八つ当たりのように相手に冷たく言ってしまった。
「頑張っているんですね」
俺が冷たく言っても、その相手は明るく俺に言ってきた。
俺はその相手の顔を見て固まった。
だって、美少女だったからだ。
彼女の近くを歩くサラリーマンや男子学生は彼女をチラチラ見ながら通り過ぎる。
そんな目立つ彼女に声をかけられたことで俺まで目立ち、恥ずかしくなった。
俺は靴ヒモを結ばず、以前のように靴の中へ入れた。
早く、この場所から逃げたかった。
俺は彼女に一礼をして逃げるように電車に乗った。
学校に着いて、靴ヒモを結ぶことが面倒になり、そのまま靴箱へ入れた。
やはり、俺はこのままでいいかもしれない。
今まで、これで良かったのだから。
変える必要はない。
どうにかなるんだ。
そして放課後、靴箱を見て驚いた。
靴ヒモが結ばれている。
しかも、ちゃんとリボン結びだ。
俺はこの結び目を見て確信した。
この靴ヒモを結んでくれる相手は俺をバカにしているんだ。
だから俺の、お礼もいらないんだ。
俺だって結ぼうと頑張っている。
そんな俺の頑張りを、こんなこともできないのかとバカにしているんだ。
俺はバカにされて苛立った。
もう、靴ヒモなんて結ばない。
「お兄ちゃん。靴ヒモ結びの練習はしないの?」
「しない。俺には必要ないことだよ」
「そうね。お兄ちゃんには無理よね。それに今の靴ヒモはリボン結びをしてもらってるからほどけないわね」
「もう、誰にも迷惑はかけないよ」
「そうね。誰にも迷惑はかからないけどもう、一生お礼は言えないわね」
「それでいいんだよ。相手もそれを願っているんだ」
「私はお礼も言わない人がお兄ちゃんで凄く恥ずかしいよ」
妹はそう言って自分の部屋へ戻る。
手紙で、お礼は言っているからいいんだよ。
俺はもう、関わりたくないんだ。
それから俺の靴ヒモはほどけることはなくなり、靴ヒモの結び方も忘れかけていたある日。
「うわっ」
俺は転びそうになり足元を見た。
とうとう、この日が来てしまった。
靴ヒモがほどけてしまったんだ。
もう、妹以外には結んでもらいたくないから俺は自分で結ぶ。
しかし、結び方なんて忘れた。
どうしよう。
「あのっ」
座り込んで靴ヒモを結んでいる、俺の頭の上から声がして顔を上げた。
そこには以前、出会った可愛い美少女がいた。
「結びましょうか?」
「いいえ。大丈夫です」
「でも、あなたの結び方だと靴ヒモが可哀想ですよ」
「靴ヒモが可哀想?」
「はい。靴ヒモの表がちゃんと出てきてないですよ」
「あっ、それってリボン結びにするってこと?」
「そうです。私が結びますので見ていて下さい」
それから彼女は俺に教えながら結んでくれた。
俺は理解なんてできないけれど、彼女の手元から目が離せなかった。
キレイなリボン結びができた。
「ありがとう」
「いいえ。最近は結ぶ練習をしていないようですね」
「えっ」
「いつもキレイなリボン結びだったので」
「えっ」
「靴ヒモを結ぶのが楽しかったんです」
「えっ」
「驚きすぎですよ。私があなたの靴ヒモを結んでいることが、そんなにビックリすることですか?」
「君が俺の靴ヒモを?」
「そうですよ。あなたは、いつも靴ヒモを結ばないんです。それが、ずっと気になっていて結んであげたいって思ってしまったんです」
俺は彼女の顔を覗き込むように見た。
彼女は照れるように手で顔を隠した。
「どうして顔を隠すの?」
「恥ずかしいからです」
「何で恥ずかしいの?」
「やっと、あなたに私の気持ちを言えたからです」
「他人の靴ヒモを勝手に結ぶのがバレたら恥ずかしいだろうね」
俺は愛想笑いをしながら言った。
「違います。恥ずかしいのはあなたへの気持ちを知られたからです」
「えっ」
「分からないんですか?」
「何が?」
「私はあなたのことが好きだからあなたの為に靴ヒモを結んでいたんです」
「俺が好き? 靴ヒモを結ぶから好きなんて誰も思わないよ」
「でも、困っているあなたを助けたかったんです。それって好きだからですよね?」
「まあ、それはそうだけど。靴ヒモを結ぶだけじゃ気付かないよ」
俺がそう言うと彼女は俺の顔を見た。
「だから屋上に来てくれなかったんですね?」
「屋上?」
「あなたが屋上に来てって手紙をくれたので屋上でずっと待っていましたが、あなたは来ませんでしたよ?」
「俺も待ってたけど君は来なかったよ?」
「えっ、手紙を置いたのは避難訓練があった日ですよね?」
「違うよ。避難訓練があった日の前の日だよ?」
「私が手紙に気付くのが遅かったんですね」
「そうみたいだね」
「でも、靴箱の奥の壁にくっついていたので、よく見なければ気付きませんよ?」
「俺は靴の上に置いたんだけどな?」
「私達はすれ違いだったんですね」
すれ違いになった俺達だったけど、やっと出会えたんだ。
これは運命なんだって思う。
靴ヒモが出会わせてくれた。
「俺の靴ヒモをいつから結びたいと思ったのか聞いてもいい?」
「いいですよ。それは、あなたが駅のホームで迷子になってる女の子を慰めている時です」
「そう言えば、そんなことがあったね」
「あなたは靴ヒモがほどけている女の子の靴ヒモを一生懸命に結んでいたんですけど結べなくて、それを見ていた近くの女性が代わりに結んでいたんです」
「あの時は助かったよ。何度やってもダメだったからね」
「だから私は決めたんです。あなたが靴ヒモを結べなくて困っていたら結んであげようって。優しいあなたに私が優しさを分けてあげようって」
彼女は微笑んだ。
可愛い美少女の彼女。
俺はもう、彼女の虜だ。
「これからも靴ヒモを結んでくれる?」
「はい!」
「俺も結び方を覚えるけど蝶結びだけにするよ」
「どうしてですか?」
「だって、そうすれば君はずっと、俺の靴ヒモを結ばなければいけないからね」
「蝶結びはすぐにほどけるからですね」
「そうだよ」
「私達もほどけないように手を繋いでくれますか?」
「いいよ」
「私達は蝶やリボンじゃなくて恋人繋ぎですね」
「そうだね」
俺達はもうほどけないと思う。
だって俺にとって彼女は必要だから。
彼女には色んなものを結んでもらうんだ。
ほどけることはないようにリボン結びで。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。
~次話予告~
居酒屋で一人で飲んでいた主人公の隣の部屋から女性の悲しむ声が聞こえた。そんな女性の部屋に男が絡んで女性が怯えていた。その女性を助けて何故か女性の偽物の婚約者となった。