【二十人目】 笑顔は心を表す一つの表現方法だと美少女が教えてくれた
俺の同級生には笑顔がとても可愛い美少女がいた。
彼女はとても綺麗に笑う。
目尻は下がり、口角は上がる。
誰が見ても楽しそうに笑う彼女。
しかし俺には、彼女が心から本当に笑っているようには見えなかった。
◇
俺は放課後、忘れ物を取る為に教室のドアを開けようとした時、教室から誰かの声が聞こえて手を止めた。
誰かがいるみたいだ。
しかし、忘れ物を取るだけだと思いドアを開けた。
「えっ、びっくりした」
教室にいた相手は、笑顔がとても可愛い美少女だった。
「あの、忘れ物を取りにきました。すぐに帰りますので」
「ちょっと、何で敬語を使うの? 私はあなたの同級生よ?」
「君とは話をしたことがないからね」
「そうね。それに同じクラスにもなったことはないよね?」
そう。
俺と彼女には何一つとして接点がない。
彼女とはクラスも違うのに、彼女は俺のクラスにいて、しかも窓側の俺の席に座っている。
「えっと、君の座っている席の机の中に、俺の忘れ物があるんだけど、取ってもいいかな?」
「えっ、ここってあなたの席なの?」
「うん」
「そうなの? 勝手に座ってごめんね」
彼女はそう言うと椅子から立ち上がる。
「座ってていいよ。この席だとよく見えるよね?」
「えっ、知ってるの?」
俺の言葉に彼女が驚いている。
「知ってるよ。他の場所から見てたけど、この場所が一番綺麗に見えるって気付いたんだ」
「えっ、私も他の場所で見てたけど、この場所が一番綺麗だってやっと見つけたのよ」
「綺麗だよね山に隠れて欠けていく夕日が」
「うん」
俺と彼女が見つけたのは、一番綺麗に見える夕日なんだ。
丸い夕日が山をオレンジ色に染めていく。
山に隠れ欠けていき夕日がなくなると、さっきまで眩しかった世界はなくなり、一気に暗闇が訪れる。
全く違う世界を見られるこの場所は、俺にとって最高の場所なんだ。
それほど綺麗な景色なんだ。
「もうすぐだね」
「うん」
俺が彼女に、もうすぐ綺麗な夕日が欠けていく瞬間がくることを伝えると、彼女は夕日の方を見ながら小さくうなずいた。
彼女の顔はいつもの目尻は下がり、口角は上がるような笑顔はない。
寂しそうにただ夕日を見つめていた。
俺はそんな彼女の横顔に見惚れてしまった。
「君は椅子に座って見なよ。座った方が丁度良い位置なんだよ?」
「そうなの? それならあなたが座ってよ。あなたの席なのよ?」
「俺はこの位置でもいいよ」
「ダメよ。この景色を私が一人占めなんて、できないよ」
「いつもは一人でしょう?」
「でも今はあなたがいるでしょう?」
「それなら君の隣に椅子を持ってくるよ」
俺はそう言って、隣の席の椅子を取ろうと手を伸ばした。
「待って、隣じゃダメよ。この席がいいのよ。だから私と一緒にこの椅子に座ろうよ」
彼女は俺の腕を掴んでそう言った。
彼女と一緒に座る?
椅子は一つなのに?
彼女は椅子に座り、椅子の半分に座れと言うように椅子の半分を叩いている。
俺は仕方なく座る。
「狭い」
「仕方ないよ。もっとこっちにおいでよ。この綺麗な夕日を見るためには我慢よ」
彼女はそう言いながら俺の腕を引っ張る。
彼女との距離は、ほぼゼロだ。
「あっ、夕日が欠けてきたよ。綺麗だね」
「うん」
彼女は夕日を見ながら俺に言った。
俺は夕日より彼女が気になった。
だって彼女は泣いていたから。
夕日に輝く綺麗な涙は止まらないようだ。
俺は静かに彼女の涙を親指で拭った。
「えっ」
彼女は驚いて俺を見る。
俺達の距離はほぼゼロだったから、彼女の顔がすごく近い。
俺はまだ夕日が出ていて良かったと思った。
だって俺の顔を夕日が照らしているから、赤い顔も隠せているはずだから。
「ごめんね。今日は泣かないって決めたのに」
「えっ、何かあったの?」
「うん。一ヶ月前に、私の大好きな飼い犬が亡くなったの」
「そうだったんだね」
「ココって言うの。ココは私と一緒に成長して姉妹のように育ったの」
「本当に仲が良かったんだね?」
「うん。ココが亡くなった日、私はこの場所でこの夕日を見ていたの。家へ帰るとココは亡くなってたわ」
「最後に会えなかったんだね?」
「そうなの。でもお母さんから最後のココの行動を聞いて、涙が止まらなかったの」
「最後の行動?」
「うん。ココの最後の行動は、もう歩く力さえなかったのに窓際まで行って、夕日を見て眠るように亡くなったんだって」
「君と同じ夕日を見ていたんだね?」
俺がそう言うと彼女は夕日を見た。
「そうなんだ。だから来れる時は毎日この場所に来て、ココが最後に見たこの夕日を見るの。そうすればまたココに会えそうで」
「ココが羨ましいよ」
「えっ」
彼女は振り返って俺を見た。
「だってこの夕日を見る度に君は、ココを思い出すんでしょう?」
「そうね。そして涙が止まらないの」
「君はココを忘れないんだよ。これから先も、夕日は失くならないからね」
「失くなるよ。この場所で見られるのは後、少しでしょう?」
彼女は寂しそうな顔をして俺に言った。
「卒業してもこの場所で見られなくても、夕日があれば忘れないと思うよ。どこから見ても夕日は同じでしょう? ココが最後に見た夕日も、君があの日見た夕日も同じなんだよ」
「そうだね。夕日の中にココがいるみたい。私に遊ぼうって言うように尻尾を振ってるの」
「ココが羨ましいよ」
「ココのことは、絶対に忘れないわ」
彼女はいつものように、目尻を下げ口角を上げて笑っている。
そして涙は止まっている。
「俺も君に忘れてほしくないよ」
「忘れないよ」
「えっ」
「あなたのこともココのことも忘れないよ」
「本当?」
「うん。私は今日のことは絶対に忘れないよ」
「忘れないってそういう意味なんだね」
「ふふっ。冗談だよ」
彼女が口に手を当てて小さく笑った。
「冗談?」
「うん。あなたのこともずっと忘れないよ」
彼女はいつものように、目尻を下げ口角を上げて笑っているが、俺には何かいつもと違う感じがした。
彼女の優しい眼差しが俺をそう思わせた。
「君の笑顔は本当に綺麗だよ」
「ねぇ、気付いてる? こんな笑顔になるのはあなただけだよ」
「うん。だって俺の好きな夕日よりも、君の笑顔を見ていたいって思っているからね」
「嬉しい」
彼女は照れたように笑った。
彼女の顔は夕日で赤いのか、照れて赤いのか分からなかった。
◇◇
春の季節になり俺達の卒業式がやってきた。
「この場所で見る夕日は最後だね?」
彼女が夕日を見ながら言った。
「うん」
「あなたと見るのも最後だね?」
「うん」
「あなたとも最後なの?」
「うん」
「えっ」
彼女は驚いて俺を見る。
「どうしたの?」
「どうしたのって、あなたが私と最後だって言ったからよ」
「えっ、そんなこと言った?」
「言ったよ。私が最後だねって言ったら、うんって言ったわよ?」
「ごめん。君の話を聞いていなかったよ」
「もう!」
彼女は頬を膨らまして怒っている。
本当に彼女の話を聞いていなかった。
この場所で見る最後の彼女を覚えておきたくて、俺は夕日なんて見てなくて、彼女をずっと見ていた。
「君を忘れたくなくて、君の話も聞こえないくらい君を見ていたんだ」
「私を?」
「そう。全てが最後だからね。君の制服姿も、君のこの場所で夕日に照らされる可愛い笑顔も、そして君がこの場所で照れて赤くなる顔も」
「私達はどうなるの?」
「俺は君の隣で二人の好きな夕日を見ていたいよ」
「私もあなたと同じよ」
「俺と死ぬまで一緒にいてくれる?」
「はい。喜んで」
「死ぬまでってプロポーズみたいだね?」
「違うの?」
「えっ」
彼女はいつものように俺だけに見せる、目尻を下げ口角を上げて優しい眼差しで笑った。
そんな彼女の笑顔を見て俺も笑った。
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次のお話は、大きな彼が小さな幼馴染みの彼女に守られて過ごしている物語です。
昔は大きい者が、小さい者を守るのが当たり前だった二人なのに。