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恋愛小説短編集~ハッピーエンドストーリー~ - 【三十八人目】 偽物の婚約者~俺が彼女の婚約者になったのはお隣だったから~
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【三十八人目】 偽物の婚約者~俺が彼女の婚約者になったのはお隣だったから~

 彼女の印象はそれはそれは変な人。

 それだけだった。

 見た目は可愛いよ。


 目がパッチリ二重で、睫毛は長く、唇は真っ赤でプルプルしているように見える。

 身長は普通の女性よりは低いかな?


 ショートカットがとても似合う。

 幼く見える顔は童顔だ。

 それでも彼女は三十歳だ。


 何故、彼女は変な人なのか?

 何故、年齢を知っているのか?


 それは彼女との出会い方が普通と違ったから。

 彼女との出会いの話をしよう。



 俺は久しぶりの休日に、家でゆっくりと寝ていた。

 朝は七時に起きるのがいつもだが、今日は休み。

 昼頃まで寝ているはずだった。


『ピンポーン』


 ん?

 インターホン?

 鳴ったか?


『ピンポーン』


 やっぱり鳴っていたか。

 せっかくの休みに、何で起こされるんだよ。

 なん時だよ。


 時計を見るとまだ七時にもなっていない。

 いつもより早いじゃん。


 それでもインターホンは鳴り続ける。

 うるさいなあ。

 俺はイライラしながら玄関のドアを開けた。


「遅いよ。もう時間がないの」

「えっと、誰?」


 本当に誰か分からない。

 彼女は俺に、知り合いかのように話しかけているが、俺は全く知らない。


「あっ、時間がないので簡単に言いますね。私は隣の者です。あなたに婚約者になってもらいたくて来ました」

「えっ、簡単に話してくれてありがとうございます」


 俺は彼女にお礼を言って考える。

 彼女は隣の人で俺に婚約者になって欲しいって?


 えっ。

 今、会ったばかりの人に、婚約者になってくれとプロポーズされたのか?


「早く準備してよ。行くよ」

「えっと、何処へ?」

「いいから急いで」


 俺は彼女の迫力に負け、彼女に言われるがまま、急ぎ着替えた。

 俺が家の鍵を閉めたら、彼女は俺の手を握り走り出した。


 えっ走るの?

 走るのは久し振り過ぎて、すぐにバテるかもしれない。

 そう思ったけれど先にバテたのは彼女だった。


「まっ待って。疲れた」

「えっ疲れたって、まだマンションから出た所だけど?」

「無理。走れない」

「俺はいいけど、何か急いでたんじゃないの?」

「そうだけど」


 彼女はゆっくり歩いている。


「まずは、何故俺が君の婚約者にならないといけないのか聞きたいけど、それよりも君の急いでいることを解決させようか?」

「えっいいの?」

「困っている人を見捨てることは、俺にはできないからね」

「九時に空港に行かなきゃいけないの。彼が待っているから」

「あと一時間半くらいなら、なんとか間に合うかもしれないね」

「えっ」

「俺の車で行こう」

「えっ車を持っているの?」

「うん。車がなければ困る時があるからね」

「それなら車に乗せて。急ごう」


 そして俺と彼女は俺の車に乗った。

 彼女は当たり前のように助手席に座った。

 助手席に女の子を乗せるのは彼女が初めてだった。


「それで? どうして俺が君の婚約者になる訳?」


 俺は運転をしながら彼女と話す。


「私には小さい頃から、仲の良い近所のお兄ちゃんがいるんだけど、お兄ちゃんは、私が結婚しないなら結婚しないって言っているの」

「そのお兄さんは、婚約者がいるってことでいいのかな?」

「そうだよ。お兄ちゃんのその婚約者が、今日の九時の飛行機で、外国に行っちゃうの」

「それで君は嘘でもいいから婚約者を連れて、結婚の報告をして、お兄さんを結婚させようとしているってことだね?」

「そうなの」

「でも、どうしてそこまでお兄さんの為にするの?」


「それはお兄ちゃんは私の光だからだよ」


 彼女はどこか切なそうにしながら言った。


「光?」

「そうだよ。お兄ちゃんのお陰で私は今の私がいるの」

「そうなんだね。憧れ? それとも恋?」

「私がお兄ちゃんに恋をしているなんて、ありえないよ」

「どうして?」

「お兄ちゃんにとって私は、妹みたいな存在だからだよ」


「あっ、信号が赤になるから、ちょっと急ブレーキになるかも」


 俺がそう言うと、彼女の体が急ブレーキで前に傾く。

 彼女の体を押さえるように、俺は彼女の前に手を差し出す。

 少し彼女の肩に触れた。


「ごめん。大丈夫?」

「うん」

「そっか。お兄さんは君を妹として見ているんだね?」

「えっ、あっ、そうだよ」

「君はどうなの?」

「私? 私もお兄ちゃんだと思っているよ」

「そっか」


 俺には分からない、二人の絆ができているのかな?

 彼女とお兄さんが、くっついてもおかしくない感じがする二人なのに。


「そういえば婚約者なら、お互いのことを知っておかないといけないよね?」

「まあ、そうだろうね」

「あなたの歳はいくつなの?」

「俺はもうすぐ三十三歳になる。君は俺よりもっと若いだろう?」

「そんなことはないよ。この前の誕生日で、あなたと同じ三十代に入ったのよ」

「嘘だろう? 君はまだ大学生かなあって思っていたよ」

「お兄ちゃんにもよく言われるの。君はいつまで経っても幼く見えて、心配で仕方ないってね」


 彼女は困った顔で俺に言った。

 彼女は幼く見えるのが嫌なのかもしれない。


「もうすぐ着くよ」

「うん。お兄ちゃんに何処にいるか聞くね」

「分かったよ」


 そして彼女は電話をかけた。


「お兄ちゃん? 何処にいるの?」

「来なくていいって言ったじゃん」


 彼女の電話から声が漏れて聞こえる。

 聞きたくなくても耳に入ってくる。


「お兄ちゃんの彼女が遠くに行くのに、私が見送らないのはダメよ」

「お前には関係ないだろう?」

「あるもん。お兄ちゃんの大切な人は、私の大切な人なんだからね」

「分かったよ。ロビー付近で待っているから、そこに来いよ」


 そして俺達は空港のロビーへ向かった。


「お兄ちゃん」


 彼女がそう呼んだ相手は、俺の友達だった。


「なっ何でお前が? あっ彼女さんお久しぶりです」


 俺は友達にそう言って、友達の恋人に挨拶をした。

 友達の恋人には何度か会っている。


「それで? 何でお前がこいつと一緒にいるんだよ?」


 友達は疑いの目で俺を見ている。

 友達は俺に、彼女なんていないことは知っているからだ。


「えっと、さっきできた婚約者?」


 俺は目を逸らしながら言った。

 バレバレの嘘だな。


「いつも言っているだろう? 人に迷惑をかけるなって」


 友達が彼女に向かって、説教をしている。


「だって、お兄ちゃんが彼女と結婚をしないからよ」

「おいっ、それを今、言うなよな」


 友達は焦っている。

 まあ、そうだろう。

 結婚してもいい年なのに、結婚の話が出ないのは、恋人としておかしい話だ。


 そんなの恋人も気付いているはず。

 それを隠そうとする友達はバカなのか?


「なあ、もういいんじゃん。彼女は俺がちゃんと面倒みるからさ、お前は結婚すればいいじゃん?」

「えっ」


 俺は彼女の腕を引き寄せ、後ろから抱き締め友達に言った。

 そんな彼女は驚いて俺の腕の中で固まった。


「お前ならこいつを預けられるかもな。昔みたいに」

「どういうことだよ、昔って?」

「それは、俺達が高校生の頃に、俺とこいつが喧嘩した時に、お前はこいつを家まで送り届けてくれたじゃん」

「あの子はまだ中学生の女の子だったはず」


「あれから何年が経っていると思ってるんだよ?」


 友達は呆れ顔で言う。

 彼女は俺の腕の中でまだ固まっている。

 もう、離れてやろう。

 周りの目もあるし。


「俺は君をちゃんと守るから」


 俺は彼女だけに聞こえるように言って、彼女を俺の腕から解放した。


「お兄ちゃん」

「なっ何だよ。大きい声で呼ばなくても、聞こえるよ」

「私には彼がいるから大丈夫だよ。もう昔の私じゃないから、お兄ちゃんは結婚してよ。彼女さん、お兄ちゃんを宜しくお願いします」


 彼女はそう言って頭を下げた。


「お前がそんな事を言うなんてな。もう、子供じゃないんだよな?」

「そうだよ。私はもう三十歳だよ?」

「幸せにしてもらえよ」

「お兄ちゃんもね」


 その後、友達は俺に小さな声で、あいつを泣かせたら友達でも許さないって言われた。

 それに俺は分かっているって返した。


 そして友達は、恋人にプロポーズをしていた。

 友達の恋人は嬉しそうに泣きながら、うなずいていた。


 そして俺達は家へと帰る為に、また車に乗る。


「プロポーズがとっても良かったね?」

「俺もあんな風にプロポーズをしようか?」

「私達はまだ付き合ってもいないのに、もうプロポーズの話なの?」

「えっ俺は君の婚約者だろう?」

「えっ」


 彼女は驚いて俺を見る。


「嘘だよ」

「えっ嘘なの?」


 彼女は残念そうに言った。

 車が赤信号で止まる。

 そこで俺はすぐに彼女を見る。


「何? 結婚をしたくなったのか?」

「えっ」

「俺は君と結婚をしたいよ。君は?」

「私も結婚をしたいよ。いつかはね」


 彼女の言葉を聞いて俺は彼女にキスをした。

 彼女は驚いていたけど嫌がらない。

 すぐに唇を離して、信号が青になったから車を走らせる。


 彼女は顔を真っ赤にして、うつむいていた。


 そんな可愛い彼女が奥さんになるのは、まだ少し先の話。

読んでいただき誠に、ありがとうございます。

次のお話は、クマのぬいぐるみが好きな幼馴染みと、クマのぬいぐるみを見つけると、何故か彼女の為に買ってしまう主人公の物語。

彼女がぬいぐるみを失くしたから、また買ってあげると言っているのに、彼女は失くしたぬいぐるみを諦めないで探している。

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