【三十九人目】 ぬいぐるみが好きな幼馴染みが、ぬいぐるみを失くしたから、俺は新しい物を買ってあげると言ったのに、彼女はいらないと言った
俺の幼馴染みはぬいぐるみが好きだ。
だから俺は彼女が好きな、クマのぬいぐるみを見ると買いたくなる。
今日は映画館で、青色のクマのぬいぐるみのキーホルダーを見つけたから、彼女の為に買った。
「あっこれ昨日、映画館で見つけたから買ってきたんだ」
俺は昨日買った、青色のクマのぬいぐるみのキーホルダーを、一緒に学校へ行く彼女に渡す。
「可愛い。青色のクマさんだぁ。ありがとう」
彼女は嬉しそうに笑った。
そして自分のバッグにつけていた。
「ここにつければいつも一緒だね」
彼女は本当に嬉しそうに笑っている。
彼女の笑顔が俺は好きだ。
だから俺は彼女にぬいぐるみを買うんだ。
「良かったな」
俺は彼女にそう言って頭を撫でた。
彼女は頭を撫でられても嫌がらず、またクマさんが増えたと嬉しそうに!クマのぬいぐるみを見ていた。
それから、映画館での話をしながら彼女と学校へ行く。
◇
「なあ、聞いたか?」
ある日の昼休みに俺は、友達に話しかけられた。
「何を?」
「お前の幼馴染みだよ」
「彼女が何?」
「また男をフッたんだってよ」
「また彼女に挑んだ奴がいるのか?」
「仕方ないさあ、彼女は可愛いから」
「そうだよな」
俺の幼馴染みは可愛い。
この学校では有名だ。
しかし彼女が有名なのは可愛いだけじゃない。
彼女にはもう一つ有名になる原因がある。
それは彼女に告白した人は全員フラれるんだ。
そのフラれる理由が有名になった原因だ。
彼女は告白された相手に言うんだ。
あなたは私のクマさんじゃないって。
クマが好きなのは分かるが、クマみたいな人が好きってなんだよ。
クマみたいな体型がいいのか?
クマみたいな体毛がある人がいいのか?
なんだよ。
クマみたいな人って。
◇◇
「なあ、クマみたいな人ってどんな人だよ?」
「何よいきなり」
俺は彼女と下校中に、気になっていたことを彼女に聞いた。
彼女は不思議そうに首を傾げて言った。
「いいから。どんな人?」
「そうね。体が大きい人かな?」
「そんなのいっぱいいるじゃん」
「私はクマさんは好きだけど、クマさんみたいな人が好きな訳じゃないよ?」
「えっ、でも君は告白されたら、いつもクマじゃないから断るんだろう?」
「うん。そうだけど、クマさんみたいな人が好きな訳じゃないの」
「じゃあどんな人だよ?」
「ん? それは……」
彼女はそう言いながら、自分のバッグを穴が開くほど見ている。
バッグの中を確認したり、またバッグの外側を見ている。
「どうしたんだよ?」
「失いの」
「何が?」
「クマさんよ。青色のクマさんよ」
彼女は泣きそうな顔で俺に言う。
「クマくらい、また買ってやるよ」
「ダメ。あのクマさんの代わりはいないの」
「映画館に行けば沢山あるよ」
「ダメ。あの子はあの子だけなの。あなたが買ってきてくれたんだから」
「だから俺がまた買ってやるよ」
「もう、分からないならいいよ。私、学校に戻るよ」
「えっ明日でいいじゃん」
「あの子がいなきゃダメなの。みんなが悲しむの」
そして彼女は下を見ながら走って学校へ戻る。
仕方がない。
俺も探すか。
俺も彼女を追いかけた。
学校までの道には落ちていなかった。
残りは学校だ。
彼女の今日の行動範囲を探す。
理科室。
彼女の教室。
体育館。
音楽室。
最後に図書室。
「あったよ」
「何処にだよ?」
「机の下よ」
「良かったな」
「うん」
彼女は、いつものように嬉しそうに笑っている。
そして家へと帰る。
「そういえば、俺があげたクマって同じのあげたりしていないよね?」
「デザインは同じでも一つも同じ物はないよ」
「デザインが同じって同じ物じゃん」
「私には違うの」
「何がだよ?」
「私の家に来れば分かるわ。全部が違うっていう意味を教えてあげるわ」
そして俺は彼女の部屋に入る。
彼女の部屋には沢山クマがいた。
「あっ、同じクマいるじゃん」
俺は、ピンク色の左の耳の前に、白い花飾りをつけているクマを両手に取る。
「あなたには同じかもしれないけれど、私には違うのよ」
彼女は俺の手からクマを取り上げ、説明をしてくれる。
「左のクマさんはストーンのクマさんで、右のクマさんは雑貨屋さんのクマさんだよ」
「ん? それって俺がそのクマを買った場所だよね?」
「うん、そうだよ。ストーンのクマさんは、あなたが私の誕生日に誕生石と一緒にくれた物よ」
「そうだったかな?」
「そうだよ。それに雑貨屋さんのクマさんは、あなたが商店街を歩いていた時に、雑貨屋さんで偶然見つけて、私の好きなピンク色を買ってきてくれた物よ」
「一つ一つ覚えているのか?」
「うん。だって嬉しいからね」
彼女は本当に嬉しそうに、クマを抱き締めている。
俺は色んなクマを見ていて、一つだけ気になるクマを見つけた。
「俺、こんなクマってあげたかな?」
そのクマは、どう見ても可愛いとは言えない顔をしている。
ボタンでできている目は左右の高さは違い、耳なんて長さが違う。
「ああ、これね」
彼女はそう言ってそのクマを持つ。
「よく見るとやっぱり売り物には見えないんだけど?」
「これは、あなたが最初にくれたクマさんだよ」
「俺が?」
「そうだよ。最初はとっても可愛くて綺麗な子だったんだけど、いつも私と一緒にいるこの子は、どんどんくたびれてきたの。だから私が縫ってあげて、こんなになっちゃったけど、この子が一番大好きよ」
「君が自分で縫ったから、他のクマよりも愛着があるんだね?」
「そうじゃないの」
彼女はクマを抱き締めながら俺を見上げた。
「それなら何?」
「この子は私が初めて好きになった子なの」
「初めて?」
「そうだよ。あなたが初めて私にくれたクマを、私は大好きになったの」
「俺があげたから、クマを好きになったのか?」
「うん。私の大好きな人がくれたから、私はクマさんを大好きになったの」
「えっ」
大好き?
俺を?
彼女が?
「私が好きなのは、クマさんみたいな人じゃなくて、クマさんをくれる人なの」
彼女は、とてもお世辞でも可愛いとは言えないクマを、抱き締めながら俺に言った。
「ねえ、そのクマを元の場所に置いてくれるかな?」
「えっ、どうして?」
「邪魔だからだよ」
「そんなヒドイことを言わないでよ。この子は、変な顔になっちゃってるかもしれないけど私には……」
俺は、彼女が話している途中でクマを取り上げ、元の場所に戻した後、彼女を抱き締めた。
「君を抱き締められないだろう? クマがいると」
「えっ」
彼女は驚いて固まっている。
そんな彼女をギュッと抱き締める。
彼女も俺の背中に腕を回して、抱き締めている。
「なあ、次はどんなクマがいいかな?」
「あなたがくれるクマさんなら何でもいいよ」
「それなら、好きっていうカードを持つクマにしようかな?」
「あなたの代わりに、想いを伝えてくれるクマさんね?」
「違うよ」
「違うの?」
「俺達の代わりに想いを伝えてくれるクマだよ」
「どういう意味なの?」
「俺と君の部屋に、同じクマを飾るんだ。俺が君に、君が俺に贈ってね」
「良いアイデアだね」
彼女は嬉しそうに笑った。
「君が大好きだよ」
「私もあなたが大好きよ」
それから俺の部屋には、好きというカードを持ったクマが、机の上にずっといる。
彼女の部屋にも沢山のクマの中に、好きというカードを持ったクマがいる。
そのクマの持っているカードの裏に、愛してるって書いてあるのを、彼女は気付いているのだろうか?
いつかそのカードを裏返して、プロポーズなんていいと思うんだ。
いつか彼女と一緒になる日を夢見て、今日も好きのカードを持ったクマは、俺の代わりに彼女に伝えている。
『好き』
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
楽しく読んで頂けると幸いです。
次のお話は、目立たない普通の主人公に、優しく笑いかけてくれる美少女は女神様。
彼に話しかけて笑いかけてくれる女神様に、彼の願いは一つ。