【九十一人目】 窓から見える幼馴染みはいつも頬を赤く染めてあいつと話をしている
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俺は知っている。
幼馴染みはあいつが好きだ。
あいつとは、この学校で一番イケメンと言われている俺の友達だ。
ほらっ。
またあいつと彼女は話をしている。
彼女は頬を赤く染めて。
俺はこの光景を遠くから見ている。
彼女とあいつは一階の教室で二人は同じクラスだ。
俺は三階であいつ達とは隣の棟の別のクラスだ。
彼女とあいつは窓際で二人で楽しく話をしている。
去年は三人が同じクラスだった。
今年は俺だけが別のクラスだ。
俺は窓側の席だから、あいつと彼女が話をしている様子が見える。
彼女はあいつに冗談でも言われたのかあいつの肩を叩く。
まるでじゃれている猫みたいな彼女。
俺にはあんな顔は見せないのに。
「あの二人ってお似合いだよね」
俺は隣の席から聞こえた声の相手を見る。
同じクラスの可愛いと有名な女子が隣に座っていた。
隣の席はその可愛い女子の席なんだ。
「それって美男美女って言ってる訳?」
「そうかもしれないけど顔じゃないわよ。二人の周りの空気って言うのかなぁ? 違和感がないのよ」
「あそこに俺がいたら邪魔だよな?」
「あなたはあの二人と仲が良かったわよね?」
「そう。それなのに今年はクラスが別々なんだ」
俺はそう言って隣の席の可愛い女子からあいつと彼女に目を向けた。
「寂しいの?」
「はあ? 俺は子供じゃないから、彼女を取られたって何とも思わないよ」
俺は隣の席の可愛い女子を見て言った。
「彼女を取られたって? 彼女はあなたのモノなの?」
「彼女は俺の幼馴染みなんだよ」
「幼馴染みの彼女が好きなのね?」
「君には関係ないよ」
「そんなことを言ってもいいの?」
「何で?」
「あなたが彼女と付き合えるように手伝おうと思ったのになぁ」
「そんなことをして君に何の得がある訳?」
「私は彼が好きなの」
隣の席の女子はそう言って俺の机の前に立ち、窓からあいつを見つめた。
「嘘だろう?」
「嘘なんて言わないわよ」
「俺達の目的は同じってことだよな?」
「そうだよ。だから私達もあの二人のように仲良くしようよ」
隣の席の女子はそう言ってウインクをした。
可愛い女子のウインクは当たり前のように可愛かった。
隣の席の女子は可愛いが俺が彼女に惚れることはない。
俺は幼馴染みの彼女以外、何とも思わないからだ。
◇
「お前、俺とクラスが違っても寂しくないみたいだな?」
放課後、部活の準備をしている時に学校一のイケメンのあいつに言われた。
「寂しいって何だよ? お前と離れたくらいで寂しいなんて思うかよ」
「俺は寂しいよ。彼女だって寂しいって言ってたんだからな」
「何が寂しいだよ? 二人で仲良く話をしているだろう?」
「仲が良いって、いつものことだろう?」
「お前はいつもと同じだと思っているのか?」
「お前だって可愛いって有名な女子と楽しそうに話をしていただろう?」
「彼女は、俺の隣の席なんだから話はするだろう?」
「俺も隣の席が彼女だから、俺もお前も同じじゃん」
同じな訳がない。
だってお前達と違って、俺と隣の席の可愛い女子は仲良くするフリなんだからな。
「あっ、やっと見つけたよ」
俺の後ろから聞こえた声に俺は反応をして振り向く。
幼馴染みだ。
「どうしたんだよ?」
あいつが彼女に近付いて言う。
「今日はみんなで一緒に帰れる?」
「俺はちょっと用事があるからパスだな」
「そうなの?」
あいつが言って彼女は落ち込んでいる。
どれだけ好きなんだよ。
バレバレじゃん。
「今日は二人ね」
彼女は俺に向かってニコニコしながら言った。
「俺はまだ何も言ってないんだけど?」
「私を一人で帰らせるの?」
彼女は頬を膨らまして言った。
「まぁ、俺は何も用事はないからいいけどな」
「決まりね。部活が終わったら正門に集合ね」
「あぁ」
彼女は笑って言った。
その顔が好きなんだ。
その笑顔は俺にしか見せない。
心から嬉しそうな笑顔だ。
◇
「ごめん、遅くなった」
部活が少し長引いた。
彼女は俺を見つけて嬉しそうに笑った。
「もう、遅いよ」
彼女はそう言って拗ねている。
そんな彼女も可愛い。
「今日は何がいいんだよ?」
「それなら甘いもの」
「分かったよ、いつもの所だよな?」
「うん」
彼女が拗ねると俺は彼女の食べたい物を訊く。
何故かというと、それを食べると彼女の機嫌は良くなるからだ。
いつもの人気のクレープ屋でクレープを買って俺の家へ向かう。
俺の家の隣に住んでいる彼女の親と俺の親は、仕事が忙しく子供だけになる為、昔から俺の家で二人で夜ご飯を食べる。
今日も彼女は俺の家で夜ご飯を食べるんだ。
「ただいま」
彼女は俺の家に帰ると必ずただいまと言う。
まるで自分の家のように。
「おかえり」
そんな彼女に俺はそう返す。
それがいつものことで自然に言葉がでてくる。
彼女は嬉しそうに笑ってリビングへと向かう。
「今日は昨日、下準備をしておいたハンバーグを焼くよ」
「さっき、君が家に帰ったのはハンバーグを取りに行っていたからなのか?」
「そうだよ。焼くだけだからすぐにできるよ」
そして彼女は手際よくハンバーグを作る。
サラダを作る為にキャベツを切っている彼女。
俺はソファで彼女をチラチラと見ながらテレビを見ていた。
「いたっ」
「どうしたんだ?」
彼女の痛がる声に俺は急いで彼女に近付く。
彼女は指を包丁で切ったのか少し血が出ていた。
彼女の綺麗な白くて細い指に傷がついた。
「サラダは俺が作るから君はハンバーグを作ってよ」
「でもあなたがキャベツを切るの?」
「できると思う。いつも君を見ているから」
「えっ」
「あっ、いやっ、違うんだ。君の包丁の使い方を見ているっていう意味だよ」
「あっ、うん」
あれ?
何か少し落ち込んだ?
気のせいだよな?
彼女はハンバーグを焼いて、俺は慣れない包丁でキャベツを細く切った。
やっとできた料理を机の上に置いて、彼女と向かい合って椅子に座る。
「あなたが切ったキャベツの大きさはバラバラね」
「同じ形がないのはいいことだろう? 飽きないし」
「そうね、とても美味しいよ」
彼女は笑顔で美味しいと言ってくれた。
ただ野菜を切っただけで美味しいと言われ、嬉しいなんて初めて知った。
これから彼女にご飯を作ってもらったら、必ず美味しいと言うようにしようと思った。
ご飯を食べたらデザートと言って、彼女はクレープを冷蔵庫から持ってきた。
一つを俺に渡して彼女は嬉しそうにクレープを見ている。
どこから食べようか迷っているようだ。
「美味しい」
彼女はクレープを食べて幸せそうに笑って言った。
俺まで幸せになれそうな彼女の笑顔は、誰が見ても可愛いと思うほどの可愛さだ。
「ところで、何で指なんて切ったんだよ? 君が包丁で指を切るなんて初めてじゃん」
「ん? ちょっとだけ考え事をしていたのよ」
「料理のこと?」
「違うよ」
「クレープのこと?」
「違うよ。あなたにとって私は、食べ物のことしか考えていない幼馴染みなの?」
「違うよ。それならあいつのこと?」
「あいつ?」
彼女は俺の言っているあいつが誰なのか分からないようだ。
「いつも教室の窓の側で二人で話をしている相手だよ」
「彼も違うよ」
「えっ、でも君はあいつが、、、」
あいつが好きだって言おうとしてやめた。
だって彼女がいつものように頬を赤く染めていたから。
言わなくても分かっている。
言う必要なんてないんだ。
「あいつが何?」
「なんでもないよ」
「彼は友達よ。いっつも私をからかうの」
彼女は思い出したのかクスクスと笑っている。
何故かムカつく。
「食べたら帰れよ。俺は疲れたから早く寝るよ」
「えっ、うん」
彼女はクレープを頬張りながら食べている。
俺より食べるのが遅い彼女。
切った指を使わないようにクレープを食べていて、それも遅い原因だ。
俺は彼女に絆創膏を渡した。
「猫ちゃんの絆創膏だ可愛い。ありがとう」
彼女はそう言って傷に貼ろうとしていたが、片手ではできないようだから俺がつけてあげた。
そして彼女は後片付けをして、帰っていった。
◇
次の日、窓から見える彼女の指の傷に絆創膏はなかった。
深く切れていた傷だから、すぐには治らないはずだ。
俺は急いで彼女のクラスへ向かおうとした。
「二人の邪魔をしにいくの?」
「そうだよ」
隣の席の可愛い女子に訊かれ、そうだと答えた。
だって俺があの二人の所へ行けば邪魔なのは分かっているからだ。
俺は二人のクラスにつき、ドアから彼女を呼んだ。
彼女は駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「君にあげたい物があるんだ」
「何?」
「これだよ」
俺はそう言って彼女に昨日の絆創膏を渡した。
「ありがとう。新しい絆創膏が家になかったのよ。今日の帰りに買おうと思っていたけど、箱ごとくれるなら買わなくても済むわね」
「君が気に入っていたから、あげようと持ってきていたんだ。貼ってあげようか?」
「ありがとう、貼ってくれるの?」
彼女はそう言って絆創膏の猫の柄を選んでいる。
そして選んだ猫の柄を俺に渡してきた。
俺は絆創膏を受け取り貼ろうとして手を止めた。
だって俺が貼っていいのか考えてしまった。
彼女の好きな人はあいつなのに。
「俺じゃなくてあいつに貼ってもらったら?」
「あいつ?」
「ほらっ、あいつだよ」
俺はそう言ってあいつに目を向ける。
「あなたがいいの」
彼女はそう言って、絆創膏を持っている俺の手に手を重ねて俺を見つめた。
何で俺に触れるんだ?
まるでお願いされている感覚になった。
「できたよ」
「ありがとう」
彼女はそう言って嬉しそうに絆創膏の柄の猫を見ていた。
そんなに猫が好きなのか?
あげて良かったよ。
「そんなに嬉しかったのか?」
「当たり前よ。あなたが貼ってくれたのよ?」
俺が貼った?
猫の絆創膏が嬉しかったんじゃなくて、俺が貼ったのが嬉しいのか?
どういう意味だよ?
「何やってんだよ」
イケメンのあいつが俺達の所にやってきた。
「あっ、見てよ。可愛いでしょう?」
「君は猫が好きだったよね? 良かったじゃん」
「うん」
彼女はまた頬を赤く染めて笑っている。
俺に向けてじゃなくてあいつに向けて。
やっぱり、俺は邪魔者なんだな。
俺は自分の教室に帰ると言って、その場から急いで離れた。
邪魔者だと分かっているはずなのに、やはり少し傷付く。
「邪魔者扱いされちゃったの?」
教室へ戻ると、俺の顔を見て隣の席の可愛い女子が声を掛けてきた。
「なんか傷付いた。俺って彼女の何なんだろうって思ったよ」
「あなたは彼女の何だと思っているの?」
「俺と彼女は幼馴染みってだけだと思うんだ」
「確かめてみる?」
「どうやって?」
「これよ」
隣の席の女子はそう言って国語の教科書を出した。
「今日はあの二人、日直みたいだから放課後は二人で教室にいると思うの」
「なんでそんなことを知ってんだよ?」
「それは、私もあなたに協力してあげているからよ」
「自分の為だろう?」
「二人の為よ。それで、二人はいつものように窓の近くで話をすると思うから、その時にこの教科書を使うのよ」
隣の席の女子はニヤリと笑った。
何を考えているんだよ。
結局、教科書の使い道は教えてくれなかった。
◇
放課後になり、教室には誰もいなくなった。
俺の机の前に椅子を置き、隣の席の女子は座った。
そしてチラチラとあいつと幼馴染みの様子を見ていた。
「いつ、教科書を使うんだよ?」
「ん? ちょっと待ってよ。あの二人の日直の仕事が終わったらね」
「そんなの分かるのか?」
「窓の近くで話をし始めたら終わったってことでしょう?」
「どれだけ適当なんだよ」
「いいの。あっ、ほらっ、窓の近くで話をし始めたよ」
隣の席の女子はそう言って国語の教科書を取り出した。
とうとう国語の教科書を使うみたいだ。
「いたっ。ねぇ、目に睫毛が入ってない?」
隣の席の女子がいきなりそう言ったから、俺は彼女の目を見る為に彼女に近付く。
すると隣の席の女子は、俺達の近付いた顔の横に教科書を立てた。
あいつと幼馴染みの二人からすれば、教科書のせいでキスをしているように見えるかもしれない。
これが狙いだったんだな?
「こんなことをして彼女が焦ると思う?」
「ん? 焦るわよ。彼もね」
「えっ」
「まあ、これから起きることを楽しみにしててよ」
楽しみ?
なんで?
何も起きないと思うんだけど?
「おいっ、何してんだよ」
教室にいきなり入ってきた相手に驚いて、俺達は離れる。
「何でお前が怒ってんだよ?」
そう。
イケメンのあいつが怒って教室に入ってきた。
その後ろからやっと追い付いたのか、幼馴染みが息をきらして教室に入ってきた。
「彼女よりあなたが怒っていいの? バレちゃうわよ?」
隣の席の可愛い女子が、何か含みのある言い方をあいつにした。
「あっ、、、それはどうでもいいんだ」
「それなら二人に私達のことを言ってよ」
「分かったよ。俺達は付き合っているんだ」
「「えっ」」
俺と幼馴染みは声を揃えて驚いた。
「ちょっと待ってくれ、だって君は俺と同じだろう?」
「同じよ。彼が好きなのよ、あなたもでしょう?」
俺が隣の席の女子に訊くと、当たり前のように言った。
「同じじゃないだろう? 君達は付き合っているんだから俺とは違うんだ。俺は片想いなんだから」
「違うよ」
俺の言葉に幼馴染みは反論した。
俺は驚き幼馴染みを見る。
「私達はお邪魔虫だから帰ろうか?」
「あっ、うん」
隣の席の可愛い女子とイケメンのあいつは教室から出ていった。
俺と彼女の二人になる。
「えっと、違うって何が?」
「片想いだよ」
「片想いじゃないなら何?」
「私もあなたもお互いに片想いをしていたのよ」
「君も?」
「そうだよ。でもねこれからは違うよ」
「違う?」
「だって両想いでしょう?」
彼女は首を傾げて俺に言った。
可愛い彼女。
「俺は君のことが大好きだよ」
「私もあなたが大好きよ」
彼女はそう言って、笑った。
あいつにいつも見せていた、あの頬を赤く染めた表情で。
「君はどうしてあいつの前で頬を赤くしていたの?」
「えっ、だって、彼ってば、私があなたのことを好きなのを知っててからかうからよ」
だからあいつの前で赤くなっていたのか。
紛らわしいな。
でも、あいつとあいつの恋人のお陰で、彼女と両想いになったんだ。
明日にでもお礼を言おう。
「ねぇ。さっき、教科書で隠していた時は、彼女と何をしていたの?」
「知りたい?」
「うん」
「じゃあ、さっき彼女が座っていた椅子に座ってよ」
「うん」
そして俺は彼女に手招きをして顔を近付けさせる。
すごく近い距離にドキドキする。
あいつの恋人とした時は何とも思わなかったのに。
彼女の顔が近付くと、二人の顔の横に教科書を立てる。
彼女は驚いて固まる。
「さっきはここで終わりだよ」
「こんなに近くで見つめ合っていたの?」
「さっきは見つめ合っていないよ。見つめ合うのは君だからだよ」
「なんだか恥ずかしい」
彼女はそう言って視線を下に向けた。
「これからは、見つめ合うことがたくさん増えるんだからちゃんと慣れてよ。ほらっ、こっちを向いて」
俺はそう言って彼女の顎に手を添え上を向かせる。
また彼女と見つめ合う。
「顔、真っ赤じゃん」
「もう、意地悪」
「でもそんな君も可愛いよ」
俺はそう言って彼女にキスをした。
誰にも見られていないと思う。
だって、国語の教科書が俺達を隠していたから。
「さあ、帰ろうか?」
「そうね」
俺達は手を繋いで歩く。
「今日の夜ご飯は何?」
「今日は唐揚げだよ。家に下準備をしているお肉があるの」
「それならサラダがいるじゃん」
「あなたがキャベツを切ってくれるの?」
「いいよ。この前のリベンジかな?」
「そんなに気にしなくても、あなたが作ったモノは何でも美味しいのよ?」
「君が作ったモノも何でも美味しいんだ。だからいつまでも俺とご飯を作ってくれないかな?」
「それってプロポーズみたいね」
「そうだね。でも、俺はまだ学生だけど、ちゃんと大人になったら君を奥さんにするよ。だからそれまで君の返事は聞かないよ」
「言わなくても分かるでしょう? 私達は幼馴染みだよ?」
「幼馴染みじゃないよ。今日から恋人だよ」
「そうね」
彼女はそう言って頬を赤く染めて笑った。
その顔を遠くの窓から見る訳じゃなくて、すぐ隣で見るんだ。
これかもずっと君の隣で。
読んでいただき誠にありがとうございます。
いつも読んでいただいている皆様に感謝しながら執筆しております。
ドキドキしながら読んでいただけると嬉しいです。
次のお話は、親が勝手に決めた婚約者に初めて会って、すぐに婚約はなかったことにしてもらおうとする主人公の物語。
しかし、婚約者である彼女は、一ヶ月だけ考える期間がほしいと言ってきた。
その一ヶ月は主人公にとって、大切な一ヶ月になる。