【九十人目】 星降る夜に俺は美少女の彼女を溺愛する。
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「今夜は星を見るでしょう?」
彼女は電話でそう言った。
彼女とは誰なのか。
俺もよく知らない。
彼女も俺のことをよく知らない。
俺達が出会ったのは満員電車の中だった。
彼女は満員電車で体調が悪そうだった。
俺が彼女のことを気にしていたら、彼女はいきなり後ろにいた俺に向かって倒れてきた。
俺はすぐに彼女を支え、駅に着くとベンチに寝かせた。
彼女の体は熱かったから風邪だと思う。
苦しそうにしている彼女が心配だったが俺も学校があるし、駅員さんもいるから状況を説明して、俺はまた電車に乗った。
電車に乗る前に、彼女のことが心配だから駅員さんに俺の電話番号を教えて、彼女が無事に帰ったのか電話してほしいと伝えた。
その日の夜に電話が来た。
駅員さんではなく彼女からだった。
「あの、助けていただきありがとうございます」
彼女の声は、元気そうに聞こえる。
「あっ、いえ、大丈夫でしたか?」
「はい。ただの風邪で、薬を飲んで寝たらすっかり元気です」
「良かったです。体調が悪い時は無理をしないで下さいね」
「はい。ところで今、空を見ることはできますか?」
「空ですか? ちょっと待って下さい」
俺はそう言って窓を開けて空を見る。
「今日は流星群が見えるんです。見えますか?」
「はい。とても綺麗ですね」
「ふふっ」
「どうして笑うんですか?」
「私に言っているように聞こえました」
「あっ」
俺は恥ずかしくなって顔が熱くなった。
「恥ずかしがらないで下さい。私は嬉しいんですよ。もっと聞きたいです」
「えっ」
「私にじゃないですよ。星に向かって言って下さい」
「綺麗です」
俺がそう言うと彼女は小さな声ではい、と言った。
これが彼女と初めて話をした電話だった。
彼女とはこれが最初で最後の電話だと思っていた。
それなのに彼女はまた電話をしてきた。
「あの、私です」
「はい。どうしました? 俺はまだ家へ帰る途中なんですが?」
「あっ、ごめんなさい。綺麗な虹が出ていたので、連絡をしてしまいました」
虹で電話?
そんなことで電話をするのか?
たった一度会って、たった一度電話で話をした相手に?
「虹? あっ、ありますね。くっきり綺麗に見えます」
「綺麗ですか?」
「えっ、もしかしてまた綺麗に反応したんですか?」
「あっ、すみません」
「いいですよ。言ってほしいなら言いますよ」
俺は何でそんなことを言ったのか分からない。
ただ、彼女が嬉しがっているのが俺も嬉しかったんだと思う。
「それじゃあ、可愛くて好きだよって言ってもらってもいいですか?」
「ちょっと待って。家に帰ってからでもいいかな?」
「はい。大丈夫です」
「それと敬語はなくていいよ。君も高校生でしょう?」
「はい。あっ、うん」
「もうすぐ家に着くから一回電話を切るよ?」
「どうして?」
「えっ、君は俺と話をしたい訳じゃないでしょう?」
「そんなことはないよ」
「そうなんだ。それなら電話を切らないで話そうか?」
「うん」
彼女は嬉しそうに言っている。
顔が見えないからなのか彼女とは話がしやすい。
電話が苦手な俺が彼女とは長電話になる。
彼女がほしい言葉を俺は言ってあげた。
彼女がどうしてそんな言葉を欲しがるのか。
それは彼女には好きな人がいるが、自信が持てず告白さえもできないからだ。
自信を持てるように俺に褒めてもらいたいそうだ。
俺の言葉が役に立つなら何度でも言おう。
可愛い。
綺麗だ。
好きだ。
愛してる。
電話の時だけ俺達は恋人になった感覚になる。
恋人というより、俺が彼女を溺愛しているように聞こえるかもしれない。
◇
「今夜は星を見るでしょう?」
「今夜? 何? 何かあったの?」
「彼に、お前はいい奴って言われたの」
「それの何が嫌なの?」
「だって、いい奴っていい友達ってことでしょう?」
「そうかな?」
「違うの?」
「それは好きな人に訊きなよ」
「無理よ」
「顔も知らない、どんな奴かも分からない俺には訊けるのに、好きな奴には訊けないの?」
「顔も知らないから訊けるのよ」
「それなら顔を知ったらどうする訳?」
「えっ」
彼女は考えているようだ。
「知らない」
「はあ?」
「その時に考えるわ」
「あっそう。ところで今夜は流星群なの?」
「違うよ。今日は月だよ。一番綺麗に見えるのが少し遅くて、夜中の十二時だけど大丈夫?」
「分かった。それならゲームをしながら待ってるよ」
「じゃあ、また後でね」
そして俺は十二時までゲームをしながら待った。
途中、何度か眠くなった。
そして少しだけ寝ようと目を閉じた。
電話の音で目が覚めた。
電話を見ると彼女からだった。
「はい」
「何回も電話したのよ?」
「ごめん、寝てた」
「寝るならメールしてよ」
「だからごめんって」
「心配したのよ。いつもちゃんと電話に出てくれるから、何かあったのかって思ったのよ?」
「これから気を付けるから」
「もう二度とこんなことがないようにしてよ」
「あぁ」
「本当に分かってるの?」
「うるさいなぁ。俺は君に付き合ってやってるんだよ」
「えっ」
イライラしすぎて言ってはいけないことを言ってしまった。
「あっ、いや、ごめん」
「そう、あなたは付き合ってくれていたんだね。嫌々だったのね。分かったわ。もう、いいよ」
彼女はそう言って電話を切った。
電話を仕返すこともできた。
そして謝ることもできた。
しかし、俺もイライラしていてそのまま寝てしまった。
◇
彼女とのケンカから一週間が経った。
彼女からの連絡はない。
まだ怒っているのだろうか?
もう少し、様子をみてみよう。
それから一週間が経った。
ケンカをして二週間だ。
彼女からこんなに長く連絡がないのは初めてだ。
俺は仕方なく電話をしてみた。
通じない。
電源が入っていないとガイダンスに言われる。
えっ、何で?
彼女との接点がなくなった。
顔も名前も知らない。
俺は彼女に嫌われたんだ。
彼女と電話をしていて楽しかったのに。
彼女に好きと言えるのが嬉しかったのに。
彼女を溺愛するのが好きだったのに。
俺は彼女が好きだったのに、、、。
空を見ると流れ星が一つ流れた。
流れ星っていつでも見えるんだなぁ。
それならどうして彼女は流星群の時に、俺に電話をしてきたんだ?
月が綺麗だったり、虹が出ているとか色んな理由をつけて俺に電話をしてきていた彼女。
何で?
確かめなくては。
でもどうすればいい?
俺は彼女と出会ったあの電車に乗る。
あの日は遅刻しそうで急いでいたんだ。
だからいつもと違う時間の電車に乗った。
俺は彼女がいないかキョロキョロしながら探す。
しかし俺はキョロキョロして気付いた。
彼女の顔を知らない。
あの日の彼女の顔を思い出そうとしても無理だ。
彼女のことを心配しすぎて顔を覚えていない。
彼女の特徴を思い出す。
長い黒いストレートの髪。
彼女を支えた時、フワッとシャンプーの良い香りがした。
制服を思い出せれば学校に行くのに。
校門の前で彼女が出てくるのを待つのに。
でも、校門の前で待っても顔も分からないなら見つからないかもしれない。
彼女の電話が繋がればいいのに。
あの時、電話をしていれば。
あの時、イライラしていなければ。
後悔しかない。
俺はバカだ。
どうして彼女のことをもっと知ろうとしなかったんだ?
今までの会話の中に何かヒントはないのか?
俺は今までの会話を思い出す。
◇
「今日はお月様がまん丸で大きいのよ」
「へぇ~。今日も見るの?」
「あなたも彼と同じね。私の話をへぇ~って言いながら聞いていて、近くの女子校の可愛い制服を着ている女の子を見ているのよ。でも今のあなたは、マンガ本でも見ているの?」
「何で分かるんだよ?」
「秘密」
彼女はこの後、マンガ本のページをめくる音がしたからと言っていた。
女子校が近くにある共学の学校は何処だ?
まだヒントが足りない。
彼女は他に何か言っていなかったかな?
「はい」
「あっ、私だけど今、大丈夫?」
「うん。どうした? 今日は月がなくて暗い夜みたいだけど?」
「そうなの。何か怖くなっちゃって」
「それなら俺じゃなくて好きな奴に電話をすればいいのに」
「だって、彼とはあなたみたいに話せないもの」
「そんなこと言っていたら、いつまで経っても告白できないよ?」
「うん。でも今日だけは許して」
「何かあったの?」
「何もないよ」
何もないようなテンションではない。
でも彼女が話をしたくないなら訊かない。
「何がほしいんだよ?」
「会いたいって言って」
「会いたい」
「うん」
それから彼女は少し黙った。
そんな沈黙も俺達の間では苦ではなかった。
「ありがとう。もうすぐ体育祭があるの」
「こんな時期に体育祭があるの?」
「そうなの。変な学校でしょう?」
「そうだな。でもどの学校とも重ならないからいいじゃん」
「そうね、あなたの体育祭を見に行けるかもね」
「俺も君の体育祭を見に行けるじゃん」
体育祭。
時期が他の学校とは違うんだ。
クラスの女子に聞いたら分かるかもしれない。
分かれば彼女に会える。
◇
クラスの女子に聞いて一つの高校が分かった。
俺はその高校の校門の前で彼女を待つ。
顔も分からないから声を頼りにする。
色んな所から女子の声がする。
甲高い声が色んな方向から聞こえる。
彼女の声を探すのは難しいのかもしれない。
彼女は見つからなかった。
次の日もその次の日も彼女は見つからない。
この学校で合っているのだろうか?
間違っているのかもしれない。
「あのっ」
俺は校門の前で彼女を待っていると、女子に話しかけられた。
「誰かを探しているんですか?」
「あっ、そうなんです。顔も名前も知らないけど声は分かるんです」
「声ですか? それは私には分からないですね」
「いいんです、自分で探しますから。ありがとうございます」
「友達とかに聞いてみますね」
「そんな、いいんですか?」
「あなたの気持ちは分かります。どうしても会いたいんですよね?」
「そうですね」
「私は帰りますね。また明日もここに来ますか?」
「はい」
「それではまた明日、お会いしましょう」
「そうですね」
今日も彼女には出会えなかった。
次の日、俺が校門へ行くと、昨日出会った女の子が待っていた。
「あっ、こんにちは」
よく見ると彼女はとても可愛い女の子だ。
モテると思う。
仕草も女の子らしく可愛い。
男に守ってあげたいと思わせる女の子だ。
「探している彼女に特徴はないんですか? 年齢とかも分からないんですか?」
「それがそんな話はしたことがなくて」
「そうなんですね。彼女の得意なこととか趣味とかも分からないですか?」
「ごめん。なにも分からないんです。自分で探すから君は帰っていいですよ」
「いいえ。私もあなたと一緒に探します」
それから女の子は俺から離れない。
俺は声しか知らない彼女を探したいのに。
女の子の大きな声で、他の人の話し声が聞こえない。
「ごめん。君の声で彼女の声が聞こえないかもしれないんだ。一緒に探してくれるなら少しだけ黙ってもらっていいかな?」
「えっ」
女の子は驚いている。
「私にすればいいでしょう?」
「えっ、何?」
「私の方が可愛いわよ。私と付き合えばいいじゃない?」
「俺は君を探しに来た訳じゃないからね」
「私より可愛い子なんていないわよ? 学校を間違っているのよ」
「そうかもしれないね。こんなに毎日来ているのに、彼女に会えないんだからね。他の学校を探してみるよ」
俺はそう言って歩き出す。
「待って」
「えっ」
俺は声がした方を向く。
そこには美女が立っていた。
長くて黒いストレートの髪。
俺は美女に近寄りシャンプーの香りを確認する。
初めて会った日の香りと一緒だった。
やっと会えた。
彼女だ。
「どうしてここにいるの?」
「君が電話に出てくれないからだよ」
「着信拒否よ」
「そうだと思ったよ」
「それならどうして私を探すの?」
「それは今夜、空を見ながら言いたいんだ」
「今日はちょうど流星群の日よ」
「何時がよく見えるの?」
「夜の九時よ」
「分かった。君を見つけたし、帰ろうかなあ」
「一緒に帰る?」
「君がいいならね」
それから俺達は一緒に帰った。
彼女の家は俺の家から案外、近かった。
九時に連絡すると言って彼女を家まで送り届けた。
夜九時に彼女に電話をした。
「はい」
「着信拒否はもう、していないみたいだね」
「だって、あなたの言葉を聞きたかったからね」
「すごく可愛いよ」
「えっ」
「何よりも綺麗だ」
「いつもと同じ言葉よ?」
「好きだよ」
「その言葉は何度聞いても照れちゃうよ」
「愛してる」
「私も愛してるよ」
「この流星群よりも君を愛してる」
「まっ、待ってよ。それは本当なの?」
彼女は少し疑いながら言っている。
彼女に伝わらないのならもう一度言おう。
「流星群を見てよ」
俺がそう言うと、彼女は窓から空を見上げている。
「俺は流星群より君を見たいんだ。可愛くて綺麗で大好きで愛している君を」
「えっ、両方の耳からあなたの声が聞こえるわ」
「下を見て」
「えっ」
彼女は下を見て驚いている。
だって俺がいるから。
「どうしてここに来たの?」
彼女は電話を切り、俺に叫んだ。
「君が俺に会いたくなるかなぁって思ってね」
「会いたいわ。ずっと会いたかったわ」
「おいで。君がほしい言葉を、俺が君に言ってあげるから」
「うん」
彼女は走りながら家から出てきた。
俺が手を広げると彼女は俺の胸に飛び込んできた。
「君には好きな人がいたよね?」
「あれは全部、嘘なの」
「嘘? それなら好きな人の話は君が作ったってことなの?」
「友達が言っていたことを、あなたに聞かせていたの」
「嘘だったのか」
「ごめんね。私が電車の中で倒れた時、あなたのことを少しだけ覚えていたの。優しく抱き止めてくれて、優しく横抱きにして、優しく声を掛けてくれて、優しく手を握ってくれて、とても嬉しかったの」
彼女は本当に嬉しそうに話す。
「あの日は本当に心配で、何をしたのかあまり覚えていないんだ」
「あなたは無意識に優しく私を介抱してくれたのよ。そんな優しい人を好きにならない人はいないわ」
「だから理由を作って俺に電話をしてきたの? 月や虹、流星群が見えるって言ってね」
「そうよ。あなたと接点がほしかったの」
「そっか。ヒドイことを言ってごめん」
「あれは本音なの?」
「俺は君と話すことが好きで付き合っているんじゃなくて好きでやってることだったんだ」
「本当?」
「うん。イライラしていて何も考えずに出た言葉なんだ。本当にごめん」
「いいよ、許す」
彼女はそう言って俺を見上げた。
やっと彼女の顔を間近で見れた。
可愛い彼女。
俺にはもったいないくらいだ。
「ねぇ、俺でいい訳?」
「どうしてそんなことを訊くの?」
「だって顔を見てガッカリだろう?」
「そんなことはないよ。大好きよ」
「何かそんな風に言われると恥ずかしいな」
「ねぇ言ってよ」
「君のことが大好きだ」
「嬉しい」
彼女はそう言った後、俺の胸に顔を埋めた。
「君は可愛くて、綺麗で、大好きで、そして一生、愛してる」
俺は彼女だけに聞こえる声で言った。
俺はずっと彼女を溺愛すると思う。
それほど彼女は可愛くて愛しいから。
読んでいただき誠にありがとうございます。
大切な人との出会いに感謝できたらいいですね。
次のお話は、好きな幼馴染みを遠くから見ている主人公の物語。
幼馴染みの彼女は、主人公の友達である学校一のイケメンと仲良く窓際で話をしている。
そんな二人を遠くから見ている主人公に、学校一の美女が同じことを見せつけてやろうと提案をしてきた。